中南米の例外国家エクアドルはなぜ反米左派ではないのか

BRICSが拡大会合を開き「アメリカを念頭に」「新興国支援を強調した」というニュースがあった。アルゼンチンもBRICS入りを希望している。中南米は左傾化が進んでおりブラジルもルラ大統領が再選されれば「左傾化」することになる。そんな中、例外になっている国がある。それがエクアドルである。ではなぜエクアドルだけ左傾化を踏みとどまっているのか。






エクアドルの歴史を見ると左傾化した国の行く末がわかる。特に経済が脆弱なため弊害が出やすかったのだ。石油産業が中心なので石油価格の上下によって何度もデフォルトしている。

エクアドルは2007年から2017年までの10年ラファエル・コレアという左派出身の大統領が国を率いていた。2008年にデフォルトになったが憲法を改正して再選されていることから国民の人気は高かったようだ。ただこの時に中国の援助に頼るようになった。

2008年といえばリーマンショックのあった時代である。つまり世界的な金融市場の不調の影響を受けたものと思われる。経済が停滞し石油価格が下落したという時代だ。この時に10年で2度目と書かれていたことから財政はかなり破滅的な状態だったことがわかる。

この時にエクアドルは問題を解決できなかった。実は2020年にもコロナ禍でデフォルトを起こしていた。現在はコロナ禍からの回復過程にあるため原油価格は高騰しているが当時はコロナ禍に入ったばかりで原油価格は落ち込んでいた。つまりエクアドル経済が原油のみに頼る脆弱な状態だ。

結果的にコレア大統領は汚職で有罪判決を受け公民権が停止された。コレア大統領を引き継いだモレノ新大統領はオデブレヒトの汚職疑惑の捜査を開始しコレア大統領時代の清算をやろうとした。憲法を再度改正しコレア前大統領ら汚職に関与する人たちが公職に返り咲けないように対策も打った。さらに増税ににより原油に頼る脆弱な経済からの脱却を目指したりもしている。2020年に再びデフォルトしたということはモレノ大統領の財政再建策も失敗したということになる。

2021年にはコレア元大統領が推すアンドレス・アラウス元知識・人的能力調整相を破り中道右派のラッソ大統領が誕生した。この時の事情について書いている朝日新聞は「再び反米左派政権ができることを恐れた人たちが協力して」ラッソ大統領を誕生させたと書かれている。中国の援助はそれくらいエクアドルを蝕んでいる。別の朝日新聞の記事は「中国への債務残高が実際にどれほどあるのかさえ、わからない不透明な契約だ。100億ドルはくだらないだろう」と書いている。

ポピュリズム政権と借金漬け外交の中国という組み合わせはかなり危険だ。だが皮肉なことにこれが「世界の左傾化」と中国の覇権国化を食い止めている。アメリカは豊富な資金力と軍事支援の組み合わせで世界各国に同盟関係を作ってきたが中国にはこうした長期的視野がない。汚職が蔓延すると国民からの反発が強まり「もう中国はたくさんだ」ということを身を以て経験する。資本主義社会を維持するための「民主主義という基盤」はとても大切だ。

一方でアメリカ合衆国も豊富な資金力を維持し同盟国をつなぎとめることができなくなりつつある。中南米におけるアメリカの影響力は今や限定的である。

コレア大統領は資源ナショナリズムを掲げていたが実際にやったことは中国に資源を売り渡すことだった。中国は援助と言いながら「借金」の形で投資をしているに過ぎない。

ただしG7加盟国は中国の援助を脅威と感じている。現在ドイツで行われているG7首脳会合では今後5年間で官民合わせて6千億ドル(約81兆円)の拠出を目指す枠組みが作られた。日本はこのうちの1割強の650億ドル以上を担う考えだ。共同通信は「中国の台頭が念頭にある」と書いている。

中国・ロシアブロックとG7ブロックはこのような「資金提供競争」を行なっており、その間にある国々の政治を翻弄する。ある政権は透明な民主主義を嫌い中国に接近し、別の国は汚職の蔓延から中国はもうこりごりだと考える。その繰り返しである。

同じような動きは「左傾化空白地帯」であるブラジルにも及びそうだ。

現在のブラジルの大統領はブラジルのトランプと称されることもあるボルソナロ大統領だ。コロナはただの風邪であるというようなことを言ってコロナに感染してみたり、選挙戦の時に刺された傷がもとで度々入退院を繰り返している。これに対抗するルラ氏の政策は富裕層への課税や財政拡大などの左派ポピュリズムだがボルソナロ大統領にうんざりした中道政党との関係も再構築されつつある。ただ、ルラ大統領もオデブレヒト疑惑を払拭できていない。単に証明できないために逃げ切った形になっている。

ブラジル経済はエクアドルよりは強いため「国家破綻」というような極端な問題は起こりにくい。これがどのようにブラジルの政治と経済に影響を与えるのかは今の時点ではまだわからない。

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