ざっくり解説 時々深掘り

種籾を食べ始めた安倍政権と自民党

政府が記述式テストを見送ることに決めたらしい。「まずはよかったなあ」と思う一方で、この人たちは「種籾を食べ始めたんだなあ」と思った。この話は政権批判と接続して語られることが多いと思うのだが、問題はあるいはそれ以上かもしれない。そもそも「この人たち」が誰なのかということと併せて考えたい。

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最初に「この人たち」とは公明党のことなんだろうと思っていた。だがいろいろ調べると「ああ、そうでもないんだなあ」と思った。そうなると残る可能性は公明党に擦り寄りたい人たちである。証明しようもないことだが、この観測が当たっていたとしたら実に卑しい人たちだ。

世間ではベネッセが標的になって攻撃されているようだ。多くの人が「安泰で大きな会社だ」と思っているのではないかと思う。大企業がますます太ろうというのかという疑念を持つ人は多いだろう。もともとベネッセは住民票のデータをもらってきてダイレクトメールを送り、その情報を太らせてゆくことで儲けていた会社である。だが、住民情報の扱いが慎重になると収益に陰りが出てきた。そこからベネッセの苦難が始まる。

まず、外部から原田社長を雇い入れて体質改善を図ったがうまく行かなかった。そればかりか情報流出事件なども起こり、結局原田社長は涙ながらに退任した。2016年のことだった。

一方で入試改革を行ったのは2013年にできた安倍首相の諮問機関である「教育再生会議」だそうだ。下村博文さんがキーマンになっている。もともと東京都議会出身だが、清和会のいささか「右寄りの人たち」に訴えかけ「自虐史観排除」という名目で教育改革を自分の領地にしたようだ。

教育改革再生会議は教育現場を無視して作られたという経緯があるようで、産業界の意向ばかりを汲んでいるというような批判はこれまでも見られてきた。しかしここにきて「実体のないペーパーカンパニーが記述式評価を受注した」という野党系議員の指摘が見られるようになった。情けなさはあっても自民族の誇りは感じられない。

ベネッセもこれをすっぱり否定してくれればいいのだが、J-CASTニュースの取材に関して次のように答えている。

「学力評価研究機構は、採点業務を専門的に行っている会社であり、業務の性質上、セキュリティと情報管理の観点から、外部への情報公開を一定以上、制限させていただいております」と回答で説明し、このことを理由に「社員数については公開を控えております。また、電話番号につきましても、お取引先や関係者のみにお伝えさせていただいております。看板は出しておりません」とした。

ベネッセ「ペーパーカンパニーではございません」 記述式採点会社めぐる「疑惑」に反論

「セキュリティ」とか「個人情報保護」というのは、後ろ暗いことがある企業や政治家の常套句になっている。そしてこういう言い訳もあとで「ずさんな管理」によってどんどん剥落してゆくだろう。そして表に立って非難されるのは下村さんではなくベネッセである。

そもそもベネッセコーポレーションはコーポレートロゴの配色を見てもわかるように、ある宗教集団との結びつきが噂される企業である。これまでは儲けていたので政治と関わらなくて済んでいたのかもしれないが、やはり困ってくると最終的には政治に頼らざるをえなくなるのではないかなあなどと思えてくる。「落ちるところまで落ちた」というわけだ。

だが、最終的に「記述式は無理です」と自民党に引導を渡したのはどうやら公明党らしい。「記述式見送り、公明が主導 政権に痛手、野党追及へ―大学入試改革」という記事が見つかった。さらに教育改革の道筋はベネッセ再建と同じ時期に行われていて、再建に失敗したから政治に頼ったというわけでもなさそうである。

文部科学省が「安心してもらえる体制を作れないことがわかった」と実施前に急転直下で実施を見送ったことからもともと無理があったことがわかる。NHKに萩生田文部科学大臣の発表の動画がアップされているがマスコミが歴代の文部科学大臣の関与や導入までの検討経緯を聞くことはなかった。おそらく何があったかが国民に開示されることはないだろ。だから、ベネッセには弁明の機会は与えられない。

ベネッセの子会社はNHKの取材に対して次のように言っている。「巻き込まれた」という感じもする。

記述式問題の採点業務を委託されていたベネッセの関連会社「学力評価研究機構」は「ここまで一生懸命準備を進めてこられた受験生の皆様やご家族、学校の先生方が困惑されることを思うと誠に残念のひと言です。適正な採点の実行に向け予定どおり丁寧に準備を進めてきましたが、決定を受けて今後の対応を速やかに大学入試センターと協議します」というコメントを出しました。

記述式問題 導入見送り発表 萩生田文科相

では巻き込んだのは誰なのか。

面白いのは下村博文さんと萩生田光一さんの関係である。下村さんは教育改革を自分の領地にしてそれを利権化したかったのではと思える。おそらくその証拠はでてこないのかもしれない。それを奪ったのは萩生田発言であり、結果的に萩生田さんが「自分の元で諮問機関を作って一から作り直す」と言っている。つまりこれは萩生田さんの「領地占領宣言」である。

野党は「萩生田さんが下村さんの領地を奪う」手伝いをしただけである。萩生田さんが公明党と関係の深い企業にベネフィットを与えれば、東京都議会において公明党との選挙協力がやりやすくなると考えたのかもしれない。そして、萩生田さんも下村さんも東京出身の清和会議員である。結局我々は与党対野党ではなく「自民党派閥内部」の戦を見ているだけなのである。

野党が支持を得られずおそらく政権も取れないということがわかった今、自民党の関心事は領地争いになってゆくのだろう。領地とは予算と利権であり足元の地方議員への影響力である。今回の件はそれが派閥間ではなく「清和会内部」で起きているところにポイントがあるのだと思う。

もちろん他の派閥でも問題は起きているようだ。特捜部がIR関連で秋元司議員を調べたそうだが、IRも「新領地獲得合戦」である。3兆円構想だと書き立てるマスコミもある。ちなみに秋元さんは二階派だそうだ。

単なる領地争いなら勝手にやってくれと言いたくなるが、彼らが扱っているのは教育という未来の種籾を育てる仕事だ。稲作の伝統を持っている日本人にとって種籾は最後の一線だろう。保守というお題目を唱えつつ彼らはついに種籾に目をつけて、最後の一線を越えたことになる。

我々は本当に冬を越せないかもしれない。次の春に蒔くものがないからだ。日本の保守思想家はそれでも平気なのだろうか?と思うのだが、あるいはそんな人たちはとうの昔に絶滅しているのかもしれない。自民党は自虐史観を乗り越えるどころか暗い歴史を自らで作りつつあると言えるだろう。

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