ざっくり解説 時々深掘り

沖ノ鳥島と大陸棚は誰のものなのか

Xで投稿をシェア

カテゴリー:

先日、共同通信の記事をQuoraのスペースで紹介したところメンバーの人がいろいろな対中国情報を補足してくれている。これといった結論は出ないのだが問題の輪郭はかなり明確になる。SNS型政治議論の面白いところである。結果は出ないが情報は集まる。中でも面白かったのは沖ノ鳥島の議論である。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






最近中国が尖閣諸島周辺や沖ノ鳥島の近辺で活動を活発化させている。ところが日本政府は表向きには何も発表しない。中国との緊張感を漂わせつつも具体的な対策を聞かれないように直接発表しなかったのかもしれないし、政府の中にことを荒立てたくない人とアメリカに追随して状況をエスカレーションさせたい人たちが両方いるのかもしれない。あるいは後継者探しに熱中しすぎていて問題に興味がないのかもしれない。

こうして周辺ばかりが騒がしくなってゆくのだ。

尖閣諸島は周辺の漁場が問題だったが沖ノ鳥島にはもっと複雑な問題がある。周辺の大陸棚が問題なのである。中国は「沖ノ鳥島は岩だ」と言っていて「岩だから付属する大陸棚は発生しない」と主張している。日本は将来お宝が出るかもしれない(が今は単なる海)を守りたい。

ただこの議論を読むためには膨大な予備知識が必要である。領土という概念は古くからあったが、EEZとか大陸棚などの概念は最近整理されたばかりだ。これに触った上で状況を整理しなければならない。

先占と無主地という概念

最初に必要な概念は無主地である。英語でTerra Nulliusというそうである。「ヨーロッパの主権国家に占領されていない土地は発見した人のものにしてもいい」という概念である。非西洋から見るとかなり乱暴な概念なのだが、国際法ではこの「無主地原則」が今でも生きている。

この無主地原則で考えると沖ノ鳥島はいつ日本領になったのだろう。実は沖ノ鳥島を発見したのは日本人ではない。つまり沖ノ鳥島はわが国固有の領土ではない。実は第二次世界大戦の前に「海図には書いた」のだが占有はしていなかった。1939年に灯台や気象観測所などの拠点を作ろうとして戦争で中止したという。つまり無主地というより誰も見向きもしない地点だったのだ。だ

皮肉なことに沖ノ鳥島が日本領と認められたのはアメリカに占領されたからだ。つまり、アメリカが日本の施政権がある地域を占領すると決めたときに編入されその後返還されたのだから日本領だという理屈になってしまう。

問題はこの「タナボタ」が後で重要な資産を生み出したという点にある。一見いいことなのだが「利用できないとメンテナンスコストばかりが嵩む」ということになる。親から引き継いだ財産の管理コストで貧乏になった資産家というような状態に陥ってしまうのだ。日本政府は無策ゆえにこの状態に陥りつつある。福が転じて災になるという状態だ。

海洋法に関する国際連合条約

問題が大きく変化したのは1994年である。「海洋法に関する国際連合条約」の発効でちょっとした島が膨大な利権を持つかもしれないということになった。SNSではある参加者の人が参議院の議論を紹介していた。ちなみにこの人は「やはり沖ノ鳥島は島ではない」という結論を導き出している。

Wikipediaによるとアメリカ合衆国、トルコ、ペルー、ベネズエラは「海洋法に関する国際連合条約」批准していないそうだ。参議院のペーパーによると日本政府は2008年(民主党政権になる直前である)に沖ノ鳥島周辺の大陸棚について権利を主張して3年で認められたと言っている。かなり厳しい審査なので慎重を期して調査を続けたそうである。

詳しく参議院のペーパーを読むと「そもそも条約は何が島で何が岩であるか」を決めていないという。中南米諸国の紛争を解決するために作られた条約を策定するときに議論があり結論を出さなかったと書いてある。仲裁機関もないので「どこかがクレームをつけたら決められない」ということになってしまうようだ。ただクレームをつけた4つの国のうち中国と韓国はこの問題に関しては紛争当事国ではない。結論として沖ノ鳥島の南の大陸棚のうち200海里以遠(九州パラオ海嶺南部海域」)は結論が先送りされた。中国と韓国に意地悪をされたのかもしれない。

日本は「沖ノ鳥島は島であり自国領である」と考えているのだから従来通りに占有を続け周辺海域でも実効性のある何らかの行為を続けるべきだ。だがそれが本当に利益になるのかという疑問が湧く。例えとしてどうしても出てくるのが陸軍の大陸進出である。結局大陸利権を守るために国民はすべての財産を失ったというバランスの悪い話である。

これを踏まえて共同通信の記事を読んでみよう。

日本政府は、今月上旬から中旬にかけて沖ノ鳥島(東京都)周辺を航行した中国の海洋調査船の動きを巡り、反発を強めた。菅義偉官房長官は20日の記者会見で、沖ノ鳥島に関し、排他的経済水域(EEZ)の基点となる「島」だとの認識を改めて表明。岩にすぎないと主張して調査を繰り返した中国に不快感を示した。

沖ノ鳥島巡り日本が中国に反発 「岩でなく島」

第一の疑問は「沖ノ鳥島の周辺」がどこなのかという疑問である。EEZと言っているので紛争地ではない。ちなみにEEZも「海洋法に関する国際連合条約」によって決められているそうだ。参議院のペーパーにもこのあたりには丸い巨大な円が書かれているしWikipediaにもそのような記述がある。つまりEEZが認められているのだから「事実上は島と認められている」ことになる。産経新聞には具体的なことも書いている。「中国調査船がワイヤのようなものを引き上げている」というのでこれは日本の主権に対する挑戦である。

主権に挑戦されたらそれなりに対応しなければならない。ただそれにはいろいろなコストがかかる。最悪のコストはおそらく軍事衝突と応戦だろう。日本は専守防衛なのでなんらかの人的被害が出ることが前提になってしまう。

日本政府の何が足りないのか

沖ノ鳥島の地位は極めて曖昧だということがわかる。実効支配されてるのだからこの島だか岩だかわからない何かが日本領であることは間違いがない。さらに日本はこれを島と言っているわけだから他国に遠慮して「あれは岩でした」と言わなければならない理由はない。そして周辺の200海里の大陸棚は日本のものだということが認められているのだから粛々とそう主張すればいい。遠慮したり感情的に「反発」する必要はない。

ただし、その説明に中国と韓国は納得していない。中国は当事国に関しては「わざわざ出かけて行って嫌がらせをしている」ことも確かである。中国はつまりわざと問題をエスカレーションさせている。そして挑戦されたら応戦にコストがかかる。

さらにこの問題は南シナ海の問題とリンクしている。中国が沖ノ鳥島を島と認めるなら日本も南シナ海の岩礁を島と認めるべきだという取引が発生してしまいかねないそうである。つまり日本には「出るところに出て争いましょう」と言いたくない理由がある。南シナ海は日本にとって重要な海路である。田岡さんは沖ノ鳥島を抱えている限り日本は南シナ海の問題に口を挟めないだろうと言っている。すでにかなりの額の税金を投入している。

日本政府の意思である。沖ノ鳥島を有効活用したいのなら具体的に採掘や調査などの活動をやるべきだ。あるいはもうやっているのかもしれないが、であれば何をやっているのかを説明すべきである。

日本は日米豪の軍事訓練に参加して問題をエスカレーションさせる側に加わっていながら、中国に対しては「ことを荒立てたくないから何も言わずに単に主張を繰り返す」という行動に終始している。中国からみると「どうせ単独では文句を言うのが関の山で何もできないだろう」と思われても不思議ではない。

絶海の孤島(岩かもしれない)を抱えているせいで保全コストの他に様々なコストがかかっている上に取りうるオプションも限定されている。政府の「無策」は結果的に多額の出費を生むのだだが誰も総括しないので、無駄な出費が続いてしまうのである。

日本は一度海洋資源をどうマネタイズするのかできないのなら捨てるのかという検討をしたほうがいい。おそらく北方領土でも同じような検討をすべきである。おそらくこんまりさんをアメリカから呼び戻して「ときめくもの」と「ときめかないもの」を仕分けしたほうがいいだろう。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで