ざっくり解説 時々深掘り

GoToトラベルの責任を押し付け合う地方自治体と首相官邸

東京での新型コロナの新規感染者が3日寛連続で500人を超えた。例によって医師会の人がなにやら怒って会見をしている。続いて尾身茂さんが会見を始めた。「また専門家が叫び始めたなあ」と思ったのだが、政府の反応は鈍かった。なぜこんなに後手に回るのだろうと不思議に思った。

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「おかしいな」と思ったのは土曜日の午後になってからだった。Twitterでは「会見があるらしいが遅れている」という話が出ている。安倍政権時代ならテレビのスケジュールを調整した上でNHKでコメントを出すというのが一般的だったはずだ。だが、なぜか大相撲をやっている。

確かに千秋楽に優勝が決まるという「面白い展開だった」ということもあるのかもしれない。貴景勝は「日本出身力士」なので日本人に勝ってほしいという人が多いのではないか。結局、決定戦で照ノ富士を破り貴景勝が優勝したそうである。相撲は盛り上がったことだろう。

ただそれでも「あらかじめ6時から会見をやる」と言えばよかったはずである。速報が入り何やら見直しが決まったということはわかった。だが内容は全く伝わってこない。菅総理が何を言っているのかもよくわからなかった。発表の調整はしなかったようだ。

加藤官房長官や周囲のスタッフが「見え方」のお膳立てをしているようには思えない。もしかしたら、菅総理はかなり孤立しているのかもしれない。

詳しく知りたかったのだが全体をバランスよくまとめている記事はない。二つの新聞記事を読んだ。

菅総理が躊躇した事情は朝日新聞を読むとわかる。どうやら専門家会議で言われるまで首相官邸の側で中止や見直しをするつもりはなかったようだ。記事をよく読むと「菅総理の肝いりの政策だったから」と書かれている。つまり社長のペットプロジェクトのようになっていて側近や大臣が中止を進言できないのである。

菅総理は政策にコミットしてしまうとその間違いを容易に認められないという頑迷な一面がある。おそらくGOTOキャンペーンという庶民目線の政策を変えられない事情はそれほど複雑なものではないのだろう。

朝日新聞だけを見慣れているとついつい政府に批判的になってしまう。だが、読売新聞は「キャンセル補償」をタイトルに持ってきていた。対照的だと思った。朝日新聞はプロセスを大切にしているのだが読売新聞は結果だけ辻褄があっていればいいのである。

常々政府に批判的な立場で文章を書いてきたのだがそれは「プロセスを気にするからなんだな」と思った。おそらく政府批判をしない人は結果の辻褄さえ合っていればあとは気にしない人たちなのだろう。

読売新聞には統治者目線という側面もある。あとで色々な人の感想を読んで見たのだが日本人は政府批判者に対する蔑視感情を慰めにしている人も多いようだ。つまり政府批判をしている社会主義者(左翼)という架空の存在を置いている。それをアンダークラスだとみなすことで「自分たちが社会の主人である」という自己評価を得ているのではないかと思う。例えば観光業に従事している人たちの中にも頑なに朝日新聞が認められないという人がいる。では彼らが諸将官邸の政策を是認しているかといえばそうでもなさそうだ。

結局、政府批判はできないが文句は言うという状態になっている。日本人によくある居酒屋マインドである。

読売新聞はマネジメントに興味がないのだが統治者目線に立ちたがる人たちが読んでいる新聞だということになるだろう。読売新聞は「GoToキャンペーンが不都合だと思うのであれば都道府県の方から申し立ててこい」という政府の言い分を軸に記事を組み立てている。「言いたててくればキャンセル料については相談に乗ってやってもいい」ということである。

おそらくこれは真実ではない。西村大臣はキャンセルについてはこれから決めると言っている。おそらく内部は相当混乱しているのだろう。だが読売新聞はおそらくそれは書かないのではないか。

この世界観に従うと「悪いのは感染を防げなかった北海道」ということになる。北海道の不始末なのだから国があれこれと対策を立てる必要はない。北海道がお願いをしてきて初めて国が動けばいいということになる。

ここまで捉えると菅総理が会見を開いて国民に要請しなかった理由がよくわかる。おそらくこの問題について首相官邸は自分たちが当事者だとは考えていないのだ。朝日新聞ばかり読んでいるとそのことに気がつけない。

小池百合子東京都知事はこうした国の様子がわかるのだろう。国が言い出した事業なんだから国がなんとかしろと言っている。だが国の状況がわからない知事の中には「なんとかご相談しよう」という人もいるかもしれない。キャンセル料に関しては事業者、政府、地方自治体の思惑が絡み合い、すんなりとは決まらないかもしれない。結局割りを食うのは消費者である。

現実的には都道府県が判断してそれを国が援助するということにはならないだろう。いちいち監督官庁が振り付けをしたがるはずだ。さらに北海道のように広域な自治体はさらに混乱するだろう。実際に問題が起きているのは札幌近郊のようだが実際には北海道の観光や飲食がすべて止まることになるのである。地域特有の事情に各官庁は無関心だし首相官邸に至っては当事者意識すらない。彼らの頭の中にあるのはおそらく別の心配事である。みな、とにかく失敗の責任を取らされたくないのだ。それはおそらく「結局オリンピックができない」と言う失敗で国民の健康ではないのではないかと思う。

イデオロギーが存在しないはずの日本にもなぜかアメリカの様な左右分断状況がある。「不思議だな」と思っていたのだが謎の一端が解けた様な気がした。日本には政治的視点が全く異なる二つの部族がいるのだ。おそらく二つの部族が意思疎通をすることはほぼ不可能だろう。視点が違いすぎて会話そのものが成り立たないはずである。

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