ざっくり解説 時々深掘り

バタバタと景気急減速対応する中国金融当局。預金封鎖を恐れた北京銀行の預金者が引き出しに列を作る騒ぎも。

もともと不動産投資市場に不安のある中国は新型コロナ対策のロックダウンの影響で景気が急減速している。このため政府は直接的な救済策として6兆円の資金を準備した。さらに利下げを行い市民や企業が資金の資金調達を助けている。長期金利の方が優遇されており短期ではなく長期の資金需要を誘導したい狙いもうかがえる。

一方、市民の中には政府や金融機関を信頼していない人が多い。北京銀行ではある通達をきっかけに預金者が預金引き出しの行列を作っている。河南省で起きた預金封鎖騒ぎを想起した人も多かったのではないかと思う。

よく中国の金融市場が「崩壊するのではないか」という話が聞かれる。意外と持ちこたえているようだが内情はかなり危うい状態になっているのかもしれない。中国当局も影響の大きさを測りかねており、シャドーバンキングの監査姿勢を強めている。

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先週の2022年8月19日、中国人民元が約2年ぶりの安値になったというニュースがあった。この時のニュースでは「今週に予想外の利下げを実施したため」と説明されていた。

この時に利下げされたのはMLFと呼ばれる中央銀行からの中期貸出制度の1年もの金利だった。Bloombergのエコノミストが全員据え置きを予想していたために大きなニュースとなった。利下げが行われたのは各種の経済指標が思わしくなかったためだ。ゼロコロナ政策の影響だ。

この時には「シグナル効果」の意味合いが高いと分析されていた。

2022年8月22日に最優遇貸出金利も引き下げられた。こちらはローンプライムレート(LPR)と呼ばれるそうだ。ある程度織り込まれていたため8月15日の金利引き下げほどのニュースにはならなかったがやはり人民元安に動いている。そしてこの時点で「中国の中央銀行が金利を下げた」としてニュースになった。ロイターの記事は「中国政府は長期資金需要を高めようとしている」と分析している。長期金利を優遇しているためだ。

一方、共同通信は別の事象に注目している。それが中国の金融市場の安定性だ。8月17日に「公的資金が6兆円注入された」と伝えている。事情はなかなかに複雑だ。新型コロナ禍の影響もあり住宅工事がなかなか完成しない。そのため購入者が完成していない住宅のローンは支払えないとして返済を拒否している。これが続けば中小の銀行が破綻しかねないため中国政府が銀行をバックアップしようとしている。

原因はよくわからないものの人々が不動産市場に殺到していることがわかる。このため原材料や労働力が不足する。さらに政府が突然経済を全面ストップするといよいよ住宅の完成が遅れるという状態になっているようだ。カネの動きが突然止まれば確かに中小の金融機関は破綻しかねない。政府の政策によって人々が一斉に動き、政府の政策で人々が一斉に止まるという専制主義国家ならではの問題だといえる。

では人々が当局を信頼しているのかということになる。これもどうやらそうではないようだ。

北京銀行で預金引き出し騒ぎが起きていた。Abemaニュースによると公的医療保険の個人負担分を積み立てる口座から目的外の預金引き出しが制限されることになった。ニュースによれば「保険金のための預金口座」の支払いが9月1日から医療目的の支払いのみに限定される。

ある目的のための口座をその目的のために使えと言っているだけなのだから問題はなさそうだ。だが、これに反応して北京銀行の預金者たちが預金引き出しの行列を作った。中国メディアは「医療費が高騰しているため財源を確保しなければならない」と説明しているそうだが、公的な説明をどれくらいの中国人が信頼しているのかはよくわからない上に河南省の村鎮銀行で取り付け騒ぎが起きていることを人々は熟知している。

様々なニュースを総合すると強力な新型コロナ対策のために経済が停滞しており、その影響でこれまでも危ういとされていた金融機関がいよいよ危ない状況になってきているようだ。

これらの情報を最もよくまとめているのが日経新聞だ。

  • 中国国務院は18日の常務会議で「企業や個人のローンのコストが下げる」と宣言した。
  • ゼロコロナ政策で移動制限が厳しく制限されているため内需の戻りが遅れており資金需要もさえない。景気の回復が遅れている。
  • このため中国では今年に入って三回目の利下げが行われた。

中国の資金需要が伸び悩む中で消費者物価指数は3%程度の値上がりを起こしているという点が懸念される。コストプッシュ型のインフレの予兆である。輸入食料品やエネルギー価格の高騰という条件は西側先進国や新興国と同じだ。にも関わらず、政府が政策を細かくコントロールしているためまかり間違えば空中分解しかねないという中国特有の危うさがあるのだ。

ロイターの英語版は【独自】記事として中国の銀行規制当局が国内外の金融機関の不動産ローンポートフォリオを精査し始めたと報道している。Bloombergはそれより早い8月9日に「中国当局、信託業界への異例の監査を指示-業界の改革に道か」という記事を出している。中国にはシャドーバンキング(影の銀行)というものがある。富裕層向けに販売されデフォルト(債務不履行)に陥った不動産開発業者関連の投資商品が約580億元(約1兆1600億円)相当に上るのだという。庶民はなけなしの預金を失いかねないと感じているようだが、実は富裕層はすでに財産を失いつつあるのである。

この二つの記事を連結していいものかどうかは悩ましいが、金融機関に監査を指示したものの成果がはかばかしくなかったために当局が独自で調査を始めたと読み取ることができる。先週から今週にかけてバタバタと起きた一連の動きは中国政府が不動産バブルの崩壊を真剣に懸念し始めたという兆候なのではないかと思うのだが「実はこれから精査が始まる」という点に少し恐ろしいものを感じる。つまり当局も影響の範囲を測りかねているようだ。

これまでも中国経済が崩壊するのではないかなどということはよく言われてきた。しかし中国経済は崩壊せずそれなりの成長を維持していた。しかしながらその内容をつぶさに観察するとかなり危ない橋を何度も渡っているようだ。つまり崩壊しないことの方が危険なのかもしれない。

小さな揺れが何回も続けばそれを修復しつつシステムの回復を図ることができる。しかしながらこれを抑えると結局大きな揺れに見舞われ回復不能のダメージを負いかねない。習近平国家主席は「共同富裕」というスローガンでこれを沈静化しようとしているようだが、細かな状況を見る限り内情はかなり厳しいようだ。

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