ざっくり解説 時々深掘り

トランプ大統領が在日米軍駐留経費の大幅増額を要求したらしい……

フォーリンポリシーが「関係者の話」として在日・在韓米軍駐留費の大幅増額の話をリークした。この話はすぐさま日本のマスコミに伝わり、時事通信社は「自社で確認」したことをつたえ、NHKは某専門誌が伝えたと間接的な形で伝えた。不自然なニュースだった。

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その後、石破茂議員は「出す言われない」といい河野大臣は「事実関係ない」と否定した。日本政府がこの件を表面的に議論することはないだろうから想定内の対応ではある。こうなると逆にアメリカの高官がフォーリンポリシーに情報をリークし「外伝経由」で日本に知らせた意図についてあれこれ考えてしまう。

アメリカには「国益」の観点からトランプ大統領の防衛政策に反対する人がおり「日本側が抵抗を示すこと」で大統領の考え方を変えたいと考えていたのかもしれない。しかしながら日本側は音無しの構えである。しびれを切らして情報をリークしたのかなと思った。

一連の記事によると7月にボルトン補佐官らが日本を訪れた際にこの要求が伝えられていたらしい。日米貿易交渉が最終的な詰めに入っていた時期であり、8月には例の「とうもろこし爆買い発言」があった。つまり、アメリカが様々な対日要求を突きつけてきていた。背景にあったのはトランプ大統領の弾劾騒ぎである。モラー特別検察官の件がひと段落しようとしていたが「大統領を弾劾プロセスに」という動きはくすぶっていた。この後でウクライナ大統領との不適切な電話が露見することになる。トランプ大統領が冷静に判断したとはとても思えないが、それでも意見が通ってしまうのがアメリカの大統領である。

この要求は日米安保の改定時期とリンクした発言していて乱暴に聞こえる。つまり「増額か撤退か」に見えてしまうのだ。GSOMIAの件で日米韓の足並みが揃わない中で河野大臣が日米同盟への不信感を増幅させる発言に慎重になるのは当たり前のことである。

と同時にトランプ大統領が東アジアの安全保障にさして関心がないこともあからさまにわかってしまう。そもそも8割を負担しているということなので4倍というと駐留費用を超えてしまう。もちろん4倍というのはふっかけた値段であってここから交渉してこいよということだから額面通りに4倍を受け取る必要はないのだろうが、無茶苦茶であることには変わりはない。

河野大臣が否定したことで記者クラブは伝えられなくなってしまうので、表向きの動揺はないだろう。だが、この一連の動きは当然日米の関係者を慌てさせているはずだ。

世界各国で同じような動きが起きている。まずはウクライナへの支援をサスペンドした上で「選挙で民主党候補が不利になる証拠を集めてこい」と要求している。これは今弾劾審査の俎上に上がっているほどの無茶苦茶な要求である。込み入っているのでBBCがサマリーのビデオを出している。

フォーリンポリシーは日韓をセットにして扱っているので、当然韓国でも話題になっているのだろうなと思ったのだが、韓国では「在韓米軍値札が5倍になったがちょっとディスカウントされた」という伝えられ方をしていたようだ。中央日報が伝えている。韓国の場合はアメリカを後ろ盾にした軍事政権の流れを組む保守とそれに反発する革新が分裂状態になっている。この無茶な要求は革新側の反米感情を加速させるだろう。するとそれは親北朝鮮・中国という路線に傾く。簡単な方程式だ。ただ、日本と比べて韓国には選択肢がある。

ヨーロッパでは前からNATOが問題になっている。そこで「アメリカに頼らない形で防衛をしよう」というような話になっているようだ。軍事費を削減したいトランプ大統領が勝手にシリアから引いてしまった。この結果トルコとロシアがシリアに入り込んできた。ウクライナ問題などを巡りロシアとライバル関係にあるNATO各国はこれが面白くない。そこでマクロン大統領は「NATO脳死発言」でトルコとアメリカの関係を間接的に非難した。するとアメリカがトルコの肩を持つ形で「トルコも失望している」と応酬している。ロイターによると「みんながっかりしている」と言っているが誰ががっかりしているかは明確にしなかったようだ。そのみんなとはつまりアメリカのことなのだろう。

議論自体は感情的だが、ヨーロッパが集団自衛とアメリカを加えた自衛体制という選択肢を持っていることは重要である。ロイターの別の記事によるとマクロン大統領は「ロシアと対話をすべき」で「EUは役割を拡大すべきでもない」とも発言しているそうである。いろいろな選択肢を持ったままでバランスを取っているような状態である。

ところが日本は強いアメリカには低姿勢だったが近隣国には居丈高に接してきたので味方がいない。このため新しいオプションを持ってアメリカとの交渉に望むことはできない。つまり言い値で買い取らなければならない可能性が高い。安倍政権の従米シフトが招いた結果である。

ただ、Quoraでの反応などを見ていると「安倍政権=従米発言」は即「安倍政権打倒」という文脈に組み込まれてしまうようだ。つまり、日本は選択肢がないだけでなく議論すらできない状態になっている。

ただ、専門筋の人たちはある程度現実的な線で対応を試みるのではないかと思う。トランプ大統領があてにならないことは確かだが、それを世間に見せて世論を動揺させることは避けたい。

まず、最初にこの件でリベラル野党はあてにできそうにない。火中のやばい栗は拾わない方針なのだろう。枝野幸男代表のTwitterには全くこの話題が見られない。玉木代表は扱うつもりがあるようである。自民党に移った長島議員も触れていたがこちらは河野大臣と足並みを揃え記事自体をなかったことにするようだ。

自民党は表向きは話がなかったことにしたい。だが交渉自体は行う必要がある。

まず「安倍首相に任せていては交渉が危ない」と考え安倍首相を交渉の現場から引きおろす可能性があるだろう。日米貿易交渉のように現場交渉を誰かに任せていたとしてもトランプ大統領が安倍首相に直接電話をすれば彼はおそらく断りきれないはずだからである。安倍首相が最大のリスクになっているのだ。安倍さんとしてはやると約束して誰かに詰め腹を切らせようとするのではないかと思うのだが、問題が問題だけにそうすんなり行くとは思えない。

もう一つの可能性は誰がやっても外交敗北は明らかだろうと考えて安倍首相を温存するというものだ。これは野党の指導者も含まれる。岸信介首相は日米同盟と引き換えに退陣したのだが安倍首相も祖父と同じ道をたどるかもしれない。安倍首相が淡々と役割を引き受けオリンピック後に交渉に臨みそして散ってゆくというのが、ある意味彼らには美しい姿なのかもしれない。

早めに藪をつついてしまうと「日米同盟破棄」か「駐留経費増額か」という対立構造が生まれる。多分この判断を突きつけられたら「わからない」という人が増えるように思える。日本人はこのような極端な議論は望まないからである。どういう形で「収めたこと」にするのかが注目される。

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