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米軍はカブールのドローン攻撃をなぜ謝罪したのか

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珍しいニュースがあった。ロイターの英語の記事によるとアメリカ国防総省が8月29日にカブールで行った米軍のドローン攻撃について「悲劇的な間違いだった」と認めたのだ。アメリカが非を認めて謝罪するのは極めて異例だ。10人の民間人が亡くなっていてそのうちの7人は子供だった。国内でかなり批判が高まっているものと思われる。

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もともとこの攻撃はカブール国際空港で米軍兵士などが殺されたことに対するアメリカ側の報復だった。だが実際には報復は果たされなかった。

米軍中央司令部のフランク・マッケンジー海兵隊大将は「この悲劇的な攻撃は間違いだった」と認めた。これは異例なことだそうだ。また何らかのreparations(補償)も検討していたと触れられている。曖昧な謝罪が多い日本と違って具体的な補償策がない謝罪はアメリカでは謝罪ではない。だが細かな内容は触れられていない。そのそも外交関係がないので被害者遺族に直接謝罪することもできない。

もともと無謀な攻撃だった。ドローン攻撃に必要なのは現地の正確な情報である。おそらく米軍はこうした情報を持ち合わせていない。つまりこの先も同じような攻撃を実行できるとはとても思えない。バイデン大統領の稚拙な行動といささか自信過剰気味の軍部という組み合わせがもたらした悲劇なのだろう。この一連の失敗はバイデン政権への批判に「燃料を供給し続けている」とロイターは書いている。

今回のドローン攻撃でロイド・オースティン国防長官は殺されたのはニュートリション・アンド・エデュケーションというNGOで働いているアハマディさんというISホラサン州とは全く無縁な方だったと認めた。国防長官はこの間違いから学びたいと言っている。そして制服組から作戦の統括権を取り上げた。

統合参謀本部議長のマーク・ミリー大将はこの作戦の失敗を「胸の痛む話であるが戦争状態という混乱の中で行われたものであり仕方がなかった」と総括していた。

ここまで記事を読むとアメリカ・バイデン政権は失敗を認めて今後同様の作戦は行わないという結論を出したように思える。だが、最終結論は保留している。おそらく一連の作戦が炎上しているのでボトムラインを決めて火消しを図ったのではないかと思う。

軍の制服組と文民の間の関係はすでに政治問題になっている。

統合参謀本部議長のマーク・ミリー大将は先日、中国に「攻撃する時には必ず宣誓してからやるので安心してくれ」と通達していたと告発本で指摘された。

トランプ政権末期の混乱はホワイトハウス襲撃にまで発展した。当時のトランプ大統領は興奮状態にあり「何をしでかすかわからない状態だった」そうである。核戦争などの偶発的な衝突を未然に防いだという評価がある一方で共和党からは国の重大な秘密を外国に密通したと非難されている。

ミリー統合参謀本部議長はこの報道を否定したそうだ。CNNによると国防総省は制服組が勝手に決めたではなく国防総省の中にいる文民とも話し合ったと言っている。バイデン大統領はミリー合参謀本部議長を信頼していると発表し自体の収拾を図っている。

一方、軍部との関係だけでなくバイデン政権の外交自体にも手詰まり感が出ている。対中国包囲網としてAUKUSという枠組みが作られた。原子力潜水艦を使って中国を監視しようという枠組みである。ANZUSからニュージーランドが抜けイギリスが入ったという感じだ。だがオーストラリアがすでに決まっていたフランスとの契約を反故にしたためフランスがアメリカとオーストラリアから大使を召還するという騒ぎになっている。

外交・防衛で強い指導力を発揮して来たアメリカだがこのところ手詰まり感が強くなっている。トランプ大統領がアメリカの信頼を破壊しそれを回復しようとしたバイデン大統領がさらに悪化させているという図式である。

今、自民党は総裁選挙の真っ只中だがこと外交防衛に対しては「アメリカ一本足打法」である。だが実際にはかなり大きな変化が起きている。もうアメリカに頼ってばかりはいられないのだ。

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