共同通信が中国女性「沖縄の無人島を購入」 SNS投稿に注目集まるという小さな記事を出している。見出しが地味なこともありおそらくあまり日本で大きく話題になることはないだろうが現在の中国人がどのような政府報道に晒されているのかがよくわかる。会社で無人島を買うことが無邪気に「領土獲得」とみなされてしまうのだ。
まず記事の内容をおさらいする。記事自体は非常に他愛もないものだ。
- 中国人の30代女性が島を買ったと投稿した。
- 会社が所有しているのは5割程度。
- 登記上の所有者と同名の会社は公式サイトで「リゾート開発計画を進めております」としている。
- 中国SNSで「領土が増えた」などと注目を集めた。
中国人は母国で土地を買うことができない。このため土地を所有することと統治することの区別がついていないことがわかる。しかしそれでも島の購入が即座に領土獲得を想起させることなどないはずだ。つまり南沙諸島への海洋進出などを通じて中国政府が領土獲得を宣伝しているのだろうと言える。中国は世界に引けを取らない豊かな国になった。次は強い国であるということを世界に認めさせようというわけだ。
こうした他愛もない誤解がすぐさま日中両国の国際問題に発展することはないだろう。せいぜい中国人資本のリゾート施設建築のために中国から大勢の労働者がやってきて伊是名村が中国人だらけになってしまうくらいのものである。
共同通信のいう「SNSでの評判」が実際にどれくらいのものかはわからない。だが、中国人が無邪気に「領土獲得」に歓喜しているとしたらそれはやはり問題である。米中関係は実際に緊張しているからだ。
中国政府が2035年に向けてアメリカに対抗するために核弾頭の数を増やすそうだ。「中国、核弾頭3倍増の方向 米対抗、35年までに900発」という記事を共同通信が出している。そう言えば気球騒ぎの時にもアメリカの大陸弾道弾の基地の近くを掠(かす)めたという報道があったなと感じた。アメリカの核攻撃を実際に心配しているんだなと感じた。
共同の記事は冷静なトーンで書いているが、地域で海洋進出したい中国がアメリカからの大陸弾道弾による攻撃を警戒していることがわかる。アメリカの大陸弾道弾がどれくらい北京を向いているのかというのは最大関心事に違いない。ただアメリカが中国を攻撃しないですよと言ってしまうとおそらく中国は「動く」のだろう。今は「動いたらやられかねない」と行動を控えているだけなのだ。
アメリカ合衆国もこれがわかっている。「現在の世界情勢とは無関係だ」などと言いながら偵察気球事件直後にICBMの発射実験をやっている。アメリカ国内には「バイデン政権は中国に対して弱腰なのではないか」という懸念がある。世界情勢に対する懸念というより国内向けのアピールも含まれているのかもしれない。
このように東アジア情勢が緊張する中、韓国では独自核武装の議論が目立つようになってきた。これまでは韓国国内の報道に終始していたがCNNが「米国の「核の傘」、韓国から信頼を失いつつある理由」という記事を出している。トランプ大統領に批判的な立場だったCNNとしてはトランプ大統領のせいで韓国世論がアメリカの核抑止力を疑うようになったという見方をしたいのだろう。バイデン大統領がこれまでどおりに振る舞ってもこれまでのようには信頼されないだろうと書いている。
CNNには非常に申し訳ないのだが、アメリカ政治の分断に起因する不安定さそのものが韓国では問題になっていると考えた方が良さそうだ。実際に米国議会の状況を見ていると「これは大丈夫なのかなあ」と感じることが多い。
日本では米中対立というと中国を非難して終わりになることが多い。どちらかと言えば「そうはいってもいざという時にアメリカが助けてくれるだろう」という安心感がある。あるいは不安を感じたくないという自己防衛的な気持ちが働いているのかもしれない。
ところが、実際には米中双方に原因のある関係対立は激化している。アメリカ側には政治の分断があるがおそらく中国側でもおそらく民間が沸き立つ程度には「海洋進出を通じて世界に躍進する強い中国」という宣伝をやっているのだろう。体制の違うはずの二つの国だが、民衆を引きつけておかないと政府の求心力を保てないという意味では同じようなことをやっている。
G7で岸田総理は「核なき世界を世界の指導者に訴える」と主張している。確かにそれは美しい話ではあるのだが、おそらく世界情勢はそれとは全く違った状態に走り出している。
防衛力を増強すると言っているがやはりアメリカ頼みという前提がありその枠から議論が逸脱することはない。日本人はどこかで防衛力議論に見えない枠を設定しているようだが、現実はその先に向かって走り出している。
数年前は「憲法9条護憲か改憲か」という議論しかなかった。これを考えると、実はかなり状況が悪化していることがわかる。「坂道を転がり落ちるよう」にというが、一旦状況が悪化してしまうと歯止めが効かなくなると痛感する。
中国を声高に非難し防衛費を増やしてアメリカに依存するだけでは状況は改善しそうにない。面倒な時代になった。