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これから頻発する不祥事を安倍政権打倒と結び付けない方が良い理由

今日はこれから安倍政権下で「不祥事」が頻発するだろうがそれを政権打倒と結び付けて期待を抱かない方がいいということを書く。

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アメリカでトランプ大統領弾劾の採決の前に討論が行われた。討論といっても対話ではない。議員が一人ひとり採決に賛成するのか反対するのかを表明することを討論と言っているのだ。議員は「個人として仲間に協力を呼びかけ」「自分が考える理想のアメリカについて語る」という二つのことをやる。そしてこれが延々と続いた。

日本人から見るとこれはすべて無駄に見える。明らかに弾劾決議が出ることは決まっているからだ。日本の識者の中には「民主党がバイデン氏を見限って相打ちになってもいいからトランプを攻撃してやろうと仕掛けた」と解説する人もいた。民主党という集団が「自分の利益が最大化するためにバイデン氏という個人を差し出した」と捉えるわけだ。

だがアメリカ人にとっての集団は個人の集合台であり「党派の利益のために行動している」と見られることも嫌う。だからみんなが見ている前で個人の資格で「説明」をしたがるのである。党派のためにやっていると見られると離反が起きる。あくまでも政治家一人ひとりがみなさんに訴えているという体裁を取りたい。これが集団主義とされる日本人と個人主義のアメリカの決定的な違いである。

このことから、まず日本人は集団の利益を念頭に入れて行動することがわかる。そしてその交渉は裏でなされる。例えて言えばカラスが食べ物を高いところに持ち帰ってこっそりと食べるようなものである。日本人は公共を信じない。カラスが道端で餌をついばまないのと同じである。表で議論すれば誰かにとられかねないという警戒心が日本人にはある。そして実際に何かの理屈をつけて横取りしても構わないという文化なのだ。だから日本人はそもそも個人の説明など信じないし、同じ集団に属さない人が自分の利益のために行動するとは考えない。

では日本人は仲間内では信頼し合うのか。どうもそうではないらしい。つまり、日本人は集団主義でもないようだ。日本人にとって集団とは何かというのが次の考察点になる。

おそらく今自民党の内部で起きているのは派閥内での潰し合いと領地獲得合戦である。入試改革の失敗を見ると派閥の中でも利権の奪い合いが起きているのだろうなということがわかる。日本人にとって派閥集団は便宜上あるだけであり、実際にはその中にも信頼関係はない。日本人にとっての「和」は表向きの儚い概念だ。

日本人は他人を信じることができないので縛りあいに頼ることになる。縛りあいには三つのメリットがある。第一に便宜供与を持ちかけ縛りをといてもらおうとして取引に出てくる可能性がある。第二に相手が勝たなければ自分が失う分が少なくて済む。第三に協力を促進できる。「裏切り」に懲罰を与える行為そのものがシグナルになっていて、フリーライドを抑制するのである。

これを踏まえると、日本の政治がよくわかる。「官僚が得をしている」という理由で自民党は官僚を懲罰して政治主導を掲げて選挙に勝った。しかし一向に政治改革が進まず消費税議論が進行すると、今度は「公共事業で自民党議員が得をしている」という理由で野党に票が向かう。ある程度反対勢力に勝たせはするが圧倒的な議席は与えない。なぜならば相手を勝たせると今度は相手が「好き放題にする」ことを許してしまう可能性があるからだ。

例社会党が勝ちそうで勝たないという状況は有権者には都合がよかった。自民党を抑制できたからだ。しかし民主党が勝ってしまうと今度は民主党が好き勝手にする可能性が出てきた。案の定彼らは失敗し「国がめちゃくちゃに」なりかけた。すると今度は安倍政権に票が移動する。安倍政権長期化の背景には「下手したら民主党が勝ってしまうかもしれない」という恐怖心があったのだろう。

ところが、民主党はもうしばらく政権を取りそうにないということがわかってきた。これだけ安倍政権が好き勝手やっても民主党系の野党の支持はまったく伸びない。これは一度消費税の件で裏切った民主党(具体的には野田佳彦さんなのだが)を国民が絶対に許さないからである。民主党はブレーキとしては使えないという事を有権者は学んだのだ。

例えばIR誘致は党派同士の争いになっている。おそらくお気に入りの企業があり、それをどこかの地域と結びつけることで「領地」を作ることができる。それを阻止するためには内部通報をして検察に敵を売ればいい。

マスコミには検察を恫喝する人たちがいる。「もう解体してしまえ」というのが脅しになる。これに潜在的な脅威を感じた特捜部は「アメリカや安倍政権に関係ない政治悪を潰そう」としている。現代ビジネスは東京の特捜部が政治案件を扱うのは17年ぶりだと書いている。すでに現職閣僚ではないので政権に被害はない。そして有権者もある程度は満足するだろう。結局は潰し合い・縛りあいなのである。

入試改革が潰される経緯を見ていると、同じ派閥・同じ地元であっても「持って行き方」によっては領地を奪うことができてしまうということがわかった。下村さんがやってきた事を後継の萩生田さんが引き取るという手法である。野党は支持されていないし、有権者も入試改革の中身にはさほど興味がなさそうだ。そして下村さんも動きが取れない。こうなるとやらない理由がない。

我々日本人はこうした裏事情がわかってもさほど驚かない。集団がある以上その存続のためには何をやってもいいのだと思うからだろう。とやかく言ってもしょうがないと我々は考える。

だが、それが自分の身に降りかかってくるとなると全く別の話になる。Quoraで政治議論をしていると「公平公正」なふりをしている分には問題は起きないのだが、どちらかの陣営に特になりそうだと相手が感知した瞬間に無意識にアラームが鳴り響くようである。

海外在住の日本人は政治的ポジションを持つことに慣れており、ある程度は自分の意見が主張できるので流される心配がない。だからこうしたアラームは働かないようだ。しかし日本人は集団2は従わなければらないので流されてしまう危険性があり「ここで下手に同調したら絡め取られてしまうかもしれない」という脅威を感じるようである。

このアラームは「すべての人はきっと何らかの陣営に属していて自分を裏切ろうとしているのだろう」という確信の表れなのだろう。この呪いのためにドメスティックな日本人には絶対に「縛りあい」という一線は越えられない。

現代日本人にとって安倍政権が倒れることは「誰か他の人の利益のために黙って協力させられた」ことを意味している。だからそれはできない。かといって安倍政権にも美味しい思いはしてもらいたくない。理想の環境はお互いが縛りあい誰も身動きが取れなくなることなのである。

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