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中国経済の商才なき「資本主義ごっこ」のツケ

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先日のスリランカの記事「中国は資本主義ごっこをしている」と書いた。これだけでは単なる誹謗中傷になりかねないため調べて見ることにした。総論すると資本主義というより「お金を増やすゲーム」になっている。これが地方政権と結びつき不透明な資金調達も起きているようだ。習近平国家主席は「共同富裕」という社会主義化でこれを抑えようとしているようだが、必ずしもうまくいっていない。華僑など海外に出た中国人は商才があるという印象を持っていたため、いくつかの記事を読んだ後の印象はかなり意外なものだった。

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胡錦濤政権が問題を作り出し、習近平政権が対応している

今回はニュースではなく、過去の記事をいくつか読んで見ることにした。最初に読んだ記事は2021年9月に書かれたものだ。恒大集団によるデフォルト懸念を受けて過去を整理している。第一生命経済研究所の西濱徹さんの記事は壊滅的にわかりにくいが面白い材料をいくつも掘り出すことができる。

  • 中国では民間債務が膨らんでいる。習近平政権はこれを抑えようとしているがあまりうまくいっていない。
    • 中国の民間債務問題は高確率で問題を引き起こす「灰色のサイ」と呼ばれている。
    • 民間債務が膨らんだのは、胡錦濤政権の景気刺激策のおかげで企業を中心に債務を積み上げたことだった。
    • 「影の銀行」を通じた資金調達が景気回復を後押ししてきたが、金融市場が不安定化する「システミックリスク」に発展する恐れがあり習近平政権のもとで債務抑制が進んだ。
    • 2014年の金融緩和をきっかけにした金余りを受けて2015年までには株式市場がバブル化していた。景気抑制のために人民元相場の切り下げが行われたが「チャイナショック」と呼ばれる株価暴落が起きた。
  • 最近では米中経済摩擦コロナによるロックダウンなどの問題も起きている。このため中国は金融政策をハト派的に動かしたい。しかし過去の経緯から見るとこれは家計の債務を拡大させるだろう。
  • 不動産投資は依然活発
    • 中国の民間債務の規模は日本のバブル期を上回る。家計債務も急拡大しておりこの動きの背後で不動産投資が活発化している。
    • 習近平政権は「共同富裕」を盛んに訴えている、国家関与で市場の歪みを取り除こうとしているのだ。しかし、不自然な国家関与はますます市場経済の歪みを拡大する可能性がある。
    • 中国経済の1割が「固定資産」投資に依存するという試算もある。
    • 中国では「上に政策があれば下に対策がある」と言われる。必ずしも中央の対策がうまく機能するとは限らず骨抜きになる可能性も高い。
  • 習近平体制は国民に痛みを伴う対策を押し付けられない状況になっている。三期目を目指し重要な時期にさしかかっているからだ。

土地バブル対策は地方政治を痛める

次の記事は2022年1月に書かれているロイターのものである。習近平政権の土地バブル対策が地方経済に影響を与えていると書かれている。この時にはすでに恒大集団のデフォルトも起きていたようだが、かなり曖昧な形で決着したようだ。前の記事では「国民の痛みを伴う対策を押し付けられない」という分析だったが、そうもいっていられなくなったのだろう。

  • 中国政府が不動産市場の抑え込みを決めたために地方政府の中には財政再建に乗り出すところが増えている。この決定は恒大集団のデフォルトにもつながった。中央政府の財政は1/3程度が土地売却によってもたらされていると考えられておりこの政策が地方政府の財政にもたらした影響は非常に大きい。
  • 中央から地方への直接の資金調達は通達によって禁止されていた。それをすり抜けるために融資平台(LGFV)という仕組みが設立され地方政府は景気刺激のために借金ができるようになった。このように地方政府の財政を支えているのに法的な裏付けが全くないという状況に陥っている。融資平台は多数の不良債権を抱えているものと思われる。中国政府は2015年に融資平台をなくそうとしたが「理財商品」に組み直されて一般の人たちにも販売され続けた。

この記事は非常に重要なことを書いている。地方政府のニーズから「融資平台(LGFV)」という仕組みが発明された。2022年3月にはデフォルトがあいついだため外債の発行を当局が制限したという記事も見つかった。

問題が起きるたびに処理してはいるのだが、今度は形を変えて「理財商品」肉見直されていた。ではその状態がどうなったのかということが気になる。


河南省などの取り付け騒ぎは抗議デモに発展し地方政府の補填でおさまった

2022年7月には河南省などのいくつかの村鎮銀行に「取り付け騒ぎ」が起きた。結局は詐欺事件だった。

確かに中央政府は問題を沈静化させようとしている。ところがいくつかの地方政府はその監視の目をかいくぐろうとしているようだ。また、土地は値上がりするという神話を忘れられない人たちが高い利子の「偽りの金融商品」に惹きつけられていることもわかる事件だった。

村鎮銀行とよばれる地方銀行が銀行の内部に闇窓口を作り保証のない金融商品へと預金者を誘導してきた。銀行が組織的流した投資先は架空の融資を組んで資金を違法に移動した容疑が持たれており「犯罪集団」として捜査対象になっている。

これが騒ぎになり河南省の外から人がやってきて抗議運動を起こそうとしたが、河南省は健康観察アプリを操作し入京を阻止しようとした。これが火に油をそそぐこととなり抗議運動が激化した。当初「白シャツ集団がデモ隊を阻止した」と言われていたが、ロイターはのちに「警察が排除した」と報道している。当局が抑えてつけているという姿を見られないように工作したのだろうと思われる。なぜ地方政府が問題を沈静化させようとしたのかはよくわかっていない。

結局のところ、中国銀行保険監督管理委員会は河南省と安徽省の当局が銀行に変わって預金を払い戻すと発表した。結局地方政府が尻拭いするしかなかったのだ。


おそらく国内と同じ問題は対外債権でも起きている

改革開放路線で市場を開放したまでは良かった。ところが市場が開放されると、資本主義特有の病である「景気・不景気」の波が押し寄せる。これに対応しようと胡錦濤政権は景気刺激策を講じたが、民間債務が積みあがった。マネーゲームは加熱したままで習近平政権は対策に苦慮している。

このように「資本主義」の歪みが徐々に顕在化している中国だが足元の経済もおぼつかない。新型コロナ対策のロックダウンを行なっており産業活動にも個人消費にも影響が出ている。2022年の第二四半期のGDP成長は0.4%増加にとどまった。コロナの影響からは回復しつつあるものの、今後も感染拡大があれば経済が再び停滞する可能性も指摘されている。

ここまでは資本主義社会でもよく見られる現象だ。

だが中国には中国ならではの問題がある。地方には地方の「対策」があり、民間にも民間の思惑がある。我々が考える専制主義国家というイメージとは裏腹になかなか統制が取れない。

さらに中国当局は国内の金融機関がどこにどのような投資をしているのかがよくわかっていないようだ。2022年3月の記事でわかるように3月以前は信用力に問題があるところでも自由に外債が発行できたのだ。「信用力調査」という概念が発達していないということなのかもしれない。

とにかく実態がよくわからない

イエレン財務長官が中国に債務協力を依頼した記事の中には「資産によって中国がどれくらいの金額を貸しているのかよくわからない」という記述が出ている。中国国内の状況を鑑みると「これも当然だ」という気がする。さらにこの調子では中国には債権管理の能力はなさそうであるという気持ちにもなる。ロイターの記述によると「スリランカは中国から少なくとも50億ドルを借り入れており、一部の見積もりでは債務額はその2倍前後に達する。」となる。

もちろん「中国悪玉論」には異論もある。この記事は過去にも読んでいて「中国の民間投資が無秩序に発展途上国にも広がっている」という論拠にしていたのだが、元記事が言いたいことはそうではなかったようだ。むしろ「西側のやり方があくどい」という主張になっている。

イギリスの慈善団体である「デッド・ジャスティス」が中国の対アフリカ融資について書いているとロイターが紹介している。この記述を読んだだけではよく意味がわからないため、最後の「民間の投資」が中国の民間の投資なのかと感じてしまう。

ところが元になった記事は、西側の民間債権者が「中国の2倍の利子をアフリカに押し付けている」という論調になっているようだ。つまり批判されているのは西側の銀行・資産運用会社・石油トレーダーなどであり中国を責めるのは筋違いであるという書き方になっている。イエレン財務長官を中心としたG7側の「中国が責任を持つべきだ」という主張は筋違いだというわけだ。

ただし「中国こそが安い金利を武器に無秩序に金を貸している可能性は否定できない。有利な金利を武器に契約を結ぶが相手国の経済状態が悪くなっても情け容赦なく取り立ててゆく。

実際にスリランカでは港の差し押さえなども起きている。またエジプトでは無謀な首都移転計画に中国から多くの資金が集まる。一旦バブルに陥った経済が貸出先を求めて新興国に向かっている可能性もある。

これまで中国商人が持っていた「相手を見抜く力」が失われた

西側の金利が割高なのは「貸し倒れ」や「返済延期」などのリスクを織り込んでいるからなのかもしれない。経済にはいい時もあれば悪い時もある。これを織り込んで「正当な」金利を計算するというのが資本主義の正しい在り方だ。さらに大口の資金提供者は借り手が順調に返済ができるように常に人を送り込んで指導したり監視したりしなければならない。さらに借り手の信用力をスコア化して社会全体で共有する仕組みも作らなければならない。

お金を貸すという行為は実は意外と手間がかかるのだ。

おそらく中国共産党の資本主義は「人に金を貸せばそれに利息がついて儲けることができる」という極めて単純な理解に基づいているのだろう。とにかく集めたお金が余っていてどこかに投資しなければならない。「少し金利を安くするから借りてください」となれば、おそらくそれに飛びつく国も出てくるだろう。

ただこのように無秩序に貸し出された金が返せなくなった場合の債務整理はおそらくとてつもなく面倒な作業になる。

あくまでも印象論だが温習商人には商才があるとか台湾商人は柔軟な発想でビジネスを展開するなどという話も聞く。またアジア各国では華僑たちがビジネスで成功している。地域によって商才にばらつきがあるのかもしれないし官制資本主義というのは所詮その程度なのかもしれないと感じる。これまで人に依存していた「相手を見抜く力」が失われてしまったことは確かなのではないだろうか。

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