自民党が勝手に揺れている。これまでいいように解釈されてきたことが全て逆回しになっている。当然政権批判をしていた人は「メシウマ」だろうと思う。逆にこれまで政権の権威に乗っかって野党支持者を叩いてきた人たちは焦っているようだ。
自民党の1.5億円ゲーム
最初の記事は二階幹事長を巡るものだ。林幹雄幹事長代理が「二階幹事長が一人で決めたわけではない、みんなで決めた」と言い訳した。二階幹事長はまず選挙対策の責任者だった甘利明氏の名前を挙げたが一転して責任を認めた。つまり官邸に言われて納得していないけどハンコを押しましたと言っているのである。みんなに言われてやりました、だから僕は悪くない、ということになる。
二階幹事長が恐れられているのは彼が自民党の金を全て決済しているからである。だからハンコを押したから責任がないなどと言えるはずもない。これがマスコミで叩かれると一転して責任を認めたわけだがよく聞いて見ると安倍元総理の名前を挙げているだけである。「自分の責任だから最後まできちんと説明します」などとは決して言わない。そんなことをしても自分の得にならない。あいつが悪いのでは?と言い合っていればそのうちうやむやになるだろうという計算を感じる。
菅総理を擁立するときには「バスに乗り遅れるな」とばかりに二階幹事長に続く動きがあった。つまりみんながあっちを向いているから俺たちもあっちだ!と焦ったわけである。だが今や安倍総理・菅官房長官の官邸組に関与すると泥を被りかねないという状態になっている。そもそもこの動きを言い出した岸田元政調会長にも政局的な思惑があるのだろう。
つまり今度は「逃げ遅れた人が負け」というゲームが生まれている。
バスから逃げろ・船から降りろ
高橋内閣参与が退任した。最近やんちゃな発言が目立っていた。ただ……高橋さんはこれまでも刺激的なものいいで知られていたわけで「なぜ今になって?」という気がする。もちろん証拠などないわけだが、高橋さんは「ネットで彼の支持者にアピールすることをいう自由」を取るか「内閣参与」という名前の旨みを計算したのではないか?と思った。つまり合理的な行動なのである。さすが官僚出身だけのことはあると妙に感心した。
バスから逃げろといえば政権擁護で知られる読売新聞の記事を読んで驚いた。記事の内容は菅総理がワクチン接種に高い目標を設定したという話で、必ずしも政権批判ではない。とりようによっては強いリーダーシップを発揮する菅総理という書き方はできるはずである。だがタイトルが「周囲の制止振り切り突っ走る首相、高齢者接種「7月完了」譲らず…[政治の現場]ワクチン<1>」となっている。つまり「殿ご乱心」となっているのだ。悪意を感じる。
この中で殿の乱心を諌める忠臣の役割を担っているのが河野太郎行革大臣である。この人も強引でわがままな物言いで知られる人ではある。だが記事を読むと「菅総理に無理やり目標設定されたが本当はそれを諫めていた」と読める。読売新聞もいつも政権寄りというわけではなく「勝ち組に乗っておいたほうがいい」という計算があるんだなあと感心した。さらにできればキングメーカーになって有利な地位を維持したいという気持ちもあるのだろう。
こちらも「菅総理は終わりである」という感じがする。
話は聞いたが態度は変えないゲーム
皆が船から降りたがる中で流れが読みきれていない人たちもいる。
稲田朋美特命委員長がLGBT関連の審議を打ち切った。話は聞いたが予定通り行かせてもらうというわけだ。これに保守派が反発している。単に反発するならいいのだがその過程で「LGBTはどこか不自然である」と当事者たちを傷つける発言が出る。おそらく自民党人気が下がっている最中のこの手の発言は反発されると思うのだが発言者たちは気にしていないようだ。
一方で「話は聞いたけど予定通りに行かせてもらうわ」というやり方は安倍政権時代に野党に対して行われていた。それを自民党が保守系議員に対してやったわけである。
今のままの自民党には選挙で不利だという焦りがあるのだろう。森喜朗元オリンピック組織委員長の発言に始まり「あの界隈の人たちは女性の人権を軽視している」という印象がある。LGBTの権利保護に乗り得点稼ぎをしようとしたのかもしれないが、却って時代についてゆけていない自民党という印象がついてしまった。だが「法案を自民党が妨害した」となればさらに悪役感が高まるだろう。そんな焦りが感じられる。
菅政権はもう長くない。コロナ敗戦の責任を取って退陣してもらえば次がある。稲田さんのがんばりどころである。ただその手法は安倍政権時代の強権的なやり方である。野党にやっていることを保守にやっている。稲田さんは保守ぶって安倍・菅体制に付き合ってももういいことはないと思っているのではないだろうか。
誰も責任は取らない・ただ逃げるだけ
これをみていると「誰も責任を取らないんだな」と思う。みなが二階幹事長に追随しこぞって菅総理誕生を支えたかに見えるのだが、支持率が下がると「いや、実はあの時に納得していなかった」と言い出す。二回幹事長も「決済はしたがみんなで決めたから従っただけ」という。誰も安倍元総理や菅総理のところに「1.5億円はどういうつもりで渡したんですか?」と聞きにゆかない。ただ、菅総理に従うつもりもなく散り散りに逃げ出している。
ただ、田崎史郎・伊藤惇夫両氏の分析を聞くと「誰もが逃げ出そうとしている」というのはちょっと違っているようだ。麻生・甘利・安倍の3Aと二階派の間の綱引きになっていて「誰が次の形を作れるか」という牽制合戦をし合っているのだというような解説をしていた。泥をかぶるのは当事者の内閣だけで、形ばかりの支持を表明しながら外から見ているだけの人たちは「次もなんとかなる」と思っているのかもしれない。
確かに野党がないも同然という状態なので総括しないままで「菅さんは失敗だったね、次は誰にしよう」というところに落ち着くだけなのかもしれないなあと思う。ただ国民生活は良くならないし、コロナもオリンピックも消えてなくなるわけではない。誰かがなんとかしてくれるだろうでは厄介ごとは消えてなくならないわけだ。