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岸田総理への退陣要求でほのかに浮かび上がった「ネット右派とネット左派は双子の類似性」

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前回は岸田総理に退陣要求が出たという話を書いた。これまで隠れていた懸念が一気に噴出したものだがその勢いは一瞬で消えてしまった。まるで月食のようだと思った。

普段から地球の影は宇宙に存在する。だが我々がそれを見るのは月がその影に入った時だけである。つまり普段から見えないものが見えるのが月食なのである。

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このハッシュタグの盛り上がりは1日で消えたが安倍政権を支えて来たネット右派がどんな人たちなのかがわかった。おそらく政治的にはネット左派に最も近い人たちだろう。ただそれを説明するのはかなり面倒だ。

このタグの背景には高市早苗総理待望論が背景にある。「岸田さんが退陣して河野太郎が総理大臣になっては困る」という投稿があった。一瞬「中国に強い態度で当たる」のが支持されているのかなと思った。だがそうでもないようだ。

それにしてもなぜ河野さんではダメなのか。

林芳正外務大臣や移民労働力解禁という諸政策を通じて岸田総理に「親中判定」が出ているのは間違いがない。だが河野太郎への反発がわからない。父親である河野洋平の「いわゆる河野談話」を誤認している可能性もあるがどうやら緊縮財政派だと思われているようだ。

高市さんが実際に積極財政派なのかはわからない。あまり高市さんの話をまともに聞いたことがないからである。だが、高市早苗さんは安倍総理の意思を引き継いだ積極財政派であると指摘する投稿はいくつかあった。いわゆる上げ潮派の流れである。

2006年ごろに始まり財政再建派と対立した。上げ潮派は政府の規制をなくせば自ずから経済が発展し国の借金については気にしなくなるという「小さな政府」志向だった。だがいつまでたっても国民が「上げ潮」を実感することはなかった。

まずは日本経済が高度経済成長を成し遂げた理由を説明する。そのために図を作ってみた。

ごちゃごちゃしているがポイントは二つである。

  1. 企業から給与が支払われ給与で物品やサービスが購入される。この一連の流れを大きくすれば経済は成長し人々は豊かになる。
  2. この一連の流れを大きくするためにやるべきことはいくつかある
    1. 流入増加:海外に売れる商品を作り入ってくる資金を増やす。そのために効率の悪い産業は潰し効率の良い産業を優先的に育成する。
    2. 流出減少:海外への利払いを減らすために金融を国内資金で賄う。そのために国民に貯蓄を奨励する。金融は国家が指導し国内企業向けの融資に回す。
    3. インフラを国家主導で整備することで企業が国内で儲けることができる基盤を効率的に整備する。

海外貿易で儲けることができればその儲けを使ってさらに経済を大きくすることができる。つまり、賃金を換言すれば海外貿易の利益は乗数効果が高い投資になる。つまり重要なのは10行院への斎藤氏であって海外貿易そのものではない。

実は日本経済の貿易依存度は高くない。少し古い通商白書を見つけた。輸出・輸入ともに10%程度で推移していたと書いている。少しずつでも継続的に超過があることが重要なのだ。

 これを見ると、1990 年以前の成長期を含め、輸出と輸入の GDP 比はどちらも 1975 年から 1985 年の10年間では 10~15%で推移していたのを除き、10%前後で推移していたことが分かる。これが 2000 年以降、輸出入共に急増し、2005 年以降は 15%前後で推移するようになった。

2012年通商白書 第二章 我が国の貿易・投資の構造と変容

資本の構成も重要だ。日本は1960年代ごろに世界銀行の被援助国を卒業し国内資本に切り替わった。一方、韓国はいまだに外貨需要が高い依存型の経済なので常に稼ぎつつ儲けを海外の投資家に還元しなければならない。このため韓国の方が海外貿易への依存が高い。これは2020年の記事だ。

主要20カ国・地域(G20)の中では、統計が明らかになっている12カ国中、ドイツ(70.82%)に次いで2番目に高く、経済協力開発機構(OECD)37カ国のうちでは15番目に高かった。

韓国の貿易依存度 3年ぶり低水準=輸出不振で

ところがここに変化が起きている。バブル経済が崩壊すると企業は社会を支える意欲を失った。そこで、法人税減税の圧力を強め労働者を非正規雇用に切り替えはじめた。GPDの水準は維持されたが、国内経済への還元が少なくなった。

さらに高齢者が増えて将来不安から消費を抑制するようになった。こうして経済への参加者が減っていった。

さらに国内に資本釣果をもたらしていた産業が減り始めた。家電が消えて半導体も競争力を失った。おそらく今元気なのは自動車産業だけだろう。代わりに企業は海外投資で儲けてその蓄積を海外に投資するようになった。このため日本は国全体で見れば「債権超過」の状態にあるがその質は大きく変わっている。

こうして日本には比較的好調な経済Aとそうでない経済Bができた。例えば海外投資で直接儲けている「内部留保の多い」企業は生き残る。国内の不動産も割安になるので中国人富裕層向けの不動産業者なども儲けを増やしているはずである。東京の一等地の不動産価格は上昇しているそうだ。資産価値が減らないことがわかっているので近郊から都心に移ってくる若い家庭も増えて来ているそうである。高級な部分は外国人が買い支え、その下の層の比較的手頃な価格の物件に人気が出ているようだ。

ところがこの経済には欠陥がある。国内で賃金を支払わなければ労働者は消費ができない。高齢者が増えて経済に参加する人口も減っている。つまり図の左にある経済は縮小している。これを補うために利用されているのが消費税である。企業は海外での儲けを国内経済循環に回さないので国内経済は縮小し続けている。

それを埋め合わせるのに「政府の消費者支援」が期待されている。つまり企業は儲けを還元しないがそれでは消費が減って困るので政府が借金して支えなさいと言っている。その儲けは自分たちが懐に収めてしまうので政府は支援し続けることになる。

いわゆる「新自由主義的な経済」というのはグレーでマスクされた部分を好調な経済から切り離しましょうという主張だ。この主張が最も強かったのは河野太郎さんだった。

岸田政権には「地方を救済したい」という気持ちは強いのだろう。だが自民党自体は大企業から支援を受けているためマスクされていない部分から少し分けてくださいとは言えない。さらに財政再建派も切れない。地方経済と医療介護業界は特に行き詰っているうえに労働者も不足しているからこれを移民で置き換えるべきだとも言っている。

今回岸田政権が攻撃されたのは「所詮、岸田政権も国内を見捨てるのだろう」という与党支持層の一部からの苛立ちが可視化されたものである。それが一瞬にして消えたのは、おそらくその運動手法も主張も彼らが嫌っている左派のそれとそれほど違いがなかったからだろう。

高市さんご本人がどのような経済主張を持っているのかはわからない。だが高市さんを支持する人たちの気持ちの根底にあるのは「日本は全体としては潤っている偉大な国なのだからその利益の一部を我々に回してほしい」という気持ちである。

日本の政治状況をまとめると次のような構造ができている。

  1. 好調な経済セクターだけ生き残ればいいという「新自由主義」の人たち
  2. 好調な経済セクターがある地域と従業員だけが生き残ればいいという路線の人たち。河野太郎・小泉進次郎・菅義偉などの神奈川の政治家はここに入っている。
  3. かつて好調な経済セクターを持っていたが没落してしまった関西圏を代表する維新とその支持者。
  4. 衰退した経済は非正規雇用に依存するようになるだろうから、そこから儲けを得ようとする人たち。例えば「某派遣会社の会長」などはこのセクターに属する。
  5. 好調な経済セクターを持っている地域の恩恵を地方にも配分せよという岸田総理に代表される従来型の自民党支持者。
  6. 衰退したセクターにいる人たち
    1. 政府が援助して衰退しつつある経済を救えという左派の政治家とその支持者。
    2. 政府が国家経済への信任を利用して無制限に借金すべきだという保守支持者。

つまりネット保守の人たちが言っているのはネット左派の人たちが「福祉」の原資をおきかえただけなのである。おそらく「左翼が言っているのが嫌い」であるだけで考え方の基本はそれほど違いがないものと思われる。違いはないが弱者に分け与えるという発想はしたくないので難しいことはわからないが国債を発行すれば政府が富を生み出すことができるのだという幻想を作りだしたのであろう。

だが、例えば維新も「府という看板を都にかけかえればかつての繁栄が戻ってくる」と主張している。これはかつて「政府の規制をなくせば自ずと経済は良くなる」と主張していた上げ潮派に似ている。合理的に問題を分析できず気分と言葉の持つ霊力によって状況を改善させようとしているという意味では宗教に近い。

安倍派の議員さんたちが実際に地方経済にどれくらいシンパシーを持っているかはよくわからない。例えば高市早苗さんは海外留学経験もあり「裾野」の住人ではないからである。

いずれにせよ問題の根幹は切り離された経済にある。おそらくバブル経済のトラウマは政府と社会に対する不信感を生んだ。企業はそこから逃避するために壁を作って国内経済を切り離したのだろう。それはかなり自明だと思うのだが認めたくないという人が多い。特にネット右派という人たちはオールジャパンという幻想に未だにしがみついている。

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