イランがイラクにあるアメリカ軍の基地を攻撃して1日以上が経った。当初は状況がエスカレートしないようにイランがコントロールしているのだと思っていた。トランプ大統領もこれ以上状況をエスカレートさせるつもりがなかったようで「第三次世界大戦は起こらない」という論調だった。「安心」から株価指数が爆上がりしたらしい。しかし、それは間違っていたようだ。実はその傍らで176人が亡くなった。大勢のカナダ人が含まれていた。
まずアメリカが「イランがウクライナ機を誤射した」と言いだした。トランプ大統領が信頼できないので「また嘘を言っているのでは」と考えていた。ところがテレビをつけたらカナダの首相が深刻そうな顔で髭も剃らずに記者会見をしている。途中で聞いたのでよくわからなかったのだが「カナダからの人がたくさん乗っていた」らしい。記者たちが「撃墜した証拠が上がったらイランと敵対するのか」というようなことを聞いていて「そのために調べる」というようなやりとりがあった。どうも深刻なようだ。
この事件はテヘランからウクライナに向かう飛行機が墜落したというものだった。乗員176人は全員助からなかったそうだ。朝日新聞によるとカナダとイランの間には現在は国交がなくウクライナ経由でイランと行き来しているイラン系カナダ人が多かったのだそうだ。
もともとイランのソレイマニ司令官の殺害を決めたのは「国防総省の捨案だった」という話がある。その帰結が176人の犠牲だったとするとあまりにもいたたまれない。この暗殺に対応する形でイラクにあるアメリカの基地が攻撃されたわけだが、事前に通告がありイラクやアメリカの被害者は出なかったということになっていた。その意味ではこれは戦争の兆候ではなく「甘噛み」である。戦争の意思がないことで経済指標は元に戻った。
この「対立したフリ」を歌舞伎外交という人もいる。つまり、お互いの国民に見せるためだけの「テレビ用外交」だったということだ。だが、やはり火遊びは火遊びだった。176人という数字はあまりにも重く取り返しもつかない。
原因を究明してその後どうするのだろと思った。おそらくイランに対する敵対的感情は高まるだろうが「戦争をしてやっつけてやろう」という人は少ないだろう。そんなことをしても176人は帰ってこないからだ。かといって誰も責任を取らないのもおそらくは受け入れられないように思える。
今回の件ではイラン人も大勢死んでいる。イランは完全に閉鎖された国家ではないので外から情報が入ってくる。今回の攻撃でアメリカ人に死者がいないこともイラン人が大勢死んだこともおそらく国内に伝わるだろう。イランの政情が不安定化する恐れもある。前回政情が不安定になったとき、日本はオイルショックに見舞われた。今回もおそらく同じようなことが起こるだろう。
日本人は「甘噛み外交」が苦手である。韓国に対して本気で怒っている人が多かったのは、良い意味でも悪い意味でもこうした「歌舞伎」に耐性がないからだろう。言葉も通じない異民族同士が住んでいる大陸ではこうした「歌舞伎対決」がないと生き残れない。だから彼らは彼らなりに統制のとれた動きをしているのだろうと思っていた。武力行使を甘く見ていたのだと思う。統制された武力行使などないし、死んだ人は戻ってこない。残るのは国と国との間の報復感情と経済危機だけだ。
カナダの調査がイランに受け入れられるかどうかはわからないのだが、民間人が大勢巻き添えになりその中に自国民が含まれていたとなればカナダはもはや当事国である。人の命が失われているのだから歌舞伎外交では済まない。各国首脳も弔意を示しているそうだ。イランには真相解明の圧力がかかり、それは当然責任問題に発展するだろう。
「完全にコントロールされた軍事攻撃」があると思ったのは愚かだった。こうした偶発事項が積み重なって戦争になるのだ。日本もどんな形でそれに巻き込まれないとは限らない。戦争を甘く見てはいけないのだ。