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なぜパキスタンの洪水は国の1/3という広範囲に及んだのか?

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パキスタンで大規模な洪水が起きている。なぜこんなことになったのかを調べて見た。

何が起きたのかはビデオを見るのが手っ取り早いと考え、まずはYouTubeのビデオを集めた。ドローンで空撮している映像には迫力がある。

次に原因について調べるためいくつか記事を読んでみた。日本の洪水は数日程度で引いてしまうのだがパキスタンではこの状態が6月から続いており今も収まる気配がない。日本と違ってインダス川の入り口は一つしかなく水が引いて行かないのだ。ただ問題は地形と気候変動だけではない。貧弱な治水・灌漑設備に加え政治的無策の影響まで受けている。

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まだテレビなどで様子を見たことがないという人はまずYouTubeを見て状況を確認していただきたい。おそらく状況を理解するためには現状を見るのが一番手っ取り早い。

地球温暖化の影響

なぜこんなことが起きたのかと問われればおそらく多くの人が「気候変動の影響」を指摘するだろう。パキスタンには西側の砂漠地帯を越えて来た乾燥した空気が流れ込む。一方で、南からは湿った空気も流れ込んでいる。偏西風が大きく蛇行していない時にはこの二つがある程度のバランスを保っていたが2022年にはこのバランスが大きく崩れたようだ。アラビアの砂漠から入ってきた乾燥した熱風が雨によって冷まさなかったことで猛暑となり今度は遅れてやってきた雨が豪雨をもたらした。このためパキスタンは猛暑と豪雨に襲われることになった。雨は6月から降り続いている。

南部では平年降水の7倍近くの雨が降っているそうだが一部のYouTubeビデオはこれに先立って北部で氷河で溶けていた様子にも触れている。つまり、熱波と多雨の合わせ技で洪水が起きている複合的な気象災害であることがわかる。

パキスタンは「巨大な関東平野」である

日本でもこうした多雨による洪水は起こる。しかし西から入って来た空気は東に抜けてゆくため降雨が長続きすることはない。また四方が海に囲まれているため海に排水できれば洪水被害は収まる。だが、パキスタンはそうはゆかない。

インドは大きな陸塊がアジアの陸塊にめり込んで作られた地形だ。このためヒマラヤは高い山になりインド世界を他のユーラシア世界から分けている。この境目はうっすらと残っていてインダス川・ガンジス川という境界線が作られている。この二つの大河がヒマラヤからの土砂を運び沖積平野を作る。これは群馬・栃木の北にある山からの土砂が利根川によって運ばれるのに似ている。

つまり、パキスタンは国全体が「巨大な関東平野」のような状態になっている。パキスタン単体で日本の2倍以上の面積があるそうだが水が抜ける入り口はアラビア海に面した一箇所しかない。これも関東平野に似ている。北関東の山々から乗って来た土砂が関東平野を作ったということは平野全体が氾濫原だったということを意味している。日本は流路を東に変えて太平洋に水を流すことで江戸の治水事業を行なった。だが、インダス川の流路を変えることはできない。単純に出口になる海がないからである。

灌漑と治水の影響

実はパキスタンの大洪水は2010年にも起きていた。この時には2000万人の被災者を出し国土の5分の1を水浸しにしたとされている。原因の一つとされたのが灌漑設備である。周囲をのうちに変えるために灌漑設備が作られた。ダムや堤防で治水を行なったため急に降雨量が増えると対応ができないようだ。

もともと沖積平野は氾濫原に山からの泥が溜まってできた地形である。インダス川やガンジス川の周辺に泥が溜まっているということはその近くまで洪水が及部可能性があるということだ。川に人工物を作って治水を行い周囲を農地に変えるのだが近年の急激な気象変化について行けなくなっているというのがパキスタンの現状のようだ。

政治の不在

今回の被害がどの程度のダムや堤防を破壊したのかについてはよくわかっていない。Twitterなどでは様々な数字が飛び交っているが「ひとまず雨が止まないと全容が把握できない」というのが正直なところのようである。ブット外相は「IMFだけでなく、他の国際機関や国際社会が被害状況を把握することを望む」と言っておりそもそも政府が各地の状況を把握する能力を持っていないことがわかる。

パキスタン政府は「洪水により、道路や作物、インフラ、架橋が流され、過去数週間で少なくとも1000人が死亡、人口の15%以上に相当する3300万人超に影響が及んでいる」としている。つまりもう数週間も雨が降り続いており当座の危機がいつおさまるかすらわからないのである。

パキスタンはIMFからの借り入れを行なっていたが政府の放漫財政が疑われ現在融資は停止されている。カーン首相は議会から不信任案を突きつけられ退任を余儀なくされた。経済再建の約束を満たすことができず国民から失望されたという説明がされているのだが、一部では軍部から離反されたなどとも言われている。シャリフ首相はIMFの要求を満たすために燃料価格の引き上げを決めた。これが一部の国民から反発されている。国会から追放されたカーン氏は院外から盛んに政府を批判しているがテロの容疑で捜査対象になっており政治的な混乱の予想される。カーン氏には一定の国民支持があるため保釈期間は延長されているという状態である。

とはいえ被害は甚大

とはいえ被害は甚大だ。周辺が海のようになっている上に水を汲み出す余地がないうえに、いつまで多雨の状態が続くのかはわからない。パキスタン政府には現状対応能力はなさそうだ。おそらく各国が援助しなければ問題は解決しないだろう。

IMFは緊急援助を決めたが洪水には言及しなかったそうだ。そもそも経済が悪化しており政治的にも混乱している。パキスタンが返済計画を実施できる見込みはなくなった。洪水の影響はこれから織り込まれることになる。

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