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MMTは日本を救うのか

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前回、MMTについて少し触れた。MMTは日本の救世主になると考えている人が多いようで手ごたえがあった。そこで今回はMMTは日本を救うのかというタイトルで書いてみたい。

だが、カンのいい人はお分かりだろうがMMTについては書かない。どっちみち信じたい人はMMT肯定派の意見しか見ないだろうし内容の中から都合の良い部分だけを抜粋してしまうから考察しても無駄だろう。だが、周辺の問題について考えて行くと日本経済のユニークな欠陥がわかる。

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実際に書くのは国の借金と税収の関係である。最初に何も見ないで「最近になって国の借金を増やすきっかけになったのは誰なのか」考えてみてほしい。

実は日本政府の歳出が増えた時代は何回かある。昭和60年代から平成3年頃まで国の歳出は増えていた。これは税収の伸びとリンクしている。

バブルが崩壊して税収が落ち込むと支出の伸びも抑制された。これにより自民党は単独政権を失った。わかりやすい話である。そして橋本政権が終わると歳出が伸び始める。ところがこれと同じ時期に税収はさらに落ち込んだ。おそらく(今回は触れないが)橋本政権のやり方には問題があったのだろう。小泉政権は税収を回復させられずしたがって支出も増やせなかった。この不満を劇場型政治でごまかしたのが小泉政権の唯一の成果である。

財務省の「財政に関する資料」から独自作成

実は歳出を増やしたのは鳩山政権である。つまり民主党政権が歳出を増やしたのだ。検索すると「こんなに借金して大丈夫か?」という記事がいくつかみつかる。

景気回復に失敗した小泉政権は単に国債残高を積み増してゆく。そして小泉後の三つの政権は一旦国債の抑制に動き出す。最初の安倍政権時代には「上げ潮派」という人たちがいたのだが、実際には緊縮財政内閣だったことがわかる。この図だけを見ると麻生内閣が政権を失ったのは麻生内閣が緊縮(あるいは抑制)財政内閣だったからである。逆に民主党は「バラマキ」政権だったので政権を取ることができた。だが、最後には財務省に負けてしまい消費税増税を打ち出したので「結局また同じではないか」と見なされて政権を失ってしまった。この反省の上に立って日銀を使った財政拡大に乗り出したのが安倍政権である。

財務省の「財政に関する資料」から独自作成

安倍政権は民主党の政策を継承した。つまり、国債発行を減らさせずに民主党が増やした財政拡大策を維持した。そして、消費税増税をすべて民主党にせいにして「悪夢の民主党時代」という改竄された記憶を作った。

  • 安倍政権は上げ潮派が支配した政権である
  • 民主党は緊縮財政型の政権である
  • 第二次安倍政権は民主党の政策を大きく転換させた

実はこの3つはどれも間違っている。我々の記憶は都合よく改竄されているのである。安倍政権は最初から嘘で始まった政権だった。

ではそれは悪いことなのだろうか。

民主党が思い切った財政出動をしたことで税収が伸び始めている。税収復活の起点は実は民主党政権である。それまでバブル崩壊をきっかけに税収は伸び悩んでいた。小泉政権で一時持ち直すかと思われたのだが第一次安倍政権頃から落ち込んでいる。おそらく財務省のいうことを聞いて財政を抑制したからだろう。実は鳩山政権の財政拡大は社会実験になっていて、それは成功しているといえるのだ。

ここから一旦は、MMTにしろ政府紙幣の発行にしろ正しい政策だということがいえそうである。つまり経済にお金を入れて需要を作ってやることで経済は(少なくとも税収は)再び成長を始めるのだ。

ここからは類推するしかないのだが、おそらく市中には金が流れなくなっていて成長も抑制されてきたのだろう。そこで政府が率先して信用と需要を作っている。これに企業や個人が追随すればまた景気はよくなるはずだ。

ではなぜ我々の生活がそれほど豊かになったような感じがしないのか。

その答えは内部留保にある。

ちょっと古い朝日新聞の記事からグラフを持ってきた。実は企業の余剰利益は安倍政権の時に伸びている。安倍政権というのは企業のお友達内閣であり誰を優遇してきたのかは明らかである。

内部留保は民主党政権でいったん伸び悩む。民主党政権は企業にとっては悪夢の政権だったのである。

おそらく安倍政権は信用と需要の拡大を通じて経済成長の芽は作っている。だがそのお金のうち2/3はおそらく企業に吸収されている。

民主党時代から現在まで国債の残高は300兆円ほど増えている。そして内部留保は260兆円から460兆円に200兆円増えている。因果関係は不明だが、実は政府が借金をしてその2/3が企業に流れ込むという形が安倍政権によって作られていることになる。日経新聞は製造業がそのうちの160兆円程度を溜め込んでいると書いている。

お金は流れてこそ意味があるのでどんどん企業に吸い込まれてしまっては意味がない。ただ、市中にある信用は増えないのでインフレにもならない。

お金は経済の血液だとよく言われる。常に流し続けていないと経済が死んでしまうからだ。お金は手元に残らなくてもいい。単に流れていればその日の米が食えるのだ。だが企業は不安心理からこれを蓄積してしまう。すると血液が流れなくなるので国が新しい血液を作って流さなければならないのである。

おそらく日本社会が貧血状態になっている限りはいくらMMTしても問題はないはずだ。国が作った信用は企業に吸い込まれてゆくだけだからである。日本は債権国なので国外に流出して行くということもないだろう。おそらく、今回のコロナ給付金もそのようにして最終的に国内企業に吸い込まれてゆくはずである。その意味では中期的・長期的には意味がない政策なのだが短期的には極めて重要である。お金が流れなければ経済が数ヶ月で壊死してしまうからである。

問題はそれがいつまで続くのかという点にある。

経営者は貯金通帳を見てニヤニヤするだろうが貯金通帳の数字ではお腹は膨れない。そればかりかある時点で「どの企業もお金はたくさん持っていても無価値だ」と気がつくだろう。実際に買えるものをはるかにしのぐお金だけを持っているだけだからだ。

それは例えて言えばこんな状態である。

台風19号に備えてパンがなくなったスーパー
みんなお金を持っているが買えるものがないという状態

なんらかのきっかけで企業がそれに気がついてしまえばおそらく慌ててモノに変えようという動きが出るはずである。きっかけはなんでもいい。とにかく何かの棚がなくなればパニック的な買占め行動が起こり物価が急激に上昇するはずである。

あるいは円の投げ売りが行われる可能性もある。日本は圧倒的な債権国なので円の価値が失われる可能性は低い。ただ、経済が成長しなくなっており国内で有望な企業が立ち上がる可能性は低い。長い間をかけて次第に競争力を失った企業はやがて崩壊するだろう。この時に企業が持っている莫大な資産が解放される可能性がある。あるいは資産ごと外国の企業に買い取られるという動きも起こるはずだ。

我々はおそらく今回の新型コロナ給付金で「政府が信用を創造するしかない」ということに気がつくはずだ。企業はおそらく政府に追随する動きは見せない。企業は政府を信頼していないからだ。その結果、信用が国から企業に移転し続け落差が絶望的に大きくなる。私たちはおそらく数世代後のカタストロフの下準備をしているのである。

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