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消費税4000円還付システムの仕様と問題点について考える

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消費税増税に伴う軽減税率の代替案としてマイナンバーカードの利用が考えられている。早くもふんぞり返った麻生太郎財務大臣の「マイナンバーカードがイヤなら還付はしない」という台詞が反感を買っているようだ。一般庶民は集団的自衛権には関心がないが、こうした話題には敏感に反応するので、発言には気をつけた方がいいと思う。
このシステム、意外と構築が大変だ。小売業者を信頼するならば、小売りのPOSシステムで「生鮮食料品」を判別させて、生鮮食料品の合計額データだけを送信すればよい。しかし、小売りを信頼しないとすると、全ての購買データに商品コードを添付して送ってもらわなければならない。全てのJANコードが標準化しているわけではないはずなので(野菜などはインストアコードというローカルな番号が振ってあるのだそうだ)、複雑な商品マスターを持つ必要があるかもしれない。それをいちいち役所側でチェックする事になるのだ。役所は膨大なデータを抱え込むことになるし、サーバーが落ちたら還付データは吹っ飛ぶ。もちろん蓄積されたデータは盗まれる可能性がある。データセンターがいくらになるのかという見積もりはない。
さらに「個人商店はどうするのだろうか」と思った。全国には飲食良品の小売りだけで39万店舗(平成19年当時)あるそうだが、JAN型のPOSレジを導入している店舗は全体で50万店程度だ。POSレジだけをみるとインフラは整っていると言えるかもしれない。朝日新聞が財務省への取材で確認したところによると、対象になる小売店鋪は75万業者あるそうだ。(2015.9.10追加)小規模業者には端末を無償で配るという計画を立てている。当然だが、これは税金である。税金還付の為に税金を使うわけである。費用は数百億円ということだ。
それでも店側で商品マスターを準備には手間がかかるはずだ。それらは維持コストとして商店にのしかかる。最悪の場合、個人商店では消費税還付が受けられませんということになるかもしれない。現在進んでいる商店街のシャッター化がますます加速するかもしれない。
昔はPOSレジの導入に100万円程度かかっていた様だが、最近では10万円くらいでiPadを使った端末が使えるのだそうだ。回線についてはあまり心配する必要はないのかもしれない。記事によると飲食店でPOSレジを導入しているのは約10%程度なのだという。業種によって偏りがありそうだ。iPadのレジ、クラウド型モバイルPOSが広まったワケ
通信仕様をクローズにするわけにはいかないだろう。つまり誰でも知っている(つまり誰にも盗みやすい)データが暗号化されているとはいえインターネットでやり取りされることになる。クレジットカードや金融機関並の仕様が求められるだろう。これを全国の小売店にあまねく普及させるわけだから、いかに野心的なサービスなのかがわかる。
と、具体的に考えてみると、財務省があまり何も考えずにこうした仕組みを想定していることが分かる。しかも年額4000円の還付の為にこのようなシステムを作るのだ。
反感を持つ人の中からは「国家が国民が何を食ったかまで把握しようとしている。コンピュータディストピアだ」という指摘も出ている。さすがにこれは言い過ぎだろう。しかし朝日新聞が「行動履歴、加工すれば売買可能に 個人情報保護法改正案」という記事を書いている。単に売買可能になるのではなく、個人が許可をしなくても売買が可能になるという点がポイントだ。現在の対象はSuicaなどの交通系カードだ。
こうした法律ができるのは、購買データがマーケターにとって大変価値のある情報だからだ。財務省が意図しているかは分からないものの、政府が収集した購買データは利権の温床になる。全国のほとんどの小売店を網羅する購買データなどというのは、マーケターや学者にとっては夢のようなデータなのだ。小売り業者に設備投資の負担を押しつけておいて、利権を自分たちで抱え込むというのは、なんとなく納得しがたいものがある。ビッグデータの利用には産業促進という側面があるので「いったん集めたデータを利用しない」という選択肢はないものと思われる。
お年寄りにマイナンバーカードを出させてスキミングする人は必ず現れるだろう。面倒な還付手続きを代行してあげますよと言ってATMに誘導する人も現れるに違いない。
最後に江川紹子というジャーナリストが「お母さんがまとめて買い物する家庭では世帯ごとでしか控除が受けられない」と言っている。裏技として家族分のカードを持って買い物に出かける主婦があらわれるかもしれないが、これは成り済ましになるだろう。
言うまでもないことだが、消費税を増税しなければこうした過大な投資も大げさなシステムも必要なくなる。