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やさしい日本語のやさしくない実態

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やさしい日本語という言葉がある。外国人向けの平易な日本語という意味である。最近この言葉がよく聞かれるようになったのは新型コロナ対策で外国人への感染が広がっているからだ。日本語が難しいからよくわからないのだろうと考えた東京都が外国人に対してやさしい日本語で訴えることを決めたのである。

だが、このやさしい日本語は使い方を間違えると相手を不快にすることがある。

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日本人の中には自分たちの言葉がどこか特別で難しいものだと考えている人が案外と多い。「外国人はとても日本語のような難しい言葉は習得できないだろう」と考えてしまうのである。さらにアジア人に対しては蔑視感情がある。この組み合わせが相手を不快にする。

普段から蔑視感情に晒されている中国人などは平易な言葉を使われると「バカにされている」と思うことがあるのだそうだ。「自分たちのことを対等に見てくれない」と思うようである。

ではヨーロッパ系はやさしい日本語を好むのか。彼らもまた顔が「外人顔」なだけで日本語が話せないと思われることがあるようだ。さらに、どちらかの親がヨーロッパ系の日本人(いわゆるハーフと言われる人たち)や日本育ちのヨーロッパ系もいる。「外国人風」の顔を見ただけで「いや、私は英語は苦手なので」と対話を拒否されることもあるようだ。

普段からこういう目にあっている人が平易な日本語で話しかけられるとやはり「うんざりする」ようである。大概経験のない日本人にはよくわからないかもしれないが「対等に思われていない」という体験はおもいのほか人の心を傷つけるのだ。

だが、国際感覚に乏しい日本人にはなかなかこういった複雑な事情は伝わらない。「こちらは親切でやってあげているのだからその親切を受けいれるべきだ」などと考えてしまう人が多いようである。ゆっくり話すのはいい。しかし子供に話すように話しかけるのはよくない。対等に扱っていないからである。だが親切を押し売りしたがる日本人の中にはこの区別がつかない人が大勢いる。

道徳心を使ったマウンティングはよく行われる。自分たちがいい人であるということを誇示するために「優しい日本語」という言い方が使われる。だが、それは実際には差別心の裏返しだったりする。親切とは難しいものである。

やさしい日本語は実は日本人にこそ使われるべきなのではないかと思うこともある。NHKはやさしい日本語のニュースを伝えているのだが本来の意味がわかって面白い。ただ込み入った政治のニュースはあまり扱わないようだ。「外国人は難しい問題は知らなくていい」と考えているのだろう。外国人の権利関係についてのニュースも少なく、治安や安全に関するニュースが多い。NHKは日本人の持っている外国人蔑視の感情をわかりやすく伝えてくれる。外国人はゲストでいい、日本社会には入ってきてほしくないと思っているのである。

ここでやさしい日本語のテクニカルな面を見てゆこう。

新型コロナ感染予防に外国人に「やさしい日本語」が使われているというニュースを伝えている。

日本語版では「長時間の会食や大声での会話は避けましょう」と書かれています。これに対しやさしい日本語版では「食事の時間を短くしてください。大きな声で話さないでください」と書かれ、漢字にはふりがながついています。

コロナ感染防止 外国人に「やさしい日本語」で伝えるポスター

漢語を避けてもっと具体的な日本語が使われている。漢語や英語由来の言葉を使うと「なんとなく意味がわかった」として曖昧な表現になることが多い。これを避けて具体的に伝えるだけで日本語はわかりやすくなる。単に幼稚園児に伝えるように「優しく」伝えるのがやさしい日本語ではない。それなりの技術が必要なのだ。

こうしたやさしい日本語が技術として取り入れられている分野もある。それが医療分野である。外国人にも自分がどんな治療を受けているのかをわかりやすく伝える必要がある。実際にものを見せたりやってみせたりすることでわかりやすさを担保しているようだ。

おそらく今一番やさしい日本語を必要としているのは菅政権だろう。やさしい日本語を使うとごまかしが効かなくなる。言葉遊びの余地がなくなるからである。菅政権が説明責任を果たすつもりならやさしい日本語を使うべきなのだろうが政権の日本語はどんどん難解になっているように思えてならない。

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