ざっくり解説 時々深掘り

自閉症と表情の読み取り

朝日新聞に面白い記事が載っていた。『自閉症、ホルモンを鼻に噴射して改善 東大チーム』
この記事を読んで面白いと思ったのは「経度の自閉症」と呼ばれる、意思疎通に問題を抱える人の症状についてだだ。記事によると彼らは、他人の表情や声色を読み取るのが苦手らしいのだが、その率は健常者の84%もある。これを0.96 X 0.84と計算してよいなら、正解率は8割もあることになる。もちろん「経度の」ということなので、個人差はあるのだろう。それでも「症状として認知される」くらいだから、問題は顕在化しているのだろう。つまり、今の社会で「お互いの表情を読み合う」能力はかなり高くなければならないということになる。
朝日新聞では東京大学の研究を掲載しているが、ネットでは金沢大学の取り組みがヒットした。オキシトシンと自閉症の関連を最初に見つけたのは金沢大学のようだ。金沢大学のページによると、オキシトシンによって表情読み取り以外にも生活の質が向上する事があるらしい。
この記事を読んで別の疑問も生まれた。最近では「自閉症」という言葉への理解が深まり、発見される率も増えてきているのだろう。しかし、例えば戦後すぐにうまれた人たちの中には、こうした「問題」を持ちつつも、自閉症という診断名を持っていない人もいるのではないかと考えられる。アメリカで自閉症が「発見」されたのは1943年の事だそうだ。また、知能が正常程度だがコミュニケーションに問題がある高機能自閉症はそれよりも遅れて認知されたらしい。(Wikipedia
こうした人たちは、他人の言っている言葉の意味が良くわからない。例えば、にやにや笑いながら、親愛の情を示すつもりで「バカだなあ」などと言われたときに、本気で怒り出してしまうということも考えられる。また、愛着が他のひとよりも薄い可能性がある。
男性の場合「男は黙っているべきだ」という価値観があるために、こうした問題は表面化しないだろう。しかし、表面化しないので「あの人は冗談が分からない」とか「家庭での何気ない会話(こうした会話は会話自体にはほとんど意味がない)に混じれない」といった、弊害があっても顕在化しないかもしれない。その弊害といっても経度の場合は、わずか2割程度の微妙な会話が分からないだけなのかもしれないのだ。
女性の場合には別の問題があるだろう。かつては「女であれば子どもさえ生まれれば即座に情愛が湧くはずだ」とされていたわけで、「子どもがカワイイと思えない」(オキシトシン不足なのだから当然なのだが)とか「子どもが自分に愛情を向けているのか分からない」などと言った問題が出てくる可能性がある。つまり「母性に目覚めない」のだが、それを「個人的な問題だ」と感じていた人がいただろうということである。
この記事では「既に自閉症だということが分かっている人」と「オキシトシン」について書かれているのだが、実際には「自閉的な傾向を持つものの、それが生涯発見されなかった人」と親子関係を持っている人が「親だったら当然持っているであろう親密な関係」を築けなかったという可能性も示唆しているのだと思う。
100x100戦後「家」は社会的制度からより親密でプライベートな存在へと変化してきた。このため、プライベートな空間で親密さを築けないことは、重大な問題になりえる。また、社会生活においても「表情を読み合う」必要性が増しており、ちょっとした表情が読めないことが深刻な問題になり得るのだ。


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