政治家は嘘をついてもいい。であれば投票用紙には「公約は全て単なる希望的観測であって実現しないことがあります」という注意書きを入れるべきなのではないかと思う。今回の総裁選もそう思わされるような展開になっている。総裁選において岸田候補だったかが「トリクルダウンは結局起こらなかった」というようなことを言っていた。大した反論も反発も起こらなかった。最初はスルーしていたのだが、ある時にふと思った。トリクルダウンが嘘だったのならそれを前提とした消費税増税は撤回されるべきではないのか、と。
だが現実的には「信じた有権者が悪い」ということにしかならない。政治においては民間企業だったら詐欺とみなされかねない行為が容認されてしまうのだ。
一般常識に照らし合わせれば、契約の前提になる条件が嘘だったのなら返品か返金が当然だ。普通の企業がデタラメな売り文句で高額な商品を売ったことがバレたら社会的な責任を負わされるのは間違いがない。であれば消費税増税はナシだ。前提が嘘だったのだから。
だが政治はそうではない。なんとなく空気を入れ替えるための総裁選が行われ、昔のことはいとも簡単になかったことにされてしまう。
詳しい説明を読んでみた。岸田さんは「アベノミクスだけじゃなくて、小泉政権時代の新自由主義、経済対策が成長という意味では、大きな意味があったと思います。ただ、トリクルダウンは起きると言ったけれど、少なくとも今はまだ起きていない。新型コロナで格差が大きくなったんだから、より分配を意識しないといけません。」といっている。
つまり約束したことが起こらなかったわけでなく「状況が変わったんだよね」といっている。これで「なかったこと」になってしまうのである。
であれば
投票は自己責任で
と大きく朱書きした上で「公約はやってみないと実現できるかわかりませんが実現しなくても保証はできません」という免責事項を投票用紙につけておくべきではないかと思う。
岸田さんは「成長はした」と言っているのだが立憲民主党に言わせると日本は成長していないらしい。成長の定義が違っているからだ。
立憲民主党のアベノミクス検証は特殊なことは言っていない。つまりこれはこれで極めて筋が通っている。成長を前提にした政策を打ったのだが成長の恩恵が一般に及ぶことはなく企業の内部蓄積が増えただけだったとしている。日本は中間層が旺盛に消費をして経済を成長させる構造の国なので富裕層が増えただけでは経済が全体的に成長することはない。
実は「何を成長として定義するのか」ということすらそもそも決まっていない。岸田候補はとにかく保守傍流の清和会系から宏池会系に流れを戻したいだけなので細かな分析はせず「次はこっちですよ」と流そうとしている。清和会系の成長というのは国民生活は貧しくなってもいいから企業と高額所得者だけでも成長して貰えばいいという意味である。立憲民主党は中間層の成長がなければ成長しても意味はないという立場なのだろう。成長の定義がごまかされたりずれたりしているのでそもそも議論が成り立たない。
うんざりついでに他候補の経済政策も見てみよう。東京新聞がまとめている。これだけでは十分でないので日経新聞で補完した。
- 河野氏は「まず企業が社員の賃金を上げる」として、法人税減税を通じて稼ぎを人件費に振り向けるよう促すことを主張。失業した人などが成長産業に移れるような制度拡充にも意欲を示した。
- 岸田氏は「企業が株主だけでなく従業員にも(収益向上に伴う)成長の果実を配分するよう税制などを使って誘導していく」と発言。国などが公的に給与を決める職種の「給料を引き上げ民間を誘導する」とも述べた。
- 高市氏は法人税減税以外の賃上げを促す手法として「企業の現預金に対して課税する。ただし、従業員の給料を上げた場合には課税を見送る。こういった形が非常にいいのではないかと思っている」と語った。
- 野田氏は最低賃金引き上げについて「きちっとルール通りの賃金上昇を考えていかなければならない」と指摘。新型コロナウイルス禍からの経済再開で非正規やアルバイトの雇用を戻すことも重要だとした。
まず、河野候補だが、この人は「所得再分配」に関してはかなりおかしなことを言っている。逆進性のある消費税を基礎年金の原資に当てようとしているがこれは庶民から搾り取ってそれを庶民の食い扶持に当てるという真綿で首を絞めるような行為だ。さらにさらに法人税を減税すれば賃金が上がると言っている。これまでも法人税は下がり続けてきており消費税などで代替されているわけだが労働分配率は下がり続けている。日経新聞で補完すると低賃金労働者は「失業保険と生活保護の間を分厚くしていく」となっている。つまり国家管理されたトレーニングプログラムがあり低賃金非正規が固定し高い消費税を搾り取られるというような国になりそうである。非正規雇用に手厚くと言っているがこれは企業に守られない労働者層を温存し殺さない程度に優しくしてあげるというようなことになるだろう。河野候補のいう成長というのは一部の大企業さえ成長すれば後はどうなっても構わないということである。小泉竹中路線ですっかり定着した新自由主義的な見方が継承されている。
高市候補は懲罰的課税で賃金を上げない企業を制裁すると言っている。この分野に限って言えば効果的なのだろう。残念なことにこの候補は安倍前総理が「保守を応援していますよ」というための当て馬のようになっている。だおそらく実際に安倍前総理が応援しているのは岸田候補である。保守の支持層はどちらかと言えば経済的に弱い庶民なので安倍全総理は「私は庶民の味方だ」といいつつ実は経済守旧派を援護しているのだ。おそらく高市さんも新自由主義的な候補だと思うのだが実はその点はあまり全面に押し出されていない。彼女の役割は「新保守層」対策であり狙いはそこにはないからだ。
岸田候補は国家管理の給料を上げることで私企業が追随すると言っている。もちろんそんな保証などない。具体性に欠けるのはおそらく実効性のある政策を考えていないからなのではないかと思う。「地方分配に配慮して終わり」になりそうだ。日経新聞はGoToトラベルについて言及している。政調会長時代に議員の声を聞き「バラマキ政策」をまとめていた。おそらくこれが岸田さんのスタイルなのだろう。岸田さんの政策には池田勇人時代のような理論的裏打ちがない。国家補償で借りられるだけ借金をしてその原資を分配できればそれでいいのだから、そもそも理論的裏打ちは必要がないのだ。
野田候補について具体策を聞いてみたい気もするが、残念なことに全体的に練られた政策がない。日経新聞で読むと「子供に再分配しろ」というようなことは言っている。
本来は「国の定義を明確にして」「政策を組み立てて」「それをどのような指標で測り」「いつまでに効果が出なければ見直す」というようなことをやるべきなのだろうがそのようなアプローチを取る人は誰もいない。全てが当てずっぽうで決まってゆき効果が出なくても流されてしまうのだ。