ざっくり解説 時々深掘り

緊急事態条項があったら菅内閣退陣はどうなっていたのか?

カテゴリー:

菅総理大臣が辞任することになった。選挙は11月末で歩こうさんも高いそうで、現行憲法下では衆議院議員がいない時期ができる初めてのケースとなる。コロナ禍のような緊急事態に自民党の都合によって権力の空白ができるわけで「いっていたこととやっていることが違う」と思う。自民党は緊急事態に権力の空白ができると困るから憲法を改正して緊急事態条項を導入したいと言っていた。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






今回はもし緊急事態条項があったら果たしてどうなっていたのかということを考えたい。必ずしも独裁にはならないように思うのだが、与党の都合で政治に深刻な膠着状態が生まれるかもしれない。リーダーシップを徹底的に忌避する日本では独裁者が生まれにくいのである。

今回の自民党を縛っていたのは「衆議院議員の任期が迫っているので選挙をやらなければならないのだが緊急事態宣言下なので国民の支持率が下がっている」という状況である。もし憲法に緊急事態条項があれば、与党自民党は喜んで緊急事態宣言に賛成していただろう。議会を停止し内閣に全てを一任する。そして緊急事態宣言下では選挙は行われない。これは今の内閣が第53条を無視して国会を開かなかったのと同じ状況である。

ではこの状況は問題を解決しただろうか。

国民が主に苛立っていたのは菅総理の説明の下手さである。あまりパッとしない総理大臣が自分のやりたいプロジェクトを優先して「すべてはうまくいっている」と言い張る。だが、彼が何かを押し通すたびに感染者数が増え(具体的にはGoToトラベルとオリンピックが感染者拡大と重なっていた)さらに緊急事態はいつまでたっても解除される見込みがない。おそらくこの状況に国民は耐えられないだろう。だから支持率は下がり続けたはずである。国民も総理大臣が状況を打開できるなどとは考えていない。だが苛立ちはぶつけたい。つまり流し雛が欲しいのだ。

ではこうした逆境にあって自民党は総理大臣を支えるだろうか。少なくとも今回は水面下で真逆の動きが起きた。総裁選があるために大々的に報道されたが、仮にそれがなければ水面下で同じようなことが起きていたはずだ。

主に状況をかき回しているのは二階幹事長と安倍・麻生という二人の総理大臣経験者だ。一年前「バスに乗り遅れるな」とばかりに菅総理支持を決めたが全く一枚岩ではなかった。

いくつかの異なる観測が出ている。時事通信の観測では二階幹事長には事前に退任の情報が伝わっていたとされる。この記事は菅総理の意中の幹事長は石破さんだったと書いている。これでは二階さんを切っても安倍・麻生の支持は得られない。さらに心が折れかけていたのに菅総理は解散を一時模索したとされている。つまり時事通信の見立てには一貫したロジックがなく「菅総理が混乱していた」という説明になっている。

一方の西日本新聞はもっと露骨に書いている。菅総理は二階幹事長を切ってそのあと安倍・麻生の支持が得られそうな人選を模索していた。ここで出て来るのは河野太郎行革担当大臣である。麻生財務大臣は「菅総理の泥舟に載せるわけには行かない」と声を荒らげたそうだ。二階さんを切る選択をしたのに麻生財務大臣から梯子を外されて心が折れたということになっている。だが別の報道では麻生さんは河野さんの総理就任を避けたかったと書いている。河野さんが総理になれば麻生さんは単なる党の隠居になってしまうからである。つまり麻生さんが河野さんを温存しているのか単に総理野党の重鎮になられると困るから邪魔をし続けているのかがよくわからない。また菅総理の意中の人は小泉進次郎環境大臣だと言っている人もいる。

安倍前総理は高市早苗さんを推すことに決めた。清和会には総裁選に出たい人たちが大勢いてこの決定に疑問を持っている人が多いそうだ。中には公然と高市さんは応援しないと言っている人もいるようである。つまり安倍前総理は自民党ではなく自派閥を破壊してしまうかもしれない。例えていえば資産家が息子・娘ではなく別のところにいる誰か他人に遺産を相続させると言い出したような状態である。オヤジが突然家に妙齢の女性を連れてきてこの人に遺産を継がせるから一家で協力するように言い出したという図式である。家が揉めないわけがない。

おそらく野党や野党支持者が恐れていたのは与党が総理大臣と一体になって独裁を強めるという図式だったと思う。だが実際にはそうはならない。党内が混乱すると総理大臣の選択肢はさらに縛られてしまう。2012年草案で念頭にあったのは巨大地震だ。時間が経てばやがて人々は危機を忘れる。だが緊急事態は地震だけではない。今回のように制御が難しい感染症や戦争もまた緊急事態なのだ。

おそらく最も危険なのは「敗色の濃くなった戦争」だろう。総理大臣は議会から委託されて責任を一手に引き受ける。だが総理大臣は戦局を打開できず議会も協力しないから思い切った手が打てない。さりとて緊急事態を解除して議会が責任を背負うというようなことはしたくないということになる。

脳死状態のまま内閣がダラダラと敗戦を迎えるのかあるいは敗戦すらさせてもらえず(コロナは人間の白旗を見て戦闘をやめたりしない)そのまま戦い続けるのかという二択だ。やれるものならやってみればいいとは思うのだがこれをやられると国民生活が焼け野原になる。

おそらく今回の状況を受けて「緊急事態条項がないから権力の空白が生じた」と主張する人は出てくるだろう。fshs、権力の空白を生じさせたのは菅総理大臣の決断の遅さと自民党内部のゴタゴタである。特に総理大臣経験者がいつまでも居座り無責任に口出しをし続ける状態には大いに弊害があるということがわかる。もうすぐここに第三の総理経験者である菅義偉さんが加わる。次の総理はおそらくコロナではなく総理経験者の長老たちにかき回されることになるだろう。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です