クワッドの会合が行われた。おそらく日本ではアメリカと日本の関係が安泰であることが強調される一方で「退任前の総理大臣が野党の要請による国会も開かずに何をやっているんだ」という論調でも語られるのだろう。
NHKのニュースは菅総理の「日米同盟はこれからも安泰である」というような発言を流していた。日米同盟は精神安定剤としての役割がある。おそらく日本の読者は日本の記事だけをみていれば良いと思う。
だがCNNを見て全く違った伝えられ方がしていて驚いた。タイトルからしてひどい。Biden officials stress Quad is an ‘unofficial gathering,’ ‘not a military alliance,’ ahead of first in-person meetingである。非公式の会合ならわざわざ呼びつけずにリモートで開催しても良かった。そして前回の会合の写真が使われていた。当時はリモートだった。
NHKの報道を見るとソーシャルディスタンスを取りながら対面で会合をやっている映像が使われていたのだがおそらくアメリカはこの会合をあまり大きく見せたくなかったのだろう。AFPも会合の写真を取り上げているのだが同席しているのはバイデン大統領ではなくハリス副大統領だ。こちらはいささか密な写真になっている。バイデン大統領がウイルスに対して過度に警戒しているということなのかもしれない。実際になかったのか単に報道されていないだけなのかはわからないがとにかく「四人のトップリーダーが並んで記者にニッコリと微笑みかける」というようなおきまりの写真がないのである。共同通信は歩く姿を代わりに掲載している。
もう一つのCNNの記事は「クワッドはトランプ大統領から継承した数少ない政策である」というようなタイトルがつけられて同じ写真が使われていた。The Quad summit is a rare mark of continuity between Trump and Bidenというタイトルだ。少なくともCNNはあまりクワッドを評価していないのだろう。代わりに「国際協調が話し合われるべき国連総会(UNGA)での取り組みが不十分である」というような記事が出ていた。トランプ型の囲い込みではなく強調型の外交をやってもらいたいということなのかもしれない。
AUKUSは軍事同盟なのだがクワッドは軍事同盟ではない。だが中国に対して敵対的な感情を持つ国が集まっていて軍事演習もやるようだ。しかし「単なる非公式の集まり」であって「オーストラリアもたまたま重複しているだけである」であるという。何がやりたいのかが極めてわかりにくい。だが日本人はそれでは困る。これに窮した時事通信は無理やり「対中」をにじませ、15日に発表した米英豪3カ国の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」と並び、クアッドをインド太平洋政策の柱に据える考えを鮮明にしていると強調して見せた。
バイデン大統領のこうしたわかりにくい議会対策・内政対策はすでに疑念を呼んでいる。オーストラリアとアメリカ合衆国の同盟は秘密裏に準備されフランスは直前まで知らされていなかった。顔を潰されたフランスは大使を召還して抗議の意思を示した。CNNはこれが英仏関係を刺激するのでは?と書いている。ジョンソン首相はEUを出て言ったことが成功だったと思わせたい。イギリスはEUではone of themだが英米関係においては対等なパートナーだ。ただ、これでは自動的に英語圏対大陸ヨーロッパという別の対立構造が作られかねない。
アメリカの動きはNATO加盟国をも戸惑わせている。内政上の問題から対中国シフトに移行したいアメリカはNATOに「中国は体制上の挑戦だ」と言わせた。これが2021年6月のことである。もともとNATOはヨーロッパをソ連から防衛するためにアメリカとヨーロッパが作った枠組みだった。これを2030年に向けて対中国向けにシフトさせようとしている。この記事では2022年までの変換を目指すとしていた。
だがマクロン大統領は「NATOの核心は対ロシアであって対中国ではない」とこの動きを否定して見せた。ここでもフランスが出てくる。
一連の動きを調べていて「日本もヨーロッパもバイデン大統領に振り回されている」という印象を持った。するとなんだか腹が立ってくる。ただもう少し調べると違った側面が見えてくる。
アメリカ合衆国は「安全保障ネットワーク」をタダで提供していたという記事がある。アメリカは欧州を「タダ乗り」させるためにNATOを作ったのにアメリカがそれを理解していないというNewsweekの記事だ。
この記事は一つひとつの国が再軍備しないように無料の安全保障ネットワークを作り「国家主義の再拡張を防いだ」と説明している。おそらくソ連とアメリカが軍拡競争を繰り広げる中で「自分たちの軍事スキームに誘致する」というセールステクニックでもあったのだろう。NATOはもともとヨーロッパにとってオトクなスキームなのでヨーロッパがこれにこだわるのも当たり前だと言える。
日米の軍事同盟である日米安保は日本がアメリカにフリーライドしているという意味では同じような協定である。憲法第九条もこのフリーライドに乗っていて実は日本にとってオトクな憲法条項である。だから憲法第九条には賛成派が多く日米同盟も多くの日本人から支持されている。難しいことはわからないものの「こっちの方が得である」ということがわかっている人は多いのだろう。
一連のバイデン大統領の動きはもはやアメリカがこうした同盟を維持できなくなっていることを意味しているのかもしれない。つまり、こうしたオトクなディールで日欧がアメリカにフリーライドできる時代が終わってしまったのである。