ざっくり解説 時々深掘り

パーソナルブランディングとウェブ

パーソナルブランディング 最強のビジネスツール「自分ブランド」を作り出すによると、セルフブランディングが必要になるのは、個人や小さな事業のオーナーだ。売り込みをやめて、向こうからあなたを探してくれるように自分を演出しようという目的のもとにコンセプトが組み立てられている。セルフブランディングが成功すると、お客さんがあなたを求めてやってくるばかりではなく、第三者があなたのことを「誇らしげに」宣伝してくれるようになる。
セルフブランディングを成功させるためには、ある領域(ニッチとも)で第一人者にならなければならない。例えばウェブデザイナーというだけでは不足で「バイク見せ方のうまいウェブデザイナー」とか「離婚調停ならこの弁護士」とか、そういった特化が必要なのだ。セルフブランディングは目的達成の最初の手段に過ぎない。一端ブランドを確立した後は、そのブランドが嘘にならないように全力で顧客の要求に応えなければならない。
この本の優れているところはブランディングについて語っている部分ではないと思う。具体的にどう行動すればいいのかということが記述の中心になっている。具体的にはDM、ウェブ、プロフェッショナルの集まり、異業種交流会などの「チャネル」の中から5つ程度を組み合わせてブランドを訴求させるそうだ。プロセスも明確で、まずブランドを確立し、洗練し、最後に展開する。一度展開をはじめると頻繁に変えてはいけない。だから最初のコンセプトメイキングは非常に大切だ。
どのニッチで活動するかを決めたら、まずブランドに関するステートメント(誰で、何をしていて、どんな価値を提供するか)を決める。次にそれを反映する外観(ファッション)を作り、プロにロゴ、ウェブサイトを作らせ、プロフィール写真などを撮ってもらう。DMやパンフレットも用意する。大抵のひとは素人っぽいウェブサイトを持っているので、グラフィックに工夫をこらしたウェブのポイントは高いだろう。
さて、ここまで読んでいて「なんだか面倒くさいや」と思わなかっただろうか。僕はちょっとそう思った。結局やっている事は会社がやっていることと同じだ。会社だと入社してすぐに営業にでかければいい。売れなければ「テレビのコマーシャルをちゃんと流してくれていない」せいだから、居酒屋で仲間と愚痴る。大きな会社に勤めていればブランディングは会社がやってくれる。時々名刺を持って同窓会なんかに参加すれば背広の胸のバッチを見て「あの人はあそこに勤めているのだからちゃんとしたヒトに違いない」と思ってもらえる。結局1人でシゴトをやるということは、これを全部独力でこなすということなのだ。この本の上手なところはマーケティングだ。企業向けのCIのノウハウを個人に向けて展開することで自分自身のニッチを確立しているのだ。
次に難しそうだなと感じたのは絞り込みだ。30代マジメにシゴトをやって来たヒトなら複数のシゴトはこなせるようになっているはずなのだ。いつシゴトが入ってくるか分からないのだから網は広めに張っておきたいと考える。ITもできるし、英語も話せますよ。管理もするし現場もこなせます、とついついセールスしてしまう。するとブランドがボケる。他人の記憶に残りにくくなり、逆効果になってしまうということなのだ。分かってはいるのだが、実行するのは難しい。本の中には「いちばんコアになるスキルは隠しておけ」というアドバイスが出てくる。
絞り込みができたとして、次にやりたくなるのは売り込みだ。しかし人間は売り込まれるとひいてしまう。明日の収入があるかどうか分からないのに「押し売りしない」これもまた難しい。
故に、それらの誘惑を乗り越えて、ブランディングを実行しようと思えたら、あとは簡単なのではないだろうかと思える。ステートメントを作り、それを名前が出るウェブサイトに貼付ける。イメージからパーソナルカラーを作り(これは先日書いた通り。色にはそれが与える印象がある)ロゴを作る。パーソナルカラーを想起させるような写真を撮り、Twitterのプロフィールなどに使う。一度提示したら頻繁に変えずに1年などの期間を区切って見直しを行なう。
さて、こうしたプロフィールは「嘘」になってしまうのではないかという疑念がわく。しかしWired Visionの記事を読むとそうとは言い切れないようだ。自分で自分のブランドを作っているわけで、案外自分の性格を反映したものができるだろうと考えられる。逆に、自分を殺して働くのであれば勤め人になった方がマシという考え方もできる。

Facebook上の性格は非常に現実に近く、一般的に、ネット上で初めて出会う場合のほうが、直接顔を合わせるよりも正確に性格を評価できることがこれまでの研究の結果からも言える、とBack氏は主張している。

こうしたブランディングがすぐにシゴトに結びつくということにはならないと思う。やはり地道な活動だ。最初のコアになる領域を決めるまでが大変かもしれない。このコンセプトはフリー以外のヒトにも役に立つのではないかと思われる。会社でも「この分野であれば、あの人に聞け」と思われるヒトになることは大切だろう。会社がスペシャリティを求めずひたすら労働力としての価値しか期待していないのであれば、外部のネットワークを通じてそうした環境を模索すればいい。
昨今の労働に関する議論を見ていると、日本の労働環境はすぐには改善しそうにない。また、重たい企業年金の負担に耐えかねて破綻する会社も出てくるだろう。こうした環境からすぐに多くのパーソナルビジネスが浮上してくることはあり得ないと思うのだが、水面下ではシフトが進むのではないかと思われる。そしてそれが一般的になってはじめて起業の文化が生まれるのだろう。


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