流行のメカニズム

ファッションの社会学を読んだ。この本によれば、流行ができる理由は明確らだ。閉鎖されていてメンバーがお互いに影響し合っているコミュニティがある。彼らは、財産や時間が余っていることを誇示して労働者階級とは違うということを示す必要がある。また、仲間内で全く同じ格好はしたくない。この結果、こうしたコミュニティには自律的な「トレンド」のサイクルが生まれる。ファッションの流行サイクルは自律的であり政治や経済の状況には影響されないのだそうだ。
ただし、これだけではファッションの流行は仲間内だけのものになってしまうだろう。
これを摸倣したいと感じる層が別に存在する。当初自律的にファッッションを決める階層は貴族だったのだが、中産階級に引き継がれ、さらに映画俳優やスポーツ選手などが担うようになった。その内に巨大な発行部数を誇るジャーナリズムが介在するようになり「消費」の対象になる。
ファッションジャーナリズムは情報の通り道に過ぎないのだから、憧れの存在を見つけ出すことはできても、ないものを作りだすことはできないはずである。デザイナーは勝手にトレンドを作り出すのではない。過去のアーカイブやミューズになりそうな対象物、またはコミュニティを参考にしつつ、新しい何かを提案しているということになる。
これとは別の観察もある。ジンメルは「外では共同体に隷属している」している弱者が、はけ口として、まずは見た目から刷新しようとファッションを利用する、というようなことを言っているのだそうだ。現代でも女性のファッションでは、常に「解放」がテーマになっているという観察がある。トレンドの発信源は「上流階級」なのだが、実際にトレンドを発信するのは「その中でも弱者」ということになる。現代でも、女性ファッションのテーマは「解放」であるという観察がある。男性が、背広という比較的安定した形を手に入れたのに比べて、女性のファッションは見られて、選ばれることを前提にしている。ここから解放を試みているという観察だ。
流行は「区切られた見せびらかしの時間と空間」を持っている集団によって作られ、摸倣されるものだと定義できる。

  • 同調:あるコミュニティのメンバーとして認められたい。
  • 摸倣:そのコミュニティのメンバーでない人が、コミュニティを摸倣したい。
  • 区分:そのコミュニティの中から、半歩抜きん出たい。
  • 解放:隷属するコミュニティの規範から解放されたい。

ファッション業界が目下悩んでいるのは、昔のような規範集団が残っているのかということだろう。オートクチュールは既に衰退しつつある。一方で、中国のように新たに消費に加わった国には、フランスやアメリカのブランドに対する熱烈な購買意欲がある。不況とされた2011年だが、ブランドの売上げは好調だったそうだ。中国人がブランドモノを「熱烈歓迎的」に買うのは、エルメスのバッグの高級さゆえではなく、フランス人のような生活がしたいからだろう。「品物の良さ」を品定めできるようになるためにはさらに時間がかかるのではないかと思われる。
ファッション雑誌を読むと「今年のトレンド」がどこからか湧いて来たような印象を持つことがある。またマーケターが自分が売らなければならないモノに集中しすぎるあまり、それがどのような来歴で作られたものかという視点は消えがちだ。しかし人々が本当に摸倣したいと思っているのは「モノではなく人」「人よりもコミュニティ」だ。つまり裏側に人が透けて見えなければ、ファッショントレンドは意味を持たないのだ。

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