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官邸主導の悪夢 – 説明責任放棄のツケ

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安倍首相がまたも突然「中国・韓国からの入国者に対して14日間の施設待機」を決めた。菅官房長官が「厚生労働省に聞け」と言っているのでおそらくは首相が突然決めて法的根拠を決めていないのだろう。厚生労働省で何か考えろという記者会見を通じた指令ではないかとさえ思える。この是非を考える。

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まず肯定的な見方を書いておきたい。このブログでは「早期発見ができない以上とにかく止められるものは止めるべきだ」と書いてきた。それに従えば出入国の動きは世界各国で止めたほうがいい。実際に日本からの入国者も82カ国・地域から入国制限を受けているそうだ。「むしろ遅すぎた」と言っていいだろう。

特に韓国はすでに多くの国から入国制限措置を受けていて日本だけが特別というわけでもない。これも総理大臣の決定が妥当であったということを裏付けてはいる。中国からの入国者制限も遅すぎたくらいという意見がある。

だが、なぜ中国と韓国だけが制限を受けるのかという問題はある。これが色々憶測を呼ぶのだ。

今回の入国制限には特殊な背景がある。今回の件も専門家会議に相談はなかったそうだ。だが、事前に百田尚樹さんらと会食をしていたという情報がある。これが専門家ではなくお友達の意見を優先したという噂を呼んでいる。もともと中国の国家主席の訪問を控えており中国を刺激したくないという思惑があった。しかし訪日は延期になりそれと同時期に入国制限が決まった。おそらく総理大臣を支えてきた右側の人たちの働きかけもあったのだろう。おそらく中国が嫌いな人たちからみるとこれは政治的勝利になっている。実際にそうでなくても「そう見えれば」いいのだ。そしてこれまで主席の訪日を推進してきた二階派にとってはこれは政治的敗北である。「基準なき決定」が政治的勝者と敗者を作り出してしまうということがわかる。

総理大臣はおそらく恣意性を保持することで自身の権威を守ってきたのだろう。これは利益配分型の政治手法としては有効である。だが危機対処型ではこれが逆転する。目標達成のための意思決定がいちいち望みもしない政治的勝者と敗者を作ってしまうのである。

国境閉鎖は短期間で済ませなければならない。長引けばオリンピックの準備ができなくなるからだ。すでに韓国は困っているという。5月に収束したとしても準備に充てられる時間は2ヶ月程度しかない。それでも終わらなかった時に「国境を開ける」理由付けができなくなる。するとオリンピックが開けない可能性が高まる。

もともと今回の決定に科学的根拠や基準はない。したがって国境を開ける科学的根拠や基準もない。加えてある層の人たちにとっては政治的勝利になっている。だからこれを撤回することが政治的敗北になってしまう。だが、国境を閉め続けると今度は世界に向けて「今は国境を開ける時だ」と言えなくなる。すると今度はオリンピックの開催が難しくなってしまうのである。新型コロナとオリンピックが連鎖してしまうのである。

例えて言えば意思決定のジャグリングである。

次に出てくるのはおそらくヨーロッパとアメリカの間の国境問題だろう。中国や韓国が前例になればイタリア(3,000人以上の感染者がいて致死率が4%以上もあるそうだ)を閉めないという説明は通らなくなる。

イタリアではこれまでに3000人以上の感染が確認され、107人が死亡している。イタリア政府は、全国すべての学校と大学を3月15日まで休校することを決定した。

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政府統計によると、イタリアでは感染が確認された人の4.25%が死亡しており、世界で最も致死率が高い。イタリアは世界でも特に人口の高齢化が進んでいる。

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さらに緊急事態宣言も総理の権限になりそうだ。国会には報告するだけということになりそうなのである。国会で審議すれば決定には国会も責任を負うことになるのだが、おそらく首相の責任で緊急事態宣言をし国民の私権を制限することになる。国会は「お願いされたんだから聞いてあげるが責任は取りませんよ」という態度だ。ある意味議論がない方が国会にとっては楽なのである。

権限も基準も曖昧なままで全ての意思決定を総理大臣が行うことになるので、おそらく全ての働きかけは総理大臣に向かうだろう。そして、それが誰かの既得権になり政治的勝利になる。そしてそれが前例になって政権の選択肢を縛る。まさに官邸主導の悪夢である。

すでに権限を抱えすぎた厚生労働省は同じような状態に陥っているという。状況がなし崩し的に積みかさなり思考停止に追い込まれてしまっている。今回も例えて言えば総理大臣のジャグリング状態だ。総理がボールを一つ落とした時点で全てが崩壊し思考停止に陥るだろう。

オリンピック中止を決定すると7.8兆円の損害が出るという予測も出ている。森羅万象を司るとはいえAIでも搭載していなければ7.8兆円の損害が出る決定を一人ではできないが「説明責任を果たしてこなかった」ことで総理大臣はこれを一人で抱え込もうとしている。これまで説明責任について追求してきた野党はこれをスルーするに違いない。結果的に総理を追い込めるからである。

泥舟に乗りたくない自民党も安倍首相から距離を置き始めたようだ。黒川検事長の定年延長問題で野党から総攻撃を受けた安倍政権はまともな説明ができなかった。そこで例外をばくせばいいと思ったのだろう。全ての検事の定年を伸ばす法案を準備し始めた。普段なら問題なく自民党の部会を通っていたのだが今回ばかりは異論が出て通らなかった。10日にまた審議するという。自民党もまた「話を聞いていない」と言いつつ責任を回避する動きに出ているのだ。

これまでは自分が政権を取ればなんとかなるという人たちが政権奪取を目指してきたわけだが、これが逆転しつつある。誰も責任は取りたくないから総理が一人で決めてくれたほうが楽なのである。

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