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もしも国連がなくなっても世界はそれなりに動き続けるだろう

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先日「国連は常任理事国の既得権のために存在するのでは」という質問を見つけた。主権国家が既得権益だなどと言われてもよくわからないだろうなと感じたのだが「まあいいや」と思い長々と「常任理事国ではなく主権国家が既得権益なのである」というような話を書いた。

しばらくして「もし国連がなくなったら」と考えた。なんとなくありそうな未来なのだ。困ることも多いのは確かなのだがこれでスッキリすることも多い。

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パレスチナ国という国がある。国連には認められていないのだがオブザーバーとして国連に参加している。Wikipediaによると2019年時点で137カ国が承認しているそうである。中国とロシアも承認している。パレスチナ国を国家承認していない国は、アメリカ合衆国・ヨーロッパの国々・日本などである。アメリカ合衆国は国内のユダヤ人とイスラエルに忖度している。そしておそらく日本はアメリカ合衆国に忖度しているのであろう。

外務省によると日本は表向きは「パレスチナ国家の樹立を応援している」がその交渉が整っていないという立場を取っている。

アメリカとヨーロッパが国連からいなくなればこの複雑な状況も解消する。

この反対の国もある。それが中華民国である。中国大陸を中華人民共和国が実効支配するようになると台湾島に逃れた中華民国政府は国家格を失った。中華人民共和国が一つの中国政策を強硬に主張しアメリカ合衆国がこれを認めたからである。だがアメリカ合衆国は一つの中国政策は採用しているといいつつ「台湾を防衛する義務を負う」としている。さらに中華民国に対しては台湾独立は企てないようにというメッセージを送っている。実にややこしい。中国が国連からいなくなればこのややこしさは解消する。

実は世界が一つだった時代はそれほど長くない第二次世界大戦の戦勝国であった国連(連合国)を作ることができた時のほんの五年程度のものだし、その時も日本などの敗戦国は枠組みには入っていなかった。

ドイツや日本が連合国の枠組みに復帰する頃には、既にソ連と中国がその枠組みからは離脱を始めており日本はソ連や中国とは講和条約を結ばずに国際社会に復帰する。その後一つの中国政策を認め中華人民共和国とは講和したが北方領土問題を抱えるソ連やその後継国とされるロシアとはまだ平和条約を結んでいないままである。

仮に国際連合のような組織がなければ、おそらくそれぞれの国家はいくつかに別れた「主権国家の共同体」にそれぞれ国家承認を求めるようになるんだろうなと思う。これはこれで面倒臭そうだ。

例えばこの他にもキプロスの例がある。トルコ系住民が多い北キプロスとギリシャ系が多い南キプロスに分断されているという。北キプロスが住民投票をしてトルコへの帰属を決めればおそらくEUは大反発するだろう。だがこれも、専制主義の中国・トルコ・ロシアという国家共同体性が認めさえすればいいということになれば、紛争としてはなかったことにできる。

トルコが反動的な動きを見せているのはイスラム教国のトルコがEUに加入できる見込みがなくなったからだろう。EUは中東移民をトルコに押し付けて領域の混乱を緩和した。つまり都合の悪いものは外に押し出しルールだけは押し付けようとしている。

おそらくそれでも国連が分裂しないのは「唯一の主権国家の協同組合」だからなんだろうなと感じる。現在は主権国家というメンバーシップを国連に認めてもらいそれを維持することが一つのゴールになっっている。つまり、いったん国連を保持するという意欲が失われてしまえば、あとは分離するだけなのだろうと思う。

日本は国連に従って南スーダンに自衛隊を送り込んでいた時代がある。その時日本政府はテロリストたちと戦っていた。だが南スーダンでは異なる民族に属する大統領派と副大統領派があらそうようになった。さらに2021年夏には副大統領派も分裂したのだという。こうなると国連は誰を応援していいかわからなくなる。このようにかつては自明だった主権国家ゲームは近年維持するのが難しくなりつつあるようだ。

国連という枠がなくなってしまえばアフガニスタン問題も解決する。西側諸国はタリバンを認められない。人権という大きな問題があるからである。一方、中国は西側に遠慮することなくタリバン政権を国家承認支配下に収めようとするだろう。タジキスタンはロシアの影響の強い国だがタリバン政権を認めてしまうと自分の国にいるイスラム過激派を刺激しかねないためタリバン政権には慎重な姿勢なのだそうだ。こうした中東の国はその時々の事情に応じてあっちについたりこっちについたり、途中で帰属を変えてみたりするようになるだろう。

そう考えると「一つの国際法の元の世界」というのは意外と例外的で脆い時代だったということになるのかもしれないと思った。それでもこの世界を維持する必要があるかを一人一人が考えてみるのも面白いのかなと思う。

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