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大坂なおみ選手の報道が180度変わったことの危険性について考える

大坂なおみ選手をめぐる報道が180度変わった。これはかなり危険なことだと思った。

ことの発端は大坂選手が全仏オープンの記者会見を拒否したことだった。日本円で165万円と言われる罰金が話題になり、前から大坂選手を快く思っていない人たちからバッシングがあったという。ところが一夜たって大坂なおみ選手が「デプレッション」だったと公表して風向きがガラッと変わった。一夜にして「コンプライアンス案件」となりバッシングすることができなくなってしまったのである。

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一見、これは良い動きのように思えるのだが実はかなり危険であり、そのこと自体が大坂選手が置かれている立場の危うさを象徴している。だが、非当事者にはその危険性がよくわからないのではないかと思う。

メンタルヘルス問題というのは究極のプライバシーであり大坂なおみ選手が公表に追い込まれたというのは人権侵害だ。こうした人権侵害が起こるのは主催者たちがメンタルヘルス対応を軽視していた表れだ。つまり金儲けのために選手が危ない精神状態に置かれても仕方がないと考えている。選手を人ではなくモノとして見ている。

ただ、従業員を人として見ないで単なる労働力と考える企業は多く、生徒を単なる管理対象と考える学校も多い。実はこうした対象物化は実社会でも多い。つまり大坂選手の問題は決して他人事ではない、

心身の不調を訴えているのになかなか休ませてもらえず相談窓口もないという人は多いはずである。問題が起きた時に組織や企業がどう対処すべきなのかという議論があってもよかったが単にコンプライアンス的に面倒な案件ということになってしまったために単に興味本位の報道で終わってしまっている。結果的にメンタルヘルスは面倒な問題だから関わりたくないということになってしまい理解増進が進まない。

もちろん、テレビのスポーツコメンテータの中にはこの点をしっかりと指摘している人がいた。だが、司会者たちは単に議事進行して他の話題を扱いたがっている。「面倒なことには関わりたくない」とか「変なことを言って炎上したくない」という気持ちの人が多いのだろう。

実はうつ病という報道にも問題はある。本人が英語でdepressionと表現しておりこれが病気なのかはわからない。うつ状態とうつ病を混同することで「自分が不調なのでは?」と思っている多くの人に正しい情報が伝わらなかったという問題もあった。

状況はかなり危険だったようである。二つのアンビバレンツがある。

大坂なおみ選手はクレーコートが苦手である。さらに日本人として受け入れられていないという状況があるために「日本代表としてオリンピックに出場する」ということにはおそらく強いこだわりがあるのだろう。これが最初のアンビバレンツだ。

さらに、ロールモデルとして注目されることもかなりプレッシャーになっていたようだ。つまり社交的な人ではなく注目されたくない。しかし、アメリカでもマイノリティであり日本でもマイノリティとして扱われることがありパブリックフィギュアとして言動が注目される。ファッション雑誌に取り上げられたりもしている。すると期待に応えようとしてしまうのである。本来の欲求と周りの期待がかなりずれていてその間でアイデンティティの揺れが生じる。

うつ状態で苦しんでいるならしばらくテニスを離れた方がいい。ところがそうすると4年に一度というオリンピックに出られなくなってしまう可能性が高い。さらに注目されたくないがやはり自分の思っていることは言いたい。さらに彼女の発言に共感して救われる人も多いから周囲にも応えたい。

つまり、休みたいが休みたくないというアンビバレントな状態にあり、注目されたくないのに注目されてしまうという意味でもアンビバレントな状態にある。さらに年齢はまだ20歳代前半であり人生経験が豊かとも言えない。これだけを見ても精神的に不調になっても当然の状態だろうと思う。

さらに周りの評価の揺れという問題にも直面している。これも実はよくあることだ。

四大大会はもともと「こんな状態が続くなら参加は見送ってもらう」と恫喝気味だったのだが情報開示に伴って避難が殺到することを恐れたのか「最大限にサポートします」と態度を変えた。柔軟な対応だと賞賛されるのかもしれないが、結局周囲の動向次第で態度がコロコロと変わるのだなという印象を与えかねない。そもそも自己がはっきりと確立していない人が「評判や条件次第で相手の態度が変わってしまうのだ」と認識してしまうのも極めて危険な気がする。

なにせつい昨日までは「あなたの考え方は甘えていて受け入れられない」と言っていた人たちが「周囲の反発を恐れて」一夜にして「あなたのことをサポートします」などと言ってくるのである。信頼できる人は誰もいないということになってしまう。実は、周りが優しくなった今の方が危険なのかもしれない。

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