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山田太郎参議院議員はオタクの味方であり続けることができるのか?

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コスプレで儲けが出た場合「課金しよう」という動きが出ているようである。色々と問題があるようだ。

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第一にこの動きは国内のコスプレイヤーへの課金になるはずだ。記事を読むと著作権者が目をつけたものだけに課金できるというコスプレイヤーにとっては透明度の低い仕組みが想定されていそうである。

海外でもこうしたイベントはあるだろうが日本の法律で海外にいる人に課金はできない。ところが説明としては「クールジャパン」と結びつけらている。官僚が考えそうなことだが「海外へのコスプレの普及」という反対しにくい表現にした方が通りがいいと考えたからだろう。これが話をわかりにくくしている。「おそらく意図は別のところにあるのだろうな」と思える。

クールジャパン戦略そのものは単なる官僚らの利権の温床になっていてあまり成果が出ていない。成長産業がなかなかできない日本では「次世代産業を育成する」といえば政府からお金が引き出せていた。実際のクールジャパン事業は死屍累々のようであり国が本腰を入れてクールジャパン戦略を推進しようとしているとは思えないが、官僚たちは先輩を引き受ける植民地さえ作れればよかったのだ。このコスプレ管理団体にもその匂いを感じる。官僚出身者はオタク文化には対して興味はない。数年過ごせる寄宿先が欲しいだけなのである。

さらに山田太郎参議院議員の発信にも問題がある。現在は党の知財の責任者だそうだ。オタク事情に精通している「話のわかるヒト」としてTwitterのオタク界隈の支持を集めた実績は確かなものがある。2019年の選挙では全国で54万もの得票がありオタクは票になることがわかった。事情通でなければこれほど多くの人の心をうごかせなかっただろう。今回も「私がこの件で動いている」といっていて一定の安心感はある。

ところがここで少し気になったことがある。憲法21条の「表現の自由」を題目にしているのだ。

Twitter言論では確かに「表現の自由があるから」という理由でオタクの創作活動を守っていればよかった。わかりやすくて良いともいえる。ところが表現の自由は厳密には国家権力に対して意見をいう自由を意味している。例えばコスプレをして体制批判をしている人がいれば「表現の自由を守る」と言える。だがコスプレは厳密には憲法上の「表現の自由」とは言えない。つまり論拠としては議論に使えないはずなのである。

コスプレ問題は「コンテンツビジネスを広げるためにどれくらい二次創作を認めるか」というビジネス上の問題であって政府が出てきて調整するような話ではない。例えばYouTubeには韓国のテレビ番組に(おそらく勝手に)日本語字幕をつけたものが多く流れている。それが韓国文化の露出につながるから放任されている。ここの業者が決めればいい話なのだ。

日本のコンテンツビジネスは「経営者の頭が固い」ためにこうした二次利用を認めたがらない傾向があった。例えば音楽でいうと、音楽業界のメインストリームはレコード会社と言われるレーベルであり著作権者ではない。レーベルは自分たちの独占的地位が守られることを最優先するので広がりや産業全体の成長を無視する傾向がある。YouTubeやインスタがバズっても自分たちの儲けが減るだけだから意味がないと思ってしまうのである。

一方でコスプレ団体が「自分たちの表現を守るために団体を作って著作権者と交渉しよう」という話も聞いたことがない。日本人はYouTubeやインスタグラムのように新しいプラットフォームに乗るのは得意だが自分たちでこうした環境を整備することができない。お互いに協力することが苦手だからである。

この話を概観するといくつもの噛み合わない歯車があることがわかる。おそらく政府・自民党は「せっかく儲かっているのだからそこに関所を作って利権にしよう」という思惑があるのだろう。だが、それでは話が通らないので「海外利用を促進する」といっている。仮に日本のコスプレイヤーからの課金が海外普及促進につながるとしたらそれは「我々が新しくつくる団体にお金を預ければ海外普及を促進できますよ」と言わなければならないのだが、実際のクールジャパン事業は単に天下り先になっているだけで実績がない。だから曖昧な言い方しかできないのだ。

実績が乏しく予算獲得ができなくなったクールジャパン事業がついに資金の自前調達を迫られているのかもしれないなあと思えてしまう。そのための宣伝のために有名なコスプレイヤー「えなこさん」と面会をしたというだけの話なのかもしれない。

さらにそれを「表現の自由を守るから」という漠然とした理由で「ちゃんと動いてますから私を信じてください」と説明されると「政府・政権のナカノヒトになった山田太郎さんの言葉を信じてもいいのだろうか?」ということになる。「もしかしたら山田さんは単に官僚に取り込まれてしまっただけ」なのかもしれない。

ただ、民間同士できちんとしたビジネススキームさえ作れていればそもそも政府や官僚が介入してくることはなかったはずだ。YouTubeではプラットフォーム・著作権者・ユーザーが協力したながら独自のエコスステムを作り上げてきたのだが日本ではそれが進まない。実は問題の根幹は協力できない日本人は新しいエコシステムが作れないという点にあるようだ。

このコスプレ課金が実現すれば次に狙われるのはおそらくビジネスとして成立しているコミケだろうなと思う。多くの二次創作者を萎縮させることになるかもしれないが、官僚はおそらく「しばらく何人かを養えるポジションができればそれで良い」と考えるのではないだろうか。

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