ざっくり解説 時々深掘り

大統領の自己愛に押しつぶされるアメリカの政治

トランプ大統領の会見を今日も見てみることにした。自己愛の補償という意味では面白い見世物ではある。だがしょっぱなから爆弾が投下され、それどころではなかった。

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まず彼が最初に始めたのはWHOの糾弾だった。トランプ大統領は拠出金を見直すように指示を出したと言っている。WHOの内部統制に疑問があるからだそうである。そして裁判官のように罪状を述べ始めた。WHOは中国からの情報を正しく公開しなかった。それどころか中国と組んで隠蔽し中国を透明性のある国として賞賛したとして罰金刑の判決を下したのだ。

この背景にはトランプ大統領に向けられた嘲笑があるのではないかと思う。前日「経済再開を決めるのは俺だ」と主張していたのだがマスコミから嘲笑されたばかりだった。実際に大統領にはそんな権限はない。だったら自分が権限を持っているところで目に物見せてやる!と思ったのだろう。

偉大なアメリカの大統領がそんなことをするはずはないと思いたいのだが、会見はどんどん彼の自己愛を慰撫する方向に進んで高揚してゆく。自己愛が脅威にさらされた時、補償のために高揚感が生まれることがあるそうなのだが、まさにその現場を見ているような気分にさせられる。記者たちも唖然としてその様子を見ているしかなかった。アメリカはまさに中枢から崩壊しつつある。

次にベンチレータ(おそらく呼吸を助ける装置のことをこう呼んでいる)の確保に自分がいかに貢献しているかということを述べ始めた。ヨーロッパの国にも支援をするそうである。大統領に支援を受けている人を呼んで、トランプ大統領のサポートがいかに素晴らしいのかを賞賛させた。どんなに製造業が盛んな国でもアメリカのようにはやれないだろうとトランプ大統領は胸を張った。

さらにメジャーな産業の名前をあげて「すぐに経済は再開され力強いV時回復を見せるだろう」というようなことをいいはじめた。経済界のトップを集めて会議をやるそうだが、会社名を羅列し自分が親しくしている財界トップの名前を挙げた。よく安倍首相の名前を挙げることもあるが、トランプ大統領は「有力者と俺は大体友達だ」と言いたい時にこの手法を使うのだ。

結局、この会見の日本での見出しは「WHOへの拠出金停止」だけだった。WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長はトランプ大統領との対決姿勢を見せ同時に困惑しているようである。「政治化はやめてくれ」と訴えている。

アメリカの民主主義政治は傷ついた自己愛まみれになっているのだが、エチオピアや中国のように権威主義が強い国では民主主義が自己愛に絡め取られてしまう病理はわかりにくいのかもしれない。

20%の拠出金を当面停止するそうだからコロナウイルス対策で支出が必要なWHOはおそらく混乱するだろう。日経新聞にはアメリカの影響力は低下するだろうという見立てが出ている。おそらく拠出金停止はヨーロッパ(新型コロナ)とアフリカ(エボラ出血熱+新型コロナ)の恨みを買うのではないだろうか。

ニューヨークのクオモ知事はこの政治的背景がわかっている。沈痛な面持ちで戦うつもりはないと言った。ニューヨークタイムズでは「He Doesn’t want to fight with Trump」という記事になっている。ABCニュースは「トランプ大統領はリーダーに見せたがっている」と冷静に分析している。トランプ大統領はガイドラインを作って「知事がそれに従うこと」で自分に権威があると印象付けようとしているのだと言っている。Trump Claims “Total Authority”という見出しである。

自己愛が崩壊しそうな大統領はさらに自分ができることを探しつつ暴れまわるに違いない。だが自己愛と国家を結びつけてしまったトランプ支持者は間違いなくトランプ大統領を支持し続けるだろう。長期的にそれがアメリカの国力低下につながるとしても彼らは気がつかない。

一方、日本では「安倍総理の力強いリーダーシップ」という偽りのリーダー像が崩壊しつつある。安倍総理は方向性を見失いつつあり公明党の山口代表からのリクエストに「方向性を持って検討」と虚勢を張った。足元をまとめられない首相はもはや自ら方向性を示して何かを検討することはできない。せいぜい麻生財務大臣に「公明党からこんなことを言われたがなんとかならないか」と相談したり、子飼いの部下が発案したずれたイメージアップ大作戦を演じてピエロのように嘲笑されるだけである。

日本人もずいぶん長い間傷ついた自己愛を国家に投影しすぎた。無力な人ほど「力強い国に住んでいて、自分は力強いリーダーを支えている」と思いたがる。我々もまた自己愛に押しつぶされようとしているのかもしれない。

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