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平時から戦時へというとフリーズする人たち

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新型コロナウイルス対策について「平時から戦時へ」と書いたところレスポンスが悪かった。なぜなんだろうかと考えた。おそらく正常性バイアスなんだろうなという結論に達した。正常性バイアスは誰もが持つ傾向であり何も日本人に特有のものではない。

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例えばイタリアに新型コロナウイルスが入ってきても、ヨーロッパ人はハグをし続けた。ニューヨーカーたちは外に出歩きマスクをしなかった。世界のどの地域でも「大したことはない」とか「自分たちは大丈夫だ」という人がいる。

ただ、日本人二特有の光景もある。

連日「PCRテスト数が少ない」と書いている。すると決まって「テストをして病院に人が押し寄せると医療崩壊するからおとなしく家で寝ていろ」というレスポンスがつく。そこでしみじみと奇妙な前提を持っている人が多いことに気がつく。

  • 日本人は自分は大丈夫だと考え
  • 他人の理性は信用できない

日本には「騒ぎすぎ」とさえいえば「何か賢いことをいった気になる」人が蔓延している。問題を出した人を牽制して問題を見て見ぬ振りをする人たちがいる。例えば「国債を発行して新型コロナの対策に充てろ」という質問にも「そんなことをする必要があるか」という回答が多くつく。NHKではすでに「赤字国債を発行して対策する」というニュースが出ているのだが、それを調べもせずに「騒ぎすぎだ」という人が大勢出てくるのだ。

おそらく平時には有効なこの態度も今は外のほうが多い。すでに「クラスター発見大作戦」は感染者が1,000人を超えた東京では破綻しかけている。東京都では4月4日に118名の感染者が見つかっているが7割は経路不明だったそうだ。市中感染が広がっているということがわかるのだが経験的には8割が軽症・無症状なのだから彼らはちょっとした症状があっても自分がキャリアになっていることを見逃しているだろう。東京では無症状者を発見する作戦への切り替えが求められている。

作戦が失敗した(あるいは無効になった)のだから次を考えればいい。だが、そもそも問題を見て考えなければ次の対策は打てない。日本人は同調圧力による正常性バイアスがあり、問題が固着してしまうのかもしれない。

災害対応ではよく「正常性バイアス」と呼ばれて問題視される態度である。平時のマインドが残っていて問題そのものを過小評価してしまうのである。

正常性バイアスはおそらくは平常時には意味があるのだろう。いちいち動揺していては行動ができなくなってしまうからだ。例えば歩いている時「何かが出てくるかもしれない」などと思うと人は一歩も動けなくなり却って危険である。

つまり正常性バイアスには意味がある。だから、やみくもに「正常性バイアスにとらわれている」と非難しても仕方がない。だが、今は緊急事態なので気持ちを切り替えようというと別のリアクションが起こる。これが今回の新しい発見である。

台風19号に備えてパンがなくなったスーパー

まず「正常性バイアス」から逸脱している人は「パニックを起こしている」と考える人が出てくる。普段、理性でなく同調圧力で周りを抑えてつけているので、それがなくなると他人は何をしでかすのかわからないと不安になる人が多いようだ。

次に平常状態が破られたのだからこれは敗戦だと考える人がいた。失敗を負けだと考える人もいる。

実際にアメリカのニュース映像を見てもパニックを起こすことはない。むしろ「この状態に適応しよう」と冷静になる。これをニューノーマル(新常態)などという。新型コロナ対応が新しい段階に入ったのなら落ち着いて行動しなければならない。正常の反対は混乱でも敗戦でもない。新しい正常の適応であるべきだ。Don’t panic but be preparedという言葉がある。日本語にすると「供えよ慌てるな」だ。

日本人にこの言葉が響かないのは日本人がモデルとして持っている災害が台風と地震だからなのかもしれない。災害というのは一過性のものだ。身を低くすれば過ぎ去って元の暮らしが戻ってくるというのが我々が昔から持っている災害感だ。この災害観では一時的な混乱の反対にあるのは復興である。だからニューノーマルに適応するということは考えなくても良かったのだ。

「最後のひとりが……まで」という言葉は災害復興の時によく聞かれる。だが、実際には守られないことが多い。日本人は未だに新しい状態への適応ができず苦しんでいる。

新型コロナウイルス対応が「平時ではなく戦時(危機的)対応である」と書くと慌てる人が多い。混乱や敗戦を意識するからである。だが実際にはそうではない。我々はしばらくこの状態に慣れて必要なことをその場その場で考えて準備する必要がある。

そのためには目の前で何が起きているのかを見なければならないのではないだろうか。

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