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LGBT問題に見る「政治的影響力を持つ」とは日本ではどういうことなのか

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森雅子首相補佐官がLGBT担当に決まった。総理と周辺の不規則発言がきっかけになっていたため、個人的には「なんだ支持率を上げるためにやったフリか」などと反発した。だが、それよりも重要なことに気がついた。日本で政治的影響力を持つとはどういうことかという視点だ。数の力を背景に「業界団体経由で政府に働きかける」というのは意外と簡単なライフ・ハックなのではないだろうか。気がついていない人が多いだけに早くやったほうがトクである。

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森雅子首相補佐官がLGBT担当に決まった。そもそもLBGT担当とは何をする人なのだろうか?と疑問に思った。答弁は大臣の仕事なので議会対策の担当者ということではなさそうだ。答えは共同通信に書いてあった。

森補佐官は10日に同性婚実現を目指す団体のメンバーと面会した際、性的少数者の人権を担当する補佐官を置くよう要請され「受け皿はなくてはならない。必要だ」と理解を示していた。

業界団体との受け皿なのである。

一般常識的に考えると「同性愛に業界団体などあるはずはない」ということはわかる。つまりこうした団体が全ての同性愛者を代表しているわけではない。そもそもLGBTという概念はこれまでのような枠に当てはまらない多様な人たちの集まりなのだから団体の作りようなどない。当事者の中にも同性婚をしたいという人もいれば「とりあえず放っておいてくれればいいや」と考える人もいるだろう。

ただ戦後の自民党政治の成り立ちを考えると「ああこうなるだろうな」と理解もできる。自民党は元々イデオロギー政党ではなく各種利権団体との間にパイプを持つ利益分配型の政党である。例えば「農家の団体」とか「郵便局の局長の団体」とか「お医者さん・看護師さんの団体」などを集まりなのだ。今回ここに「LGBT業界」が加わったことになる。

これまでLGBT業界は主にリベラル系の野党に接近していた。自民党はこれを自分たちの陣営に引き入れたいのである。主語はあくまでも政権になっているのだが、おそらくは選挙対策である。

日本は利権団体というムラに自民党が利益を流すという利益分配がベースになっている。これが日本に二大政党制が成り立ちにくい要因だ。政権が取れない政党に陳情を繰り返しても法整備が実現する可能性は極めて低い。政権を取れない全国政党が政権与党の足を引っ張るのはそのためである。足の引っ張り合いを続ける野党が政策の立案に集中することはできない。

こうした事情があり、各種団体は政権を持っている自民党に接近することになる。最近では労働組合の「連合」が自民党大会に出席するかもしれないというニュースがあった。最終的には内部の反対で実現しなかったようだが、労働組合でさえも自民党とのパイプを求めるという現実がある。また自民党も連合を味方に引き入れて野党から票を奪いたいという気持ちがある。

おそらく政治に詳しい人ほど「森補佐官がLGBTとのパイプになる」という表現に違和感を感じなかったはずだ。それぞれの業界団体が代表する人が多ければ多いほどそれが「票」に見えるからだ。むろん「本当にそんなムラがあるのか」は疑問だが政治も政治マスコミもそれくらいのレベルの理解しか持っていない可能性が高い。

こうした業界団体政治にはデメリットが多い。

利権を通じて政治と各種団体がつながっているということはすなわち利権が分配できなくなると政治と国民の間にパイプがなくなるということを意味している。地方政治ではすでにこれが起こり始めている。議員のなり手がいないという市町村が増えているのはそのためだ。またインフラ整備をやりますと約束しても票が集まらない市町村長候補者も多いようだ。給食費を無償化しますという約束だけであっさりと当選する人もいる。

さらに「子育て世代」には「業界」はない。一般国民は「子育て世代連合会」に入っているという認識はないだろうしおそらくそんな団体もないはずだ。これが「支持政党なし」が58%以上になるという結果につながっている。伝統的な政治姿勢の岸田総理の支持率は30%以下にとどまっている。

例えば「賃上げをしてください」という政府の要望も業界団体経由で行われる。業界団体と政府は持ちつ持たれつの関係でありお願いをしたり聞いたりしているからである。業界団体が企業全体を捕捉できなくなると当然賃上げも起こりにくくなる。

一般に働きかけるためには業界団体政治は効率が良くない。政府が「是非子供を作ってください」と呼びかけても国民が応じないのは政府が一般国民に向けたメッセージングをしてこなったためだろう。

岸田総理がやたらにリベラルアピールしているのは実はこうしたまとまりのない人たちを票田にするためだ。つまり利権分配型の政治が成り立たなくなっているため首相が先導して「一般アピールして」無党派層を取り込む必要がある。だが実際にやっていることは「業界団体の囲い込み」になってしまっている。これが当たり前と考えておりその前提から抜け出すことができないのだろう。この矛盾が解消されない限り政権の支持率は回復しないだろう。

このようにデメリットが多い業界団体政治だが、政治的に何か通したいことがある人は是非業界団体を使って政治に働きかけるべきだろう。とにかく政党は票になると思えばなんでもやる。こうして政権ぐるみで担当者くらい簡単につけてくれるわけだ。

むしろこれまで業界団体がなかったところほど「新規票の掘り起こしになる」として熱心に取り組んでくれるのではないかと思う。意外と簡単にでできる「ライフ・ハック」なのではないかと思う。知っておいて損はないだろう。

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