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思ったよりもはるかに弱気だったプーチン大統領の5月9日演説

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プーチン大統領の戦勝記念の勝利演説が終わった。当初の予想を覆し「勝利宣言」も「戦争宣言」も行われなかった。識者の中には「早口で弱気だった」と指摘する人がいた。特に気になった点は「様々な脅威」がまぜこぜに語られていたという点だった。また上空は晴れていたにも関わらず「天候の都合」で航空部隊の式典は中止されたそうだ。

演説は極めて短いものだったが単に自分たちの正当性を主張しただけに終わった。だがその内容は論理的にはあまり整理されているとは言えないものだった。同時通訳を頼りにメモを取っただけなので細かいところは違っているかもしれないが、おおよそ次のような要旨だった。

  • 開戦前の12月にNATOとの交渉が不調に終わったことにたいして「NATOがロシアを虎視眈々と狙っていた」と主張した。
  • アメリカ合衆国が優越感をひけらかし「独自の文化」を持っているロシアを見下していると断じた。
  • かつて自分たちが打ち負かしたはずの人々がいまだにロシアを狙っていると説明した。

こうした被害者意識がまぜこぜになって展開される「論理的に整理されていない演説」という印象だけが残った。こうした被害者意識は2022年3月のビデオ演説でも見られた一貫した姿勢であった。今回の方が時間的に短かったために細かなディテールは省かれているのだが、同じ主張を繰り返しただけで新鮮味に欠けるともいえる。

苦難を乗り越えて独立を守ったとする77年前と現在の状況を重ね合わせようとしているのだが一方的にウクライナに侵攻したことの正当化としてはあまりにも弱すぎる。そもそもプーチン大統領が「軍事作戦」を展開しなければ兵士の犠牲は全く必要がなかったはずだからだ。

翻訳を聞く限り「屈辱」という言葉が使われていたことから西側の優位性に苦々しい思いをしていたことは確かなようだ。だがそれを「今にも西側が襲いかかってくる」と置き換えようとしている。プーチン大統領が単に現状をごまかそうとしているのかあるいは本当にそう信じ込んでいるのかは演説からは伺い知ることはできない。

現状をごまかそうとしていると考えるのが自然だが、仮に本気で被害者意識を持っているとすればその思想はあまりにも混乱して整理されていないものだと思える。仮にそうだとすれば合理的に「現在の軍事行動はロシアの国益に沿わないから」という理由で説得することは難しいのかもしれないと感じた。

さらに今回の軍事侵攻で多くのウクライナの民間人が犠牲になっていることはすっぽりと視界から抜け落ちているようだった。演説は被害者意識に彩られており、プーチン大統領に加害者としての自覚がないとすればこれも恐ろしいことだ。ウクライナの人たちにとって残酷であると同時にロシアにもウクライナに縁者がいる人も多いはずだ。彼らがどんな気持ちで演説を聞いていたのかと考えると胸が痛む。

演説の中には「諸国の支援を得て」という言葉も使われていたように思う。ただし今回はベラルーシを含めてロシアの「同盟国」とされる国々の首脳は全く確認できなかった。プーチン大統領の主張とは裏腹に本気でこの国に付き合おうとしている国はないということがよくわかる。ロシアのペスコフ報道官によると「今年は外国の要人を招待しなかった」そうである。

事前には派手な航空ショーが予定されており予行演習の映像なども流れていた。イリューシン80も確認されたそうだ。だが、どういう理由なのか直前になり航空ショーはキャンセルされた。