これまで安倍政権は自壊するだろうが野党がピリッとしないのでその終わりのプロセスはかなり緩慢で辛いものになるだろうというようなことを書いていた。ところが「あれ?ちょっと違うぞ」という姿が見えてきた。
政治ブログはこういうところが面白いなあと思う。敵を見失ったことで自壊が始まったようだ。民主党も政権を担当したことで自壊してしまったのだが、敵を失った自民党もまた次回のプロセスをたどりつつある。政策がなく政局だけで動く日本の政治は選挙がないとその姿を維持できないのである。
今回の施政方針演説には核になるマーケティングテーマがなかった。終わりが見えてきたので疲れているのだろうなどの観測があったのだが、おそらくは選挙がないからだろう。2019年秋以来のお花見問題やIR疑獄などで今は選挙ができない。春は立皇嗣の行事がある。「立皇嗣宣明」というそうだ。夏には都知事選挙とオリンピックがあるのでここでも選挙は難しいだろう。秋以降にひょっとしてということはあるのかもしれないのだがその頃には選挙ができないほど弱っている可能性もある。
だが、表向きは何も起きていないように見える。二階幹事長の代表質問を見ると少し違っている様子がわかると言った程度だ。二階さんには明らかにやる気がなく首相の答弁を聞いている時も憮然とした表情をしていることが多かった。あるいは、二階幹事長の質問は政権への要求事項でありこれに対して満額回答が得られなかったのが気に入らなかったのかもしれない。あれこれ想像するのは楽しいが、これといって決め手になるような話は出てこないだろう。
そんななか、経産省(安倍)・財務省(麻生)対自民党地方支部という構図ができているのではないかという話は面白かった。党内抗争はかなり熾烈なもので、広島の河井夫妻の選挙には一億五千万円の支出があったそうだ。対する岸田派の溝手顕正さんのところは1/10の資金量だったそうである。このような操作が横行しているのだ。
自民党が一つの派閥のようになっていてその派閥以外の人たちを冷遇されている。結果的に河井あんり議員に押し出された溝手さんは後日旭日大綬章をもらったそうだが、これは「そろそろ引っ込んでは?」ということなのだろう。RCCという地元のラジオが「溝手さんが授章式を欠席した」というニュースをやっていたそうでWikipediaにも載っていた。かなり感情的なしこりが残っているのは間違いがない。
二階さんの演説を聞いていると「もう諦めた」ようにも見える。首相派閥でない人たちは冷遇され「老兵」として溝手さんのように処理される。だが面白いことに首相派閥以外の派閥が消えてなくなるわけでもない。抑えたはずなのにどんどん湧いてくるのだ。
河井夫妻の件は外から漏れるはずはないのでおそらく身内が資料を週刊誌に売っているのであろう。LINEも表に出ているのだが、選挙対策をする人たちが外に依頼した文章が流れている。これは危険なサインである。河井さんは安倍首相の配下なのだが地元の支持者たちがかならずしもそうではないということである。日本人はもともと言葉に出して何かを説明するのが上手ではないので、こうした「地下活動」こそが重要であり怖いのだ。
さらに、IRで逮捕者まで出たところを見ると、与党からも「議員になってから食うに困る」議員がでてきていることがわかる。こうした人たちが外国(今回は中国企業)につけこまれ数百万円というはした金で転んでしまう。それだけ困っている人が多いということなのだろう。
官邸として調査するわけにはいかない。調査すればさらに面倒な事実をいくつも抱え込むことになるだろう。一つひとつが野党が使える爆弾である。しかし調査しないということは「いつ破裂するかわからない爆弾」をいくつも抱えるということである。そしてこうした爆弾がいくつあるのかはおそらくは誰も知らない。安倍首相はそんな中「選挙公認権」という恫喝を使わずに秋まで生き延びる必要がある。
敵はもはや民主党ではない。身内なのだ。
そんなことを買いていたら下関市長選でも熾烈な争いが起きていたということを毎日新聞が伝えているのを読んだ。こちらは安倍晋三・林芳正の争いらしい。毎日新聞がほのめかしているのは「桜問題」はおそらく市長選挙の買収戦であろうということだ。
では安倍一派が安倍首相に協力的かというとそんなことはない。彼らはやんちゃすぎる。
玉木雄一郎国民民主党代表の「名前が変わるから結婚できない」発言に対してある女性議員が「だったら結婚しなくていい」と言い放ったそうである。朝日新聞はその女性議員の名前は特定していないので「自民党が言った」ことになっているがFNNは杉田水脈議員だという声を紹介している。杉田議員は細田派だが選挙区を持たない比例議員だ。比例議員は地方の様子がわからず党本部に忠誠を誓っていればよい。だから有権者の反感を買いそうなことを平気で言ってしまうのである。
自民党で内乱が起きていると言っても、有権者が離反した様子はない。では政府を信頼しているのかといえばそんなこともない。最近インターネット税というのが話題になった。総務省はデマだと否定したが、ユニバーサルサービス料というのは実質的には税金なのでデマではない。
おそらく背景にあるのは「政府は何かにつけて増税の機会を狙っているだろう」という恐れと怯えであろう。だから数円であっても「これは実質的に税であろう」という話が飛び出しそれだけでは終わらずに「1,000円くらい取られるに違いない」という話になるのだ。
ここからわかるのは有権者が「自分たちの持ち出しにならないなら勝手になんでもやってくれていい」が「持ち出しがあれば騒いで潰してやる」という気持ちを持っているということである。
政権としては気持ちを一つにして党内をまとめることはもうできないし有権者を説得して何か大きな変化を起こすこともできない。あとは損を押し付け合いつつ「何もしない」し「何もさせない」と足を引っ張り合うばかりであろう。
こうした緊張状態が直ちに大きな問題になることはおそらくないだろう。だが、何かあった時もはや安倍政権は右にも左にも動けない。あとは、その最後の一押しになる何かが起きないことを祈るばかりである。