トランプ大統領の再選があるかもしれない。菅政権はトランプ・バイデン両にらみで方針を考えているようだ。あれほど明確にデタラメなトランプ大統領が残るかもしれない原因は「格差」の放置ではないかと思う。しかもこの数年で起きた変化ではなく長年降り積もったものが一気に爆発した感じである。
トランプ大統領が出てくる以前のアメリカにはグローバル経済・自由主義礼賛の空気があった。社会主義体制が崩壊しアメリカは脱工業化を果たし一人勝ちの状態だった。そのアメリカではインドや中国からやってきた移民がGAFAを中心としたIT企業を繁栄させるという説明がされていた。アメリカは自由な気風で多様性のある移民を惹きつけるからこそ繁栄するというわけだ。
その時代、クリエイティブ・クラスと呼ばれる新しい知的労働階級がアメリカの次の主役になると考えられていた。このブログでもリチャード・フロリダの著作などを紹介したりしていた。「クリエイティブ・クラスの世紀」や「新クリエイティブ資本論」などが有名だ。当時の読書記録を読むとイノベーション関連の本ばかりを読んでいたなあと思う。
この頃すでにこの成長に乗れない人たちがでていたのだが、彼らは政治の表舞台にはでなかった。ラストベルトというのは過去の思い出でありそこにいる人たちもいないも同然の人たちだったのである。
この頂点で誕生したのがオバマ大統領だ。新移民が中心に経済を牽引する国でアフリカ人の父親を持つ人がついに大統領にまで上り詰め「我々は変われる」と訴えた。日本もそれに影響を受けて民主党政権が誕生した。2009年のことだ。
2008年末のオバマ大統領誕生の裏で共和党の中には「新しい支持者を集めないと民主党に太刀打ちができない」と考える人たちがでてきた。表立って人種差別的な発言ができない共和党の一部候補者は民主党の「大きな政府」が気に入らないと話題をすり替えた。この本音と建前の分離が生み出したのがティーパーティー運動だった。おそらくその段階では人種差別的な感情を「エスタブリッシュがうまくコントロールすれば」共和党の再興に役立つのではと言う空気があったものと思われる。
だが、最終的にこれを勝ち取ったのは自身も政治のルールを理解しないリアリティーショー上がりのトランプ候補だった。簡単な形容詞と一見科学的な数字を織り交ぜてわかりやすく敵を設定する手法は、これまで政治がわからなかった人たちを虜にしたようだ。アメリカを有色人種から取り戻せというある種露骨な政治的メッセージは今でもチャイナヴァイルス(中国ウイルス)という言葉に引き継がれている。差別と被害者意識が入り混じった感情がついに政治の表舞台にでてきたのである。
クリエイティブを気取り製造業を見下す有色人種からアメリカを取り戻したいが、既存のルールでは達成できそうにない。だがアメリカは革命でできた国であり気に入らないルールは壊せばいい。そうしてルールブレイカーのトランプは大統領になった。
なんでもありになったアメリカでは各地で武装した民兵組織が作られ、自主投票箱(それが実際に投票に使われるかどうかはわからない)が作られ、投票用紙が放火されたりしている。おそらく郵便投票は混乱し訴訟合戦になるであろうと言われているようだ。まともなルールでは負けてしまうと知っているアメリカ人は民主主義を破壊しはじめた。「気に入らないルールは破ってもいい」というのが革命で生まれた国アメリカの国是なのだ。
トランプ大統領は格差から生まれた結果だが今や格差と分断の原因になりつつある。
この騒ぎはもっと下層にいる有色人種たちを刺激している。そもそも今までのゲームで一回も勝ったことがない人たちである。過去の記事を探すと白人とその他の遵守の間の資産格差は10倍以上になるそうだ。
アフリカ系が押し込められた貧しい地域で問題が起こる。警察がやってきて騒ぎを起こした人たちを射殺する。抗議運動が起きそれが略奪に発展する。射殺された人たちには実はこんな問題があったと言うことが掘り起こされそれがまたアフリカ系を刺激しさらに過敏になった警察が次のアフリカ系を射殺する……
民主主義が崩れ去ったアメリカでは「次の大統領はすんなり決まらないだろう」ということはもはや既定路線になりつつあるようである。
菅政権はバイデン大統領が誕生したらすぐには訪問しないだろうと言われているそうだ。バイデン大統領は手強い大統領なのでよく研究する必要がある。だが、トランプ大統領にはすぐに会いにゆくだろうとも言われているそうだ。あの単純なトランプ大統領となら関係が結べるだろうと言う侮りがある。
トランプ大統領が「確定し」たとしてもアメリカ人がそれに納得するかどうかはわからない。菅政権はその雰囲気を察知できないまま即時訪米する可能性があることだ。つくづく空気の読めない政権である。
トランプ氏が再選された場合は、お祝いと菅首相の就任あいさつのため早期の訪米を模索する。米国でG7サミットが開催される可能性もあり「日程調整は、よりスムーズに進むだろう」(官邸筋)とみている。
バイデン氏なら首相訪米は見送り
おそらく権力者にすぐに支持表明しないと見捨てられるかもしれないという不安があるのだろう。自民党の各派閥が菅政権にすり寄ったのと同じ気分を感じる。
アメリカの状況は確かに今の日本からは想像しにくい。アメリカの格差は絶望的に広がっており「こうなったら革命的な何かがないと浮き上がれない」と考える人たちが支配する国になった。格差の恐ろしさと経済成長の負の側面というのがよくわかる状況になっている。
なぜアメリカはもっと早く格差の縮小と再分配に動かなかったのかとは思うが、今となってはもう手遅れである。おそらく行き着くところまで行くしかないのだろう。あとは長い民主主義の伝統と三権分立の仕組みに期待するしかない。