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なぜ中国が撃ったミサイル9発のうち5発は日本のEEZに落下したのだろう?

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ナンシーペロシ下院議長の訪台に抗議して中国軍が台湾を取り囲むように演習を行なった。事前の観測では「海上封鎖」ができることを示すためなのであろうという予測があった。台北と高雄を取り囲むように演習区域が設定されていたからだ。蓋を開けてみると北、南、東にミサイルが撃ち込まれたそうだ。ただ、今回少し意外なことがあった。台湾は11発のミサイルを確認したという。このうち日本は9発を確認し5発が日本のEEZに撃ち込まれたと発表したのだ。さらに日本との領土問題は確定していないのだから日本のEEZは認められないという。これは一体どういうわけなのか?

防衛省の発表したミサイルとドローンの軌跡を見れば彼らの意図は明らかだ。中国は台湾と「基地のある日本」を分断しようとしている。そしてその中には沖縄県の先島諸島と尖閣諸島が含まれる。つまり中国は日本を二つに分けようとしているのだ。

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これを書くにあたって日本語で記事を探したのだが分析記事は見つからなかった。代わりに読んだのが次の三つの記事だった。

次第にTwitterなどで色々な情報がで始めた。これに追随するように日本のワイドショーやニュースショーなどでも簡単な解説がなされるようになった。

まずこの地図を見ると実際に狙われたのは台湾ではなく台湾と日本だったことがわかる。尖閣諸島から石垣島などの先島諸島を含んだ海域に大半のミサイルが撃ち込まれている。つまりこの海域は中国から見ると一体のものとみなされているのだ。狙いは沖縄からくる米軍の遮断なのだろう。

この後に無人偵察機が飛んているのだが、これもこの海域が主な作戦地帯になっている。先島を米軍基地のある沖縄本島から分断する形で飛んでいることから、米軍のアクセスをブロックし、中国がこの海域を「自分たちの海」にしたいことがわかる。あたかも海の国境のようにさえ見える。

この件については小谷哲夫さんが情報発信をしている。もちろん「台湾を自国化する」という狙いもあるのだろうが、実は国際航路を自国の内海化するという狙いも含まれていることがわかる。つまり、台湾と先島諸島・尖閣諸島は中国の太平洋の出口として狙われているということになる。日本から見るとシーレーンの分断だ。

中国軍はペロシ氏が離台してからすぐに海峡の中央線を超えて見せた。つまり、中国はいつでも台湾を攻撃できるぞという姿勢を明確にした。中国が台湾を攻撃しないのはアメリカとの対決を恐れているからである。つまりアメリカのプレゼンスがなくなれば台湾は中国に攻撃される。さらにアメリカがいなくなれば日本は貿易通路として利用しているシーレーンのこの海域を失ってしまうかもしれないということがわかる。彼らが意識しているのはアメリカと一体となった日本だ。

地図を見ると台湾の東側には尖閣諸島とが存在する。中国は普段からこの付近に航行しここが中国の領土であると主張してきた。しかしそれを超越するような軍事的な行為は控えられてきた。日本が中国を刺激しないようにしているためそれ以上拳を振り上げる機会がなかったからである。ところが今回ペロシ下院議長がやってきたことによって中国側にはミサイルを見せびらかす機会ができたことになる。

おそらくペロシ下院議長の訪台は中国側が意図したものではないのだろうが、彼らはアメリカや日本があからさまに中国を挑発してくれるのを待っていたのだろう。その意味では「本当は大したことがない」と知りながらわざと怒って見せたくらいのことは疑ってかかるべきなのかもしれない。

小谷さんがいうように。今回中国は海峡中央線と日本が主張するEEZを否定して見せることで「前例」を作ることに成功した。一度前例ができてしまえば何かあった時に恫喝することができるようになる。逆にいうと台湾も日本もそういう機会を与えないように最大限の配慮をしてきた。

ペロシ下院議長の思慮のない卒業旅行は中国が虎視眈々と狙っていた力による現状変更のチャンスだったことになる。ペロシ議長はこれまでも天安門事件に抗議をするなどして中国と戦う民主主義の闘志という自己像を演出してみせており今回はその総決算ということになる。主義主張を一貫させることで大いなる満足感に浸っているのだろう。だが、それは結果的に中国の主張を一歩前進させるために利用されてしまった。

ところが中国はこの機会を通じて「新しい正常」を手に入れることに成功した。それは台湾という存在も、海峡中央線も、日本が主張する尖閣諸島もEEZも認めないという姿勢である。回りくどい漁船を使った圧力のかけ方ではなくミサイルを使った直接の脅しという選択肢を手に入れたのだ。

もちろんこれが台湾の恒久的な海上封鎖に発展することはないだろう。だがいつでも航空機をキャンセルさせることができるということを示している。台湾の航空当局は日本とフィリピンに交渉し航空路の変更を行った。一方韓国に向かう航空機はキャンセルされたそうだ。今後、中国は「自分たちの海域」で好きな時にミサイル演習をすることになるだろう。その度に台湾は調整を余儀なくされることになる。アメリカも日本も「やめろ」とか「残念だ」としか言えない。

日本側は岸防衛大臣の抗議はあったが岸田総理大臣や林外務大臣の声は聞こえてこない。この曖昧な態度は実質的にはこの新しい日常を受け入れていることになる。これまで「刺激しない」ことが唯一の選択肢でありそれ以上の戦略的思考を持っていなかった。今後この件は「防衛費を大幅に増額しろ」という主張の論拠として使われるだろうが日本が戦略的思考を持って中国に対抗するのは難しいかもしれない。

中国は第三次台湾危機の際にアメリカの空母派遣で「沈黙を余儀なくされた」という経緯があるそうだ。これを挽回するためにはどうしたらいいのかということを考えた末、空母を準備し、沖縄に到達できるような誘導ミサイルをいくつも設置した。アメリカと日本は「力による現状維持」を行おうとしていたのだが長年何も起こらなかったことでかなり油断をしていたのではないかと思う。中国の戦略的行動の裏にあるのはこうした深い鬱屈なのかもしれない。

今後政府関係者やワイドショーはしばらくこの問題を取り上げるだろう。おそらく次の要素のうち何を取り上げないかによって立ち位置がわかるのではないかと思う。

  • これは台湾に対する攻撃なのか、あるいは日本の一部(先島・尖閣)を含む一帯への攻撃なのか
  • 今回の行動が中国の戦略的な一手なのか、それとも感情的になった末の暴走なのか
  • 今回のきっかけになったアメリカの戦略を欠く対応はなぜ起こったのか
  • 日本が「中国を刺激しない」以上の戦略を取ってこなかったのはどうしてなのか

いずれにせよ今回の件が岸田政権に与えた影響は大きいようだ。内閣改造を一ヶ月前倒しにして10日に発表するそうである。新型コロナの第七派・統一教会問題・台湾海峡問題と様々な問題が新たに加わったこと、岸田政権をめぐる空気はかなり淀んでいる。人事によって「空気の刷新」ができるのかが注目される。

かねてより中国脅威論を唱えてきた長島昭久議員はこの図を引き合いに「日本有事でありよく諸力強化に全力を挙げるべきだ」と主張している。こうした主張が雨後の筍のように出てくればおそらく岸田政権には収拾ができなくなる。誰が次の防衛大臣になりこれをまとめるのかにも注目が集まる。

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