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二つの世界観で揺れる産経新聞とその読者

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産経新聞がWTOの機能不全について書いている。おそらく二つの世界観の中で揺れているんだろうと思った。この揺れは苦痛を生み出すだろうが、産経以外の日本はそれほどの苦痛を感じていない。それはなぜなのだろうか。

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産経新聞の読者の関心は世界秩序の維持である。それは小中華思想に近い。産経にとっての中華に当たるのは先進国秩序であり日本はその優秀な理解者として周辺の野蛮な国より優位に立つべきである。

韓国が日本をWTOに提訴している。日本は「先進国の正しい一員」であり、中国と韓国は「そうでない」ので先進国に代わって日本が彼らを善導しなければならない。それに抵抗する中国や韓国はアメリカの威光で成敗される運命にある。

こうした世界観を持つ産経新聞は中国の習近平国家主席の国賓待遇にも反対しているようだ。香港の人権を弾圧する(つまり民主主義国家としては正しくない)中国の元首を国賓として迎えるのは間違っていると言っているのである。自民党の中にも反対決議をしている人たちがいるのだそうだ。青山議員などが安倍首相のもとを訪れて反対表明をしたのだという記事を伝えている。

「世界には正しい陣営とそうでない陣営がある」という世界観はおそらく「西側諸国」「東側諸国」というかつての枠組みを継承したものだろう。高度経済成長以降世界観がアップデートされていないのだ。

ところが世界はそこからもっと動いている。

例えば、先進国の威光の源であるはずのアメリカは孤立を強めている。NATOの会談では笑い者になったそうだ。このため腹を立てて途中で帰ってしまったという。帰国すると今度は下院から弾劾の告発を受けた。まさに四面楚歌である。トランプ大統領の非常識な振る舞い(首脳との共同記者会見をジャックして国内向けに使っている)もあるだろうが、軍事費の肩代わりなどを要求していることが嫌われているのだろう。アメリカは債権取り崩し状態に入っているので今の状態をキープするためにはできるだけ出費を抑えなければならない。アメリカの状態は年金生活者と同じようなものである。実はトランプ大統領には笑い者になる以外に選択肢がない。

一方で、日本はヨーロッパとも距離が離れている。経済的に成長できず再来価値観もずれてしまった。ヨーロッパにはドイツのような債権成熟国がありこうした国々では環境問題や人権問題が主なテーマである。つまりできるだけ今の状態をキープしておきたいので持続可能性が主なテーマになるのだ。

我々は「分断する二つの世界」という世界観と「発展段階が異なり課題が共有できない一つの世界」という世界観を生きている。どちらも間違っているとは言えないのでこの二つのメガネを付けたり外したりして問題を検討する必要がある。

第一に日本は成熟債権国なので本来ならば持続可能な世界を目指すべきである。つまり環境や人権に配慮した方がいい。ところが成長から取り残されていてヨーロッパと歩調が合わせられない。例えば、脱石炭の宣言もできず成熟債権国と価値観を一緒にすることができないというのがその例である。日本は西洋陣営に入って中国の二酸化炭素政策に反対した方が本来は有利なのだ。

第二に日本は高度経済成長型のモデルから脱却しきれておらず、現在のその過程にある中国をライバル視している。中国はキャッチアップの途上なので自由貿易を推進して経済的な成長を加速させたい。中国はインフラ整備などを通じて世界に影響力を持ち、西側先進国のように世界に指図したいと考えている。日本は海外に債権(利権)を抱えているのだから正面から張り合う必要はないしそうすべきでもない。だが、日本にはその知恵がない。

第三に日本はカリフォルニアのような先進地域と脱工業化できない内陸部を抱えるアメリカと共同歩調をとっており、彼らのどっちつかずな政策に振り回されている。アメリカは経済的には成熟債権国状態を抜けているのだがその恩恵を受けられないまま沈んでいる地域を抱えている。アメリカにべったりついて行くというのは単なるリスクでしかないということに日本の政治家は気がついていない。

おそらくこうした状況に陥っているのは産経新聞だけではないのだろう。日本人は形があるものを捉えるのは得意だが概念化はそれほど得意ではない。一人ひとりが印象による世界観を持っていて、お互いにすり合わせができない。このため日本の政治議論は「万人による異種格闘技状態」になる。

概念化のためにはある程度の情報の刈り込みが必要だ。全ての現象を説明できる世界観はないからである。日本は1989年(東西冷戦の集結)と1991年(バブルの崩壊による高度経済成長期の終わり)を同時に迎え、そのあと政治的に静かに混乱したので世界観の更新ができなかった。企業はおそらく債権を持って「海外投資国状態」に入ったのだろうが、政府自体は債務を抱え財政債権もままならい状態にある。さらに賃金も低下傾向にありこちらは中進国状態だ。どこにいるのかで経済的にどんな状態にあるのかという印象が全く異なる。

しかしながら日本ではこうしたお互いのすれ違いが決定的な対立を生まない。もともと縛りあいが得意であり「決めない政治」の達人である。おそらく世界観を共有しなくても「何も決めさせないし何も決めない」という合意があり何も共有できないながら世界が崩壊せずに済んでいるのだろう。

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