小西洋之参議院議員が憲法審査会の筆頭理事を解任された。立憲民主党としては早期解決を図りたいところだ。しかし釈明会見で議員は記者たちと激突してしまい「恫喝と取られかねない」などと報道されている。なぜか民主主義と報道という議論は深まらず、議論がプロレス化してしまっている。
先日お伝えした通り、小西洋之参議院議員が「毎週憲法審査会を開催する」ことをサルか蛮族かと表現し議員たちの反感を買った。早期解決を図りたい立憲民主党の泉代表は強い調子で小西議員を叱責し野党筆頭理事から更迭した。金曜日から始まった統一地方選挙への影響を最低限におさめたかったものと思われる。新しいパートナーである維新の反発も大きかった。
昨日、これについて書いていて「とは言っても野党議員の単なるTweet」であり、それほど大きな問題になることはないだろうと思っていた。
ところがここで問題が起きた。
小西さんは釈明の記者会見を開いたのだが「私は名誉を毀損されたと思っている」などと一部の放送局を批判した。Twitterでも「元放送政策課課長補佐に喧嘩(けんか)を売るとはいい度胸だ」と呟いておりこの発言が問題視されてしまう。
つまりムラを形成している記者たちが「自分達が直接圧迫された」と騒ぎ出したのである。今回の特徴は本来は影に隠れているはずの報道記者たちが当事者になっているという点にある。
例えばTBSは夕方のニュースでわざわざ後藤俊広TBSテレビ 報道局政治部長を出演させこの問題を取り上げている。
さらに立憲民主党の議員の発言を引用する形で、小西さんが放送局を恫喝したのではないかと仄めかす記事も配信した。さらに井上貴博アナウンサーが「自分達のこととなると甘いですよね」と批判のトーンを強めている。
実際の井上貴博氏の発言は下記の通りだ。
さらに、他党のことを徹底的に叩いて辞任要求をしています。どの党も指摘し合うのは重要ですが、貶めあっている様子を見ていると、政治全体、永田町全体の品位が下がっていくように感じます。
TBS報道局がこの問題をかなり「パーソナル」に捕らえており小西さんを問題視しているのは明らかである。
「サル発言」で小西議員を更迭 立憲代表が厳重注意 一方、別の問題も 立憲・幹部「これじゃ“記者恫喝会見”」
新聞社も小西さんには全く同情的ではない。
当事者のフジテレビは
小林毅専務は「(小西氏の)発言を聞いた人がどう受け止めるかが大事。フジテレビはこれまで通り公平中立な報道を続ける」と話した。
と語り視聴者に判断を委ねる姿勢を示している。
確かに表面上は「視聴者に判断していただく」という姿勢だ。だが、小西さんから圧迫された記者たちが小西さんに同情的な記事を書くはずはない。こうして結果的に「もっと重い処分が必要なのではないか」という空気が醸成されている。
立憲民主党はかなり対応に苦慮しているものと思われる。
統一地方選挙が始まると政治絡みの報道は抑制される傾向にある。つまり政治の枠が空いてしまう。
自民党と公明党は選挙戦が始まるのに合わせて子育てプランを発表し期待を集める一方で政府に関与できない立憲民主党にはそもそも有権者の期待を集める材料がない。
このタイミングで小西発言で「居丈高な政党だ」という印象がつけば、それが選挙戦に有利に働くことはないだろう。結果的に立憲民主党が躍進できなかった場合、小西さんだけでなく執行部がひきたてられ「針の筵(むしろ)」に鎮座させられる可能性がある。
民主党解体後無所属として事務所の維持に腐心してきた小西さんだがカウンター・アベ政治運動で政治運動体をなんとか維持していたという経緯がある。安倍派が退潮するに従ってカウンター・アベ政治運動も見直しを迫られていたのだろう。だが新しい争点を作ろうとしてもなかなか小西さんの思い通りには行かない。その苛立ちをつい放送局に向けてしまったのかもしれない。だが「法的手段」まで仄めかすのはPR上は極めて筋の悪い会見だった。
単に一つの放送局が攻撃されたわけではなく記者たちに敵意が向いていると捕らえられてしまった。これが記者たちを結束させ報道をある一つの方向に誘導している。
立憲民主党はこの件についてしっかりPR戦略を作り記者たちとのリレーションを維持すべきだった。
全体の経緯を見ているととても悲しい気持ちになる。
第一に一時は自民党の代替政党と期待されていた民主党は惨めに瓦解していることが明らかだからである。政党としての組織を作ることがそもそもできなかった。これは少なくとも保守とリベラル、右派と左派という枠組みの二大政党が日本では実現しないということを意味する。日本政治は今後も「利権をめぐる争い」から脱却できないだろう。
さらに、日本では放送法と民主主義のあり方というような大きな問題について議論が進まないのだろうかと思ってしまう。論点を整理して議論を主導する枠組みが議会にないのである。文書リークから始まった問題はたんなる高市大臣の吊上げに終始しこれといった結果を何も残していない。
今回の件では記者たちも巻き込んだ泥沼の劇場化が進展している。記者たちもまた自分達の報道機関としての価値を毀損しているように思える。どうしても小西さんが絡むと「内輪で何かゴタゴタと争っている」というネガティブな絵しか作られない。井上アナウンサーの言い方を使うと「政治報道全体の品位」に影響を与えているように感じます、ということになる。