バイデン政権が議会対策のために最大28%の法人税率をという提案を取り下げ最低15%と提言することにしたそうだ。トランプ政権誕生の温床になった中堅層の不満を解消するためには政府が大型予算を組んで需要を底上げすべきだという問題意識と目標設定がある。そのためには財源が必要だという論理構成はわかりやすい。ただし妥協も必要なので目標は掲げたままで戦略を修正してゆくのである。
このやり方は外交にも通底している。G7サミットでバイデン政権は各国で協力してこの問題に取り組もうと提言するようだ。すでに議長国のイギリスは「基本的には賛成である」と表明している。デジタル系企業への課税問題も含めて法人税改革はG7の大きなテーマになりそうだ。英米の問題は違っているはずだが協力できるものは協力してゆこうということになったのである。
考えて見れば現在の法人税は製造業基準だ。モノを届けるためには市場の近くに工場を立てなければならないという制約があったために大きな工場や本社機能を持っている国で課税するという方針が成り立ってきた。こうした状況変化は英米とも共通している。
バイデン政権はデジタル企業100社への課税を増やそうとしているわけだがイギリスは事業を展開する国での課税を強化すべきであると注文をつけている。デジタル企業には物流コストがほとんどかからないので新しい税制を考える必要がある。国際社会はなかなかそれができずにいる。G7はその状況を変えるためのきっかけが作れる。財務省・中央銀行の間では一致が見られたそうだ。
このように問題意識から目標を立てて具体的な戦略を立てるというやり方は世界的に普通に行われている。だがそれが成り立たない国がある。それが日本だ。
日本では政治家の願望がありそれに向けて戦略が立てられる。そしてその戦略を肯定するような説明が求められる。方向が逆なのである。そんな中「世界基準」で戦っている政治家がいる。それが尾身茂会長だ。
尾身茂会長は国会で「この感染状況下でオリンピックをやるというのは普通のことではないのだから」「もしやりたいならよっぽどの対策を取らなければならない」と提言し、大きく取り上げられた。
背景には何があったのだろうか。東京新聞は「オリンピック組織委員会から非公式に打診があった」という尾身発言を伝えている。おそらく公的的な言葉が得られれば「尾身会長のお墨付きが得られた」と宣伝したかったのだろう。
尾身会長は分科会が単なるアドバイザリーボードになったときに政府に徹底的に尽くして見せていつの間にか立場を回復させた。一時は総理大臣に代わって専門的な質問を一気に担当して見せた。ところが発言が単に利用されるだけになると立場を変えて独自の情報発信を始めている。医学の専門家というよりも政治家としての色合いが強いのである。
その後、田村厚生労働大臣が「あれは自主研究の発表に過ぎない」というのである。政府も組織委員界も自分たちに都合が良い意見は聞くが都合が悪いことは「聞かない」という方針なのだろう。だが安倍政権下で政治的な足腰が育っていない自民党の政治家は尾身会長の政治に太刀打ちできない。
ここで注意すべきなのは尾身会長はオリンピックをやるなとは言っていないし自分にその権限があるとも言っていないという点である。目標を設定したのならそれに沿った戦略を立ててくださいと言っているだけである。だからより説得力がある。
自民党は下野したとき反省せずに悪名高い憲法改正案を作り「ジンケンがあるから国民側かガマになる」と総括した。今度は専門家に裏切られた形になっている。だが「専門家のいうことを真摯に聞こう」という人は多くないようだ。普通はない発言は言葉が過ぎるという不満の声が自民党から出たそうだ。
おそらく政府がどうしてもやらせてくださいと言えないのは、オリンピック感染が避けられないと知っているからだろう。リスクがあることについては責任は取りたくない。おそらく組織委員会も政府も「あのとき尾身会長が承認してくれたから」と言いたかったはずである。おそらく単なる医学専門家ならこの政治から逃れられなかったはずだ。
こうなると政府にできることは尾身会長の解任か閑職への移動だろう。ただ尾身会長が解任されればその時点で有権者は「ああこの戦争には負けたんだな」と感じるのではないだろうか。
ではこうしたおかしな風潮はいつから生まれたのか。やはり元凶は安倍元総理なのではないか。
安倍前総理は菅総理へのアドバイスとして「G7では個人の見解を述べたほうがいい」とアドバイスしたそうである。首脳や記者にキャラをアピールして良い印象を与えてこいと言っている。陽キャらしい発言だがこれを陰キャの菅総理がやると痛々しいことになりそうだ。
おそらくゴールデンのバラエティに出ることが決まった芸人へのアドバイスとしては適切だろう。MCや視聴者に印象を残すためにはキャラを打ち出したほうがいいと言っているように聞こえる。おそらく安倍総理はG7を社交の場だと認識して乗り切って来たのだと思う。
とにかく今ある状況を利用して自分たちのキャラを売り込むことしか頭にないのだろう。これと言った政治課題がなくあっても先送りされてきた時代にはうまく通用した戦略だが、今はもう通用しない。我々は解決すべき問題に直面しているからである。菅総理は長年官房長官をやっていたのに総理になる準備ができていなかった。もう十分わかっただろうから早く退任してほしい。オリンピック対策もG7もうまく乗り切れないだろう。
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