ラジャパクサ大統領がモルジブに逃げてからしばらくが経った。大統領権限がないと不逮捕特権がなくなってしまうため海外に出てから電子メールで辞任表明したことが話題になった。このため今は前大統領ということになっている。そのラジャパクサ前大統領がスリランカに帰国した。これだけでは大して大きなニュースとは言えないのだが、そのあとの展開は驚くべきものだった。37名の縁者たちに閣外大臣ポストがばらまかれたのである。
ラジャパクサ前大統領は軍用機でモルジブにゆきそこからシンガポールを経てタイに流れつうた。ところがタイは政変不安を抱えているためタイ政府はラジャパクサ氏の行動を大きく制限する。タイ政府は永住を認めるつもりはなく「短期滞在である」という点が強調された。どこに行ってもスリランカ国民の反発が大きいうえに国際社会からの反発も恐れたのだろう。「ややこしいことはごめんだ」ということだ。
その後しばらくしてタイの首相に職務停止が命じられた。ただしいまだに職務停止状態であり選挙は決まったわけではない。タクシン元首相の娘が新しい首相の選出を求めているというのが最新の状況だ。
ラジャパクサ前大統領はスリランカに戻ってきたがスリランカにとどまるつもりはないようだ。アメリカにグリーンカードの申請をしている。面倒なことが多い国から逃げ出そうとしており国を救うために自分の人生を犠牲にするつもりはない。
ただ滞在している間は身の安全を確保しなければならない。おそらくそのために考えたのが地位をばらまくことである。日本語ではAFPが閣外大臣の37人を指名したという記事が出ている。全員がラジャパクサ氏の政党に属しておりラジャパクサ家のメンバーも入っているという。帰国後すぐにこうした措置が取られたところから「なんらかの協力を期待してばらまかれた」ことは明白だ。
特別職のため給料は支払われないが、燃料込みの車3台、官舎、ボディガード、私設秘書、切手購入費(日本でいう文通費のようなものがスリランカにもあるのだ)が支給されるという。外貨不足でガソリンが手に入らないスリランカでは燃料の入った車は貴重品である。また切手購入費という名目で賃金のようなものを支払うこともできる。通勤のためのガソリンも手に入らない国民から見ればまさに特別待遇の上級国民ということになる。
英語で37人の大臣で検索したところ、The Hinduというメディアの記事が見つかった。37名という数の多さが写真でよくわかる。State Minsters(国務大臣)と紹介されている。
- スリランカは37人の国務大臣を指名。
- ウィクラマシンハ大統領が経済回復を模索する中の出来事。
- 一部汚職や暴力の疑いがある人が含まれている上に、甥のシャシンドラ・ラジャパクサ氏も含まれている。
ロイター通信によるとウィクラマシンハ大統領は財務大臣を兼ねる(つまり債務再編交渉の責任者としてとどまる)が2名の補佐役の「国務大臣」がついたようだ。ラジャパクサ派の要望を伝えるという役割があるのかもしれない。
ラジャパクサ氏の兄は内戦終結の立役者である。The Hinduの記事を読むと今回閣外大臣に任命されたのはその時の仲間と同盟者のようである。美しい言葉で言えば「厳しい時代を乗り越えた絆」が生きており地位で報いていることになる。だが国家デフォルト後の貧困に喘ぐ庶民から見れば裏切りでしかない。
ウィクラマシンハ大統領はこれを認めざるを得ない事情があるのだろう。ウィクラマシンハ氏は大統領ではなく大統領代行にすぎない。いわば選挙管理体制の代表者である。国会の勢力はいまだにラジャパクサ一派が握っている。野党は協力を拒否しておりラジャパクサ一派が支配する議会とうまくやってゆくしかない。IMFなどと交渉するためには議会に働きかけて妥協を引き出さなければならないからだ。
外から見ると理不尽にしか思えないのだがスリランカの政治はこうして進んでいる。日本を含む債権国はこのスリランカの政治を説得して身のある返済計画を認めさせなければならないのだ。