バイデン大統領がアフガニスタン撤退について国民に説明した。これをどう書こうかと思ったのだが、まずはそのまま書くことにした。英語の説明をそのまま書くので順不同になっている。なぜそなんことをしようと思ったかというと「まず最初の印象」を書き留めておきたかったからだ。普段は二次情報を見て記事を書いているので、時には最初の印象と後の感想がどう変わってくるのかということが知りたかったのである。
バイデン大統領は主に次のような発言をした。
- アフガニスタンから撤退したのは正しかった。
- 撤退はトランプ大統領が決めたことだが5月1日以降もアメリカの介在なしには混乱が起きていた。自分はそれを引き延ばしただけだ。
- ガニ大統領も逃げ出したしアフガニスタン軍も戦わなかった。
- 我々はテロを防止するためにアフガニスタンにいるわけであって、国を作るためにいるわけではない。お金もかかっているし兵士も大変だ。だから、いつまでもアフガニスタンにいることはできない。
バイデン大統領は長い間アフガニスタンに関わっており個人的に現地も訪れたことがあるという。アフガニスタンの当事者達と交渉した経験からアフガニスタン当局者に不信感を持っていたようだ。「自分たちで国を作るつもりがなくアメリカに頼りきっている」という印象を持っていたのである。
バイデン大統領の冷淡さは事前の行動にも現れている。キャンプデービッドで休暇を取っていて月曜日になって戻ってきた。すでに混乱が起きていてアフガニスタン人たちが助けを求めて空港に殺到する映像が流されていた。
バイデン大統領は質問を受けずにその場を立ち去った。「なぜアフガニスタンを撤退したか」は語ったのだがそのやり方が稚拙だったということは認めなかった。続いて国防総省も会見を開いた。こちらは質問を受けたがやはり「事前に急激な展開になることは予想できなかったのか」というような問いにはきちんと答えなかった。
5月1日のアフガニスタン撤退を決めたのはトランプ大統領だった。この結果、米軍やNATO軍は部隊を引き上げたわけだが、説明の中では「トランプ大統領が決めたことをやっただけである」とあたかもトランプ大統領が悪いと言わんばかりの説明をした。これは責任転嫁にしか思えなかった。一方トランプ前大統領も「バイデンのやり方が悪い」と非難したようだ。
バイデン大統領は冷淡かつ軍事行動の展開が稚拙であるという印象が強まった。次の選挙をバイデン大統領で戦うことはできないだろうと見る人たちも増えているようである。民主党がバイデン大統領を候補に選んだのは、トランプ大統領に勝つためには安全な候補の方が良いだろうとみなされていたからである。トランプ大統領を責めガニ大統領やアフガニスタン軍を非難した。政敵であるトランプ全大統領を非難するのはなんとなくわかるのだが、支援していたアフガニスタンにたいしてもここまで冷淡な言い方をするんだと感じた人たちも多かったのではないだろうか。
これを聞いた後でいくつかリアクションを拾ってみた。
キャンプデービッドでの休暇をキャンセルしなかったことからもわかるようにカブールがタリバンに占拠されるともガニ大統領がさっさと逃げてしまうとも思っていなかったようだ。つまり事前リサーチ(インテリジェンス)や調整能力に疑問符がついた。イアン・ブレマーがこの点について触れていた。
アフガニスタンの治安維持がアメリカの平和に繋がるだろうと考えていた退役軍人たちも「自分たちの苦労はなんだったのだ?」と考えているようだ。
NATO諸国も自分たちの国民を危険にさらすことになった。例えばドイツは2,500人程度の支援スタッフを派遣しているそうだがそのほかにも人権支援をしている人たちなど最大1万人程度を引き受けなければと言っているようである。アメリカは国内に残る女性(タリバン支配下では安全が保証できない)などを見捨てたとみなされている。カナダのトルドー首相も弱い立場の人たちを受け入れるつもりがあると表明している。つまり、外交的には同盟国の信頼を失い、これまで中国を非難するために使ってきた「民主主義と人権の守護者」という看板に泥を塗ることになった。アメリカがこの看板をこのまま使い続けるのか、それを同盟諸国が信頼するのかということを気にしている識者も多かったようである。
ドイツやカナダの「人道支援」も額面通りに受け取っていいかはわからない。ヨーロッパは2015年の移民危機の再来を恐れている。つまり自国民向けに「人道支援はしましたよ」と説明できるだけの救済策を表明したうえでタリバン政権を承認して国境を閉じ「後は知らない」と言って逃げる可能性も高いのである。
アフガニスタン領内にはアメリカが大量に支援した軍事物資が残っている。タリバンという統一組織はないので内戦が始まれば国境を越えて周辺地域に波及しかねない。そこでアフガニスタンを閉じ込めてしまい中にいる人を見捨てたうえで「心を入れ替えたタリバンが統治しているはず」と説明するのが一番楽なのだ。
アメリカは年末に民主主義サミットを開いて「人道的に問題がある」中国を非難することにしている。本音では大きくなりすぎた中国を叩きたいだけなのだろうが建前として「人道」を使いたい。だがアフガニスタンにいた人たちは実質的に見捨てられてしまったということになれば「言っていることとやっていることは違いますよね」と指摘する人も出てくるだろう。
おそらく日本政府は菅政権が続く限りはアメリカ追従路線を進むのだと思う。大局観がない菅総理には今回の意味合いはよくわからないのではないかと思う。日本が応援してきた「価値観を一つにする国々」という看板は一夜にして色あせてしまった。つまりこれは日本の対中国・台湾政策にかなり大きな影響を与えることになるような出来事だった可能性が高いのである。