G20の財務相・中央銀行総裁会議には2つの焦点があった。1つはロシアに対する経済制裁問題だが、西側諸国の優位性を崩したい中国が「地政学的理由」で反対をしている。もう一つの問題は途上国の債務再編問題である。パリクラブが中心となって進める西側諸国主導体制を崩したいという思惑もあるのだろうがおそらくは中国の国内事情もあるのだろうと感じた。
G20の会合に合わせて開かれた債権国の会議ではG20の間に見解の相違があり意見がまとまりそうにない。インドは隣国に債務国であるスリランカ、バングラディシュ、パキスタンを抱えているためどうにかしてこの問題をまとめたい。だがここにも中国の存在がある。
ロイターの記事は「今後も対話を継続する」と結ばれているため「G20、途上国の債務再編で見解の相違=IMF専務理事」暗礁ではなく「見解の相違」となっている。
スリランカがすでに破綻したこともあり債権国の間には「途上国の債務を軽減してはどうかと」いう声がある。そもそも「支援」という側面があるうえスリランカのように破綻国が出るとそもそも投資が全く回収できなくなる。
このため、先進債権国はすでにパリクラブという枠組みで債務を調整している。例えばこの枠組みによって救われた国にアルゼンチンがある。
- 政府、パリクラブと延滞債務の繰り延べで合意(JETRO/2022年11月07日)
しかしながらこの枠組みに協力しない国がある。それが中国だ。
中国はこうした枠組みには入らず二国間融資で入り込む。二国間融資の規定の中に「優先して中国に返済をしなければならない」という条項が入っているのが厄介だ。この秘密条項については2022年4月に日経新聞がすでに記事を書いていた。パリクラブが債務を整理しても中国の融資はそれを拒否できる条項がはいっているものとみられている。また融資の間は中国に敵対的な行動を取ってはならないという決まりもあるという。中国にとって融資は安全保障上の位置付けがあるということがわかる。つまり相手国の返済能力を度外視して融資が行われている可能性がある。
これまでマネーが潤沢に流れている時代にはこれが問題にならなかった。ただしこの記事が書かれた後、アメリカが国内インフレに対策を取るために利上げを始めている。デカップリングの影響や中国経済の減速などの要因も重なり中国の取り立ては厳しくなっているものと思われる。
歴史的な経緯を経てある程度融資が管理できている西側先進国と違い、おそらく中国には中国ならではの事情もあるだろうと感じる。中国が債務国になってからあまり長い時間が経っていない。つまり中国は金融市場の突発的な混乱には脆弱なはずなのである。
中国では民間金融機関を使った融資が多いものと思われる。だが、政府が民間投資をきちんと管理しているとは言い難い部分がある、中国が安易に債務整理に応じてしまうと中国の金融機関が行き詰まるというようなことが起こりかねない。
中国の銀行では違法な投資が横行していることは広く知られている。例えば、河南省鄭州市では金融詐欺事件が起きた。当局がコロナアプリを悪用してデモの参加者が河南省入りできないようにしたことからおそらく地方政府の役人たちも絡んでいるものと思われる。この時の詐欺の舞台になったのは村鎮銀行という市民向けの貸付期間だった。銀行の内部に詐欺案件を扱う窓口があり利用者たちは気がつくことができなかった。事件はうやむやのうちに幕引きとなったが河南省政府は不払いになった資金を政府が肩代わりすることで事態をようやく収拾した。
役人が関与しているにも関わらず政府が必ずしも状況を判断できていない。中央集権・党指導の中国ならではの複雑な事情が垣間見える。中国が中央政府主導で債務を再編するとおそらく行き詰まる地方が出てくるだろう。そもそも統計が当てにならない国であり報告は地方官僚の保身のために歪められてしまう。
ただし今年破綻を迎える国はそれほど多くないとみられているそうだ。貸し出しにはサイクルがあり今年大きな返済を抱えている国はそれほど多くないのだという。2022年12月の記事によると現在最も危険なのはパキスタンだ。
システムは複雑に連携しておりどこから火がつくかはわからないと言った状態はおそらく温存されている。前回のリーマンショックの時の発端は返済能力に乏しい人たちへの貸し出しが問題視され「サププライムローン問題」などと言われていた。現在は途上国と中国の関係に同じような問題が見え隠れする。必ずしも返済能力が十分でない国への貸し出しが行われている上、先進国への返済よりも中国への返済が優先されるべきだという約束をさせられている国が多い。これが予想外に多かったということになれば先進国の金融市場が動揺しかねない。
今年は国家デフォルトの危機はあまり起こらないだろう(ただし一部の例外を除いては)という状態だが、もちろん不安がないわけではない。ブラジルでは左派のルラ政権が誕生し、トルコも選挙を控えている。アルゼンチンでも選挙が行われるそうだ。こうした国では権力維持のためにバラマキが行われることがあり財政の悪化が懸念される。
西アフリカの大国のナイジェリアはすでに投票が実施され選挙結果が出るまでに数日かかる見込みだ。
また、アメリカも可能性は低いが理論上はデフォルトに陥る危険がある。議会と大統領の関係が必ずしも良くないのが原因である。本来起こるはずのないデフォルトが人為的に引き起こされる可能性はまだ少なからず残っている。
国際金融はかなり複雑に絡み合っており一つの問題が連鎖反応的に他地域に及びかねない。国際金融市場の安定やアメリカの金融政策の正常化は日本が金融正常化に向かうための必要最低条件だ。決して他人事ではないという気がする。
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