総理大臣と尾身副座長が記者会見を開き緊急事態宣言の延長を決めた経緯を説明した。総理大臣の発言は精神論ばかりで具体策に欠ける。それがよくわかる質問があった。フリージャーナリストが、PCR検査体制が拡充できなかったのは総理大臣が本気でやるつもりがなかったのか、あるいは本気でやるつもりだったのにできなかったのか問うたのである。NHKのテレビ中継が終わってからの出来事だった。
総理大臣はもちろん答えることができなかったのだが、尾身副座長も答えなかった。ストリーミング中継をちゃんと聞こうと思ったのだが「同じ患者になんども検査をするから全部数えると大変なことになる」などと言っていた。「尾身さんは誰に何回検査したのかも管理できていなかったのだろうか?」と思った。
ところがあとになってそうではないことがわかった。総理大臣がいないところで尾身さんがペラペラと検査体制が拡充できない理由を話し始めたようなのである。言いたいことはたくさんあったがなぜか言わなかったようだ。
必要な人が受けられるようにするべきだと専門家はみんな思っている。今のままでは不十分。早い時期から議論したがなかなか進まなかった。これにはフラストレーションがあった。
PCR検査拡充されず「フラストレーションあった」 専門家会議
その上で「提言」まで飛び出した。
(1)保健所、地方衛生研究所の体制強化、負担軽減
PCR検査拡充されず「フラストレーションあった」 専門家会議
(2)都道府県調整本部の活性化
(3)地域外来・検査センターのさらなる設置
(4)感染防護具、検体採取キット、検査キットの確実な調達
(5)検体採取者のトレーニングなど
(6)PCR検査体制の把握、検査数や陽性率のモニター公表
どうやら「国」は検査体制が拡充されていないために状況が把握できていないようだ。尾身さんもそれは認識している。だが国には提言をしない。だが提言をしないと今度は自分たちが非難される。そこで危険な綱渡りを始めたのだろうと思った。
尾身さんは「提言者」と「実質的意思決定者」の二つの帽子を使い分けている。つまり、実質的に決めたところが評価もするという状態になっている。NHKが途中まで中継した会見では「決めた人」として参加しているのだがそれだと責任を被らされかねない。そこで別途会見を開いて「自分たちも検査体制を充実させて欲しい」と言い出した。ところがそこに加藤厚生労働大臣がいると「ではなぜ政治は何もしないのか」という質問に発展しかねない。そこで、独自改憲という体裁をとったのだろう。
「誰も責任を取らない」ということだけは専門家も政治も一貫している。
だが、実は過剰防衛だ。1日経って大阪府が独自指標を発表した。大阪がこうした数字を発表できるのは足元のデータを把握しているからである。どうやら指標自体は暫定的なもののようだがそれを割り切って使おうと決めたことになる。東京は感染者数が乱高下し陽性率も高い。このことから東京都が状況を把握できておらずそれに引きずられて国も統計を出せないことがわかる。実は専門家会議は自己防衛に走る必要はなく自治体を視察して指導すればいいいだけなのだ。中央集権に肩までどっぷりつかっているので「国が検査するわけでも数えるわけではない」という当たり前のことが忘れられている。
大阪のような割り切りができない理由がもう一つある。おそらく感染研が中心になって作られた実験室気質の厚生労働省対策チームは「代替数値」を使った簡易指標が作れないのであろう。これについてはQuoraで議論があった。陽性率7%という数値は経験則的なもので論文的根拠は希薄らしい。
できるだけ具体的な指標を作ろうとする人たちとあくまでも厳格さに固執して実験室的なムードから抜け出せない人たちの間に立っている安倍総理は「外交日程が詰まってずらせない」という理由で会見を打ち切った。その外交日程とはベトナムの首相との20分の電話会談だったそうだ。本当に必要だったのか必要だったとしてその時間でなければならなかったのかという疑問がつきまとう。おそらく逃げたのだろう。
安倍総理大臣に当事者能力があると考えている国民はそれほど多くないだろう。ゆえに安倍総理大臣に非難が集中するということはないはずだ。ただ、だらだらした緊急事態の継続も見切り発車による第二波・第三波も経済に影響を与えるだろう。病気で亡くなる人の他に出口が見えない営業自粛に事業を諦める人も出てくる。人の命に直結している意思決定を間違った恨みは選挙区選出の自民党の代議士に向かうはずである。
全国知事会は具体的数値を出せと国に迫ったようだが、彼らは「自分たちがちゃんとした数字を出さないと国が数値を出せない」という当たり前のことを認識していないのかもしれないと思う。野党の動きも気になる。未だに安倍総理の発言を細かく批判をしているようだ。
安倍総理大臣はおそらくこの件については当事者意欲を失っている。飛行機でいうとチカチカといろいろなランプが点滅しているのをぼーっと眺めている状態だろう。おそらく今どれくらいの高度を飛んでいるのかということもよくわかっていないはずである。
こんな時に後ろからパイロットを批判するというのはほぼ自殺行為ではないだろうか。ここは自民党の中で責任が取れる人たちを探し出して代わりにプロジェクト管理がうまく行く方法を探すべきではないかと思う。集団指導体制でもなんでもいいので誰かが操縦桿を握るべきである。誰かが軟着陸させないとそのうち燃料切れが起きるだろう。