菅政権が追い詰められてきた。実質的に安倍政権の中身なのでこのまま退陣せずにサンドバッグのように打たれて欲しいと思う。水に流して反省しないのが日本社会のいいところだとは思うのだが、この際だからじっくりと膿を出し切ってほしいと思う。
まず、息子が絡んだ疑惑が出てきた。東北新社の子会社が総務省に優遇されていたという話である。おそらくこれで総理を追い詰めることはできないだろうが「使える」コマではある。
昨今の官邸主導の影響で官邸に食い込んだ省庁が他の省庁の優位に立てるという状況が生まれている。出世と組織の優劣にしか興味がない官僚にとってみれば息子の優遇で総理の覚えがめでたくなれば「海老で鯛を釣る」ようなものだろう。つまり総理大臣が指示したわけではなくても官邸主導を推進することがすなわちネポティズム(縁故主義)の温床になると証明できるからである。
このネポティズムの行き着いた先が地縁社会が10年ごとに革命を繰り返す韓国だ。弱い集団社会である日本では省庁の序列競争となって現れている。省庁同士が戦争を繰り返すようになればおそらく中央集権的な日本の政治秩序は内側から見えない形で崩壊する。できればそれは防ぎたい。
毎日新聞社が次のようなことを伝えている。
- 東経110度CSにおいて東北新社の子会社の囲碁将棋チャンネルがSD放送で認可されているが別の会社は落ちている
- そもそも組み替えはハイビジョン化を目指して行われていた。
- 菅総理長男が接待した関係者は職務権限があった。
- 「囲碁将棋チャンネル」について認定を受けた18年4月。
- 認定基準を作っていた17年6月あたり。
- 「スターチャンネル」の放送事項の変更許可があった20年3月の時点。
- あとは、東北新社に関係するようなBS、CS番組がそれぞれ5年に1度更新を迎えるので、そのときごとに職務権限がある。
この話は加計学園の時の事情とよく似ている点と違っている点がある。加計学園では総理に近い学校関係者が優遇された。だが東北新社の子会社を優遇しても菅総理にメリットはない。むしろ、総理の歓心を買いたい官僚が自発的に菅総理の長男に近づいているだけなのかもしれない。だが総理大臣は総務省に心理的な貸しができる。息子がお世話になっているからである。
似ている点もある。加計学園が獣医学部を作るにあたって京都産業大学は選定からはじかれる形で「辞退」することになった。後になって京都産業大学の方が加計学園よりも適性があったということがわかったが、形式上は辞退なので「選定していない」ことになっている。全てが密室で決まるため、最終的になぜこうなったのかが極めてわかりにくい。中央集権による許認可政治の弊害である。
かつての許認可は純粋に省庁の植民地獲得のために行われていたのだが、近年では官邸の力が強くなり官邸の歓心を買うためにますます過激化しているのかもしれない。この逆側には「どうせ総理大臣には贔屓にしてもらえない」とやる気をなくす省庁も出てくる。厚生労働省などがその例であろう。
日経新聞によると京都産業大学は「こんなスケジュールでは教員確保はできない」という理由で辞退している。なぜ加計学園には準備ができたのかという説明はなくそもそも加計学園が要求通りの教員を集められていたのかということもよくわからない。さらにこの表向きの理由が本当に京都産業大学が辞退した理由なのかもよくわからない。要するに何もわからないのだ。今回の東北新社子会社の件も「よくわからない」ということになるのだろう。
おそらく「賄賂性を証明する」のは不可能だろう。
ところが総理大臣を巡る心象には大きな変化が起きている。虚の政権だった安倍政権は「みなさんは素晴らしい国の国民なんですよ、今のまま変わらなくても大丈夫なんですよ」という催眠手法によってコミュニケーションマネジメントをして来た。これが切れたいま禁断症状としての支持率低下が起きている。菅総理は「今のままで大丈夫ですよ」と言ってくれない。実際にコロナでたいへんなことになっていて、全くもって大丈夫ではない。
この不満がはけ口を求めている。森会長辞任でわかったようにぶつける手段があれば要するになんでもいいのである。そして一度ほころびが見え始めると「ずいぶんいろいろなことを密談で決めてきたんだな」ということがわかってくる。こうして国民は政権に飽きるのである。
オリンピック・パラリンピック会長の辞任によって、川淵三郎さんが「実は会長人事に総理大臣らが深く関与している」ということをばらしてしまったため「またも密室政治なのか」ということになりつつある。
日本の政治を後で見直すと「なぜこの流れになったのか?」がよくわからないことがある。こうして流れと勢いでなんとなく変わってゆくからだ。今回の流れも後で見ると「コロナをきっかけとしていろいろなところにケチがつきはじめなんとなく政権崩壊につながった」としか説明ができないのかもしれない。
菅政権が行き詰まり始めたのは二階幹事長への会食バッシングが起こり始めた頃に重なる。おそらく政権はこれまでも面と向かって話し合うことで様々な談合を繰り返して来たのだろう。これができなくなったことで調整ができなくなってしまった。
今、立憲民主党で政権運営に詳しいメンバーはこの点を突き始めているようだ。立憲民主党の支持拡大につながるかはわからないが密室談合が菅政治の要点であることを知っているのだ。
江田憲司議員が1月25日に面白いことを聞いている。朝日新聞が「どうして公邸に入らないのか」理由を問われた首相は…という記事で伝える。
これに対し、江田氏は「失格答弁だ。確かに10分、15分の距離でしょう。しかし、10分、15分が国家の命運を左右することもある。大地震が起きて道路が陥没したらどうするのか」「(公邸では)24時間、情報収集できる」などと重ねて質問。
「どうして公邸に入らないのか」理由を問われた首相は…
おそらく、立憲民主党側は菅総理が面会記録が残る首相公邸入りを嫌っていることを知っている。記録に残らない会合に依存していると知っているからだろう。つまり国民に知られると困る会議を行なっているのだ。
過去の問題は証明できないが、今後それをできなくしてしまえばいい。
これまでも安倍総理・菅官房長官への面会記録が作られていないということは問題視されて来た。予約記録という別の記録もあるそうだが「これが面会記録に使える」とわかってから黒塗りになったこともあるそうである。NHKが伝えている。安倍総理・菅総理はそれくらい「誰とあったか」を隠したがる政権なのである。
今回震度6強の地震を経験した。たまたま震源が深かったから「震災」クラスの災害にはならなかったが、新型コロナ禍でも地震は起こるのだということはわかった。総理大臣は公邸に入るべきだという議論に反論するのは難しくなるだろう。
菅総理を官邸に押し込めれば、おそらく記録に残らない会議は行いにくくなるはずだ。長い安倍政権・菅政権を支えて来たのはおそらく会食と記録に残らない密会だったのだろう。地震や病気という災害がそれを難しくしている。どちらも政治が作り出したものではない。皮肉なものである。