最近、クローゼットを整理しようとしてPHPとmySQLのプログラミングをやっている。プログラミンスしながら時々政治経済のことを考えていて面白いことに気がついた。安倍総理が推進してきた新安保法制には重大な不具合がある。普段は「安倍政治」にケチをつけるような書き方をすることが多いのだが今回はこの不具合がなぜ起こるかについて考える。
フランスが怒っている。AUKUSという新しくできた安全保障体制が気に入らないというのである。オーストラリアがフランスとの契約を破棄しアメリカから原潜を調達することにしたことがきっかけになり、アメリカとオーストラリアから大使を呼び戻した。外交関係破棄まではいかないもののかなり大きなメッセージである。イギリスはフランスをなだめようとしているが、フランス側は「イギリスはAUKUSの三つ目の車輪(つまり必要がないもの)だ」と避難し防衛大臣会合が延期になった。
バイデン政権が対中国包囲網を強めている理由は内政事情だ。中流階級の仕事が中国に流れ、これがトランピズムの原因になった。バイデン政権は中流階級をなだめるために中国経済をアメリカから切り離し(デカップリング)同時に外交得点も稼ぎたい。そのために中国に強く当たっている。
オーストラリアは一度中国と付き合ったのだが文化的にあまりにも相性が悪いので反中国に揺り戻した。中国は貿易などを通じて圧力をかけている。オーストラリアはこれが気に入らない。
主に内政事情からイギリスを巻き込んだAUKUSという新しい枠組みがつくられたのである。
だが、国内の仕事を維持したいと考えるのはフランスも同様だ。フランスでは格差が広がっておりイエロー・ベスト運動に端を発する政府への攻撃運動が収まらない。マクロン大統領の支持率は落ち続けている。年金改革を言い出したことでさらに支持率が下がっているという。ここで強硬な姿勢に出なければおそらくさらに離反されると考えているのだろう。
つまり、どの国も内政上の問題があり外交で一枚岩になれない。
これが、日本の外交にとっては想定外を生む。おそらくプログラムをやらない人にはわからない例えだと思うのだが「エラー処理」がないのだ。
安倍政権が強硬に安保法制を再構築しようとしたのはおそらくアメリカが単独で日本を守ってくれなくなったからだろう。だが、安倍政権はこの不都合な想定を国民に説明しなかった。
日米安保ができた当時の日本は保護と監視の対象だった。日本の域内では集団的自衛の枠組みになっていたがその外で攻撃が起こっても日本には応召義務はなかった。そもそもそんな義務を負えないくらい日本の軍備を弱体化させようとしていたからだ。だが、結果的にこれは日本にとって極めて都合の良い協定になった。朝鮮情勢が悪化しアメリカは日本の保護ができなくなった。だから日本は自前で自衛ができる部隊を持つことができた。だがアメリカの同盟国としてアメリカの戦争に対応する義務を(日本の領域以外では)負う必要がなかった。
単独で日本を守る気がなくなったアメリカは各国と複雑な協定関係を結びその中に日本を入れようとしている。逆にこの波に乗れないと日本はアメリカの保護が受けられなくなってしまう。つまり、地域は集団的自衛の枠組みに移行しようとしている。
ところが安倍政権はこの説明を端折った。「アメリカの集団的自衛の枠組みに乗るのが日本の戦略だからアメリカが動くまでどんな枠組みになるかはわからない」のだが、これを「我が国と密接な関係を持つ他国」という言い方でごまかした。
例えばオーストラリアの艦艇の護衛は新安保法制の対応範囲内なのだそうだ。オーストラリアは「アメリカの太平洋・インド洋戦略」のパートナーだから日本にとっても自動的にパートナーになるのだ。東京新聞はリスクが増えると言っている。安倍政権がごまかしているので「リスクが増える」などという認識なのだが、リスクではない。現実に日本が直面する潜在的な危険性は増えている。アメリカが相対的に弱くなり日本は相対的に大きな軍事力を持っているからである。
このごまかしは2017年当時には大した問題にはならなかった。おそらく「アメリカが声をかければどの西側先進国も当然乗ってくるだろう」と思われたからだろう。ところが、その前提が崩れている。アフガニスタンでの失敗をきっかけにして「欧州軍を考えなければならないのではないか」という声が出ている。さらにフランスとオーストラリア・アメリカは今危険な関係にある。やがて「収まるところに収まる」可能性はあるのだが、収まらない可能性もある。
さらに政権が変わり「我が国と密接な関係を持つ他国」の選択基準が変わってしまうことも考えられる。つまり安倍・菅系の政権であれば対米追従路線なのかもしれないが自民党であっても別の政権が「大陸ヨーロッパとも等しく付き合ってゆこう」と方針変換をする可能性もあるし非自民系の政権が「これからは中国とも仲良くやってゆこう」と考えるかもしれない。
外部要因が変わってしまうと想定外のことが起きて今の体制が持たなくなる可能性がある。安倍政権がきちんと「個別自衛の枠組みではもたないので集団自衛に切り替えたい」といい「ただしアメリカが作った枠組みには自動的にどの西ヨーロッパ主要国も乗ってくる」のが前提であると説明すればよかった。想定が変われば、その時にまた対応を考えればいいからだ。
だが、これをやっていないので後継政権は何をどう変えればいいかがわからない。一から国民を説得し直すことになるだろう。
プログラミングをしていると「どんな前提でデータが入っても対応できるようにしておこう」という気持ちが働く。個人で動かす日曜プログラムだと「このエラー処理は作っていないから」という理由で特定の操作を避けることもあるのだが、自分でプログラムを作っているので何が不具合を引き起こすのかもわかっている。
テストのやり方は簡単だ。想定外の操作をしてみて「どう破綻するか」を再現する。だが、当然のことながら非プログラマーはそもそもそんな訓練は受けていないのだなと思った。所与のシナリオがありとりあえずその前提で動くプログラムを組んでしまうのだろう。少なくとも安倍・菅政権というのはそういう政権だった。だから彼らは「想定外の仮定のシナリオについてはお答えができかねる」と言い続けてきたのだろう。想定外のシナリオを走らせるとシステム全体が破綻するからである。
安倍総理は日本の防衛システムはアメリカのサブシステムだと思っていたのだろうが実はそうではない。日本は主権国家であり尚且つ周囲の同盟関係の変化に大きな影響を受ける。さらにアメリカは自分勝手に重層的な同盟システムを構築する傾向がある。今回の例であればQUADとAUKUSにはアメリカとイギリスが重複して入っている。システムは複雑化し「想定外のエラー」も増えてゆくだろう。