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菅総理の自爆解散について夢想する

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横浜市長選挙は自民党大敗ではなく「菅総理大敗」ということになりそうだ。今後の政局に関心が集まる。確実に支援者が集められる岸田文雄前政調会長が出馬を決めたので「9月17日告示・29日投開票」という方向で調整に入ったようだ。菅総裁の任期は30日までなのでこれがギリギリのスケジュールなのだろう。

常々野党を応援してきたので「菅総理のまま総選挙に突入したらぼろ負けして面白いだろうなあ」と思うのだがもっと面白いシナリオを思いついてしまった。総裁選挙で形勢が不利になった菅総理がリセットボタンを押せばいいのだ。それが解散である。衆議院を解散してしまえば有無を言わさず選挙になる。後先考えずに議会を解散してしまえば今とは違った構図で総裁選びができるかもしれない。「どっちみち負ける」のであれば最後に仕掛けるということも考えられるのである。

これが起こらないであろうことは明白だ。理由はいくつかある。菅総理は自分に人気がないという自覚がないようなのだ。菅総理は「自分が応援に入ったのになぜ小此木さんが負けたのか」と認識しているという報道がある。

菅総理は依然「ワクチンが行き渡ればどうにかなる」と考えているようだ。読売新聞が「首相、10月前半の解散を模索…ワクチン接種拡大で逆風の緩和に期待」書いている。これは菅総理が総裁選で勝利することが前提になっている。どこまでも自己肯定感が強く「謙虚に」人の話を聞かない菅総理ならではの逸話だなと感じた。

次にそもそも議会を開催しないと解散が宣言できない。つまり憲法53条で要求される議会を「議会のお決めになることですから」といって開催しなかった菅内閣が総理大臣の一身上の都合で議会を解散するというめちゃくちゃな事態になってしまうのだ。

最後に「海部総理の二の舞になる」という指摘をもらった。議会と諮らないで解散を決めると議会対総理大臣という図式が生まれてしまうのである。

宇野宗佑首相のスキャンダルで大敗していた自民党は参議院選挙で大敗。海部政権は衆議院議員選挙で負けを食い止めた。この時に海部総理は「選挙制度を改革する」という約束をしていたのだが党内守旧派(宮沢・三塚・渡辺派)の反対があり海部総理がいないところで小選挙区制を導入しないということが決まった。

この時、海部総理は「重大な決意をしている」と発言した。これが衆議院を解散するぞという脅しと捉えられた。重大な決意とは「衆議院解散か内閣辞職」というのが通り相場だったと思われていたと日経新聞が書いている。

海部総理のこの発言は守旧派だけでなく当時海部総理を支えていた竹下派(会長代行は小沢一郎だった)にも動揺を招き、結果的に「海部おろし」が起きた。国民の人気は高いままだったというが海部総理は結果的に総裁選挙に出馬することができなかったそうだ。

もともと総理大臣の議会解散権は不信任案の対抗措置という意味合いがあった。戦後解釈変更が行われ「議会解散は天皇の国事行為で天皇に進言できるのは総理大臣だけだから総理大臣が勝手に議会を解散して良い」というルールになった。つまり、これは違憲かあるいは違憲でなくても当初想定されていなかったルールである可能性がある。それでも総理大臣は議会と談合して解散を決めてきたのは結局それが議会にとって都合が良かったからである。「総理の専権事項」である解散は実は専権事項でもなんでもないのだ。

自爆解散なのか特攻解散なのかわからないが、議会解散が「一番面白い」シナリオではある。だがそれをやってしまえば「気に入らない議会はいつでも総理大臣がクビを切ることができる」ということが明確化する。実は議会はそれを絶対に許さない。つまりこれはある種の「談合」を前提にした制度なのである。

こうなると菅総理の取れる選択肢は、地方票を入れた選挙をやって潔く負けるか、その前に退陣するかということになる。菅総理が国民に謝罪し退陣すればある程度の怒りの受け皿にはなりそうだ。国民はおそらく自民党の下野までは望んでいない。だが自分たちの不満を誰かにぶつけたい。おそらくそのために流し雛になるのが菅総理の最後の役割ということになるのだろう。菅総理が涙で辞任してくれれば国民は溜飲を下げることができる。コロナは災害みたいなものだから仕方がないと受け入れて長い冬を過ごすことになるのだろう。

山中新横浜市長は早速IR推進室の閉鎖を決めた。おそらくこれまで積み上げてきた成果を否定された市議たちは反発するに違いない。あるいは市長の解職請求ということもあるだろう。これを解消するためには議会を解散するしかない。新型コロナ対策を優先してほしい市民はこれに不満を抱くはずである。

国政でも野党が勝ちすぎると同じことが起こる可能性がある。つまり野党があれこれ選挙で約束をするとそれを実行せざるを得なくなる。これが却って政治混乱を招き「やっぱり野党に任せるんじゃなかった」という空気を生んでしまうのだ。

おそらく野党にとって一番いいシナリオはまずマイルドに勝ってコロナを克服した後で様々な改革を国民に提示することだろう。だが8年も前政権・現政権にイライラさせられてきた支援者たちはもっと急進的な改革を望むのかもしれない。

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