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カルロス・ゴーン被告の逃亡劇

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年末にカルロス・ゴーン被告が国外逃亡した。今回はこれについて考えるのだが「そもそも何を考えればいいのか」という点から考える必要があると思う。レバノン側の視点に立つと全くストーリーが変わって見えるからだ。

まず、日本にとってゴーン被告の逃亡は屈辱的なニュースだった。15億円の保釈金は日本人にとっては大変な金額だが、ゴーン被告には大した額ではなかったらしい。被告は楽器ケースに入って逃亡したと伝えられている。

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司法が舐められているというだけではなく、日本の入管制度は意外と脆いということがわかっててしまった。未だに逃亡の手段は海外メディアの憶測に頼っている。こんなことならテロリストは逃げ放題だろう。

Twitterの反応を見ていると「世界にどう見られているか」ということを知りたがっている人が大勢いるようだ。日本人は自分にとって正しいかということよりも他人からどう見えているかということをとても気にする日本人らしいリアクションだ。カルロス・ゴーン被告は「日本の司法制度は遅れていて自分は陥れられかけている」と世界に発信するつもりらしい。日本人にとって恥ずかしいニュースなのだが、実は国内でも日本の司法制度の後進性を指摘する人はたくさんいる。

日本にもカルロス・ゴーン被告の味方になっている人が大勢いたというのは驚きだった。つまり日本の司法制度や体制に信頼を寄せていない人が大勢いるのである。Twitterは識者までもが「外圧で日本を変えて欲しい」などと言っている。Quoraはもっと良識的なのかと思ったのだが、こちらもゴーン支持という人がけっこういる。

ところがこの話はレバノン側から見ると全く違って見える。まずレバノン政府は破綻状態にある。1990年の内戦から回復する過程でかなり汚職が蔓延った状態になっているらしい。

もともとレバノンにはイスラム教徒だけでなくキリスト教徒が多く民族的に一枚岩でないという状態がある。直前には汚職に反対するデモが起きており政府が倒れたばかりである。今の暫定政府は政治家が入っておらず、この国で政治家がいかに信頼されていないかがわかる。

おそらくカルロス・ゴーンとその妻はトルコやアラブ世界にかなりの「投資」をしているはずだ。国の経済は破綻していても一部の人たちだけが潤うのだ。だからカルロス・ゴーンを英雄視する人も多いし反発を募らせる人もいる。フランス系の通信社はこの辺りを冷静に伝えている。

外貨調達源が少ないレバノンは、海外移住者からの国内送金により輸入代金や財政赤字の穴埋めを続けてきた。しかし金利が上昇を続けているにもかかわらず、そうした資金環流は減速。ドルが不足し、レバノンポンドはここ数カ月間に出来上がった闇市場で下落している。ポンド安は物価上昇につながり始めた。

レバノン市民、ゴーン被告入国に賛否 「泥棒」と批判も

経済が破綻寸前なのにこうした影響を受けない人はいる。そして政治家はもはや全体のためには奉仕しない。カルロス・ゴーン被告が助かったのはこの人が多額のお金をエリートに分配しているからである。おそらく今回入国が叶ったことで「今の非政治家の体制も実は腐敗した側だった」ということがわかってしまったのである。

レバノンでは深刻なドル不足が起きている一方で、政治エリート層の無能で腐敗に対する前代未聞の抗議行動が1か月半にわたり継続。政治家らは、新内閣の樹立をめぐり協議を続けている。抗議運動には、政治や信条の面でさまざまな立場にある人々が参加し、同国の指導者らが公的資金を流用したと批判している。
ベイルート・アラブ大学(Beirut Arab University)のアリ・ムラード(Ali Mourad)助教はフェイスブック(Facebook)に「カルロス・ゴーンが突然、私たちの身に降りかかった。まるでこの国には泥棒がまだ足りないとでも言うかのように」と投稿した。

Bloombergはレバノンの暫定法務大臣が「日本には引き渡さずに自分たちで裁判を行う」と早々と宣言したことを伝えている。

日本でも政権に対する忖度が話題になっているが、おそらくレバノンはそれ以上の状態にあるのだろう。もしゴーン被告がレバノンのエリートに十分に尽くしていれば「無罪」になっても不思議ではない。お金が正義で買えてしまうという状態である。一方、BBCは日本がレバノンを援助することになるだろうと書いていた。つまりどっちに転ぶかは「金次第」というわけだ。

ではフランスは味方してくれるだろうかという問題がある。フランス政府も今デモに直面している。交通系のデモは29日も続いているそうだ。年金システムの変更などが反目されている。マクロン大統領がカルロス・ゴーン被告を続投させたのはルノーと統合して日産にルノーを救済させるつもりだったからなのではないかと言われている。もともとカルロス・ゴーン被告は統合には反対だったがマクロン側からの要請を受けて賛成に転じた。そのあとどういうわけか日本当局に逮捕されてしまったのである。

フランス政府はルノー・日産問題に直接介入して「外交問題に格上げしたかった」のであるとビジネスインサイダーが伝える。もともとカルロス・ゴーンという仲介人を通じて日産を取ろうとしていた。それが日本政府に阻止されたのだからその対抗カードとして東京オリンピック案件(つまり竹田元JOC会長の問題)も利用するつもりだったのではないかという何やら壮大な話である。

一つはフランス司法当局の動きである。仏司法当局は1月11日、2020年の東京五輪・パラリンピックの招致活動を巡り、招致委員会の理事長だった竹田恒和日本オリンピック委員会(JOC)会長が汚職に関与した疑いがあるとして、本格捜査に乗り出した。

日産・ルノー問題で始まった仏政府の波状攻撃——仲介役ゴーン氏を見切り

このため日本も疑心暗鬼になっていた。フランスパスポートで入国したということがわかると「フランスも逃亡を手伝ったのでは」という話が出た。結局、パスポートは使えない状態で携帯されていたということが伝えられたが、疑心暗鬼の状態は続いているものと思われる。

日本の司法制度には問題点が多い。中からは改善されないので外圧による改善を望む人たちがいる。郷原信郎弁護士は「国際的な批判に耐えられないかもしれない」と言っているし、BBCなども日本の制度の問題点を指摘する。BBCの扱い方は割と公平だと思うがこの批判に耐えられないという人は多いかもしれない。一方で、日本の検察は説明責任を果たしているとは言えない。検察や司法は村を作っていて「国民は知る必要がない」というような態度である。

BBCは「日本はレバノン政府に援助を申し出てゴーン氏の引き渡しを要求するのでは」と言っている。レバノン政府は「レバノンで裁く」とは言っているが、これも「地獄の沙汰も金次第」なのかもしれない。日本からの援助が多ければ転ぶ可能性もある。またイラン情勢が緊張してきており「アメリカの味方は我々の敵」都なってしまうのかもしれない。金額の多寡や状況次第でゴーン被告が帰ってくるかどうかが決まるとなればこれも公平な裁判とはとてもいえそうにない。公平公正などないというのが国際社会の現実のようだが、これを受け入れるのは難しい。

結局「この人が悪いことをしたのかがわからない」し「公平に裁かれるかもよくわからない」というとてもモヤモヤした状態が生まれている。そんな状態にもかかわらず、整理断定的な意見だけが「情報」として飛び交うのである。

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