上野厚労政務官の辞任というニュースが飛び込んできた。いわゆる「文春砲」で秘書があっせん収賄を匂わせる音声記録を文春に持ち込んだというケースである。内閣や政党の崩壊は中から進むんだろうなあと思った。
まず、この件について野党の追求が世論の支持を集めることはなさそうだ。官邸側も慣れっこになっているようで田崎史郎さんにテレビで説明をさせていた。官邸側が「政府と切り離してさえしまえばあとはどうとでもなる」と考えていることがわかる。
田崎さんは実際には大量の口利きなどできるはずはないから斡旋はなかったのではないかと言っていた。田崎さんがこう言っているということは取材が終わっていて官邸も大筋で了承しているということなのだろう。あとは厚生労働省側が「そんな話はない」といって資料を破棄してしまえばそれで終わってしまう。あったかなかったかはわからないがとにかく話としては終わってしまうのだ。
あと残るのは詐欺の可能性であるが、政権の立場からみると「政治家が説明責任を果たすべき」で終わってしまう。これで切り離し完了である。
そこで気になるのは上野さんのポジションである。上野さんは清和研(現在の主流派)なのだが「外様」なのだ。そして選挙に強くない。コマとして活躍できなければ切り捨てられてしまう人なのである。
官僚出身の上野さんは代議士の娘と結婚する。代議士はみんなの党から出馬しようとしたが公認されなかった。そのため娘婿である上野さんが名前を継いで立候補した。当時の読売新聞の記事の引用がところどころに残っている。渡辺喜美さんは名前も継いでよかったねというようなことを言っていたそうである。
ところが上野さんはあまり選挙には強くなったようで比例代表でなければ選挙に受からないという状態に陥った。比例頼みということは大きな政党に所属していなければ生き残れないので維新の党(渡辺喜美さんについて行ったのかもしれない)に移籍し、最終的に自民党町村派に所属することになった。家督を継ぐために養子をとり藩を渡り歩くというようなことが現代の日本でも時々起きているらしい。
TBSで見た田崎さんのストーリーでは上野さんはお金と支持者に困っていたのではないかということになっていた。「自民党は新規会員を集めなれけばならないノルマがあり」そのために「少額づつお金を集めようとしたのではないか」という説明だった。
町村派にいると言っても出自からして数合わせのための存在に過ぎないのだろう。自民党はライバルがいないので候補者を集めてこなければならない。そしてこういう基盤の弱い人は自分たちがかかえ込むに限る。ただし、何かあった時に面倒を見たり庇ったりすることはない。つまり安倍政権の強固さを背景にした冷たい関係が成立しているのである。
田崎説に従うと支持基盤のない上野さんは200万円の金と新規党員獲得に困っていたようだ。そして困窮しているのは多分上野さんだけではないだろう。つまりこうした人たちがいろいろな「創意工夫」で暴走している可能性は大いにある。そして上野さんの例でわかるように露見しても議員辞職はしなくて良い。だから、こうした行為は病気のように自民党内で蔓延するだろう。政策に強いいわゆる「保守本流」や石破さんたちの新派閥ではこんなことは起こりそうにない。ある程度倫理力がないと組織が保たないからである。
野党は「あっせん収賄の疑いがある」と騒いでいるのだが、あっせん収賄が証明できなかった場合のプランBについては考えていないようだ。つまり騒ぐだけ騒いで終わりになって「ああまたか」と思われる可能性が高い。そして野党が何か決定的なことを見つけないとマスコミは乗らないし有権者は騒がない。裏を返せば「野党が騒ぎマスコミが揺れる」ところまでは問題は膨らむということである。もちろんどれくらいの時間がかかるかはわからないのだが、ブレーキがないのだからそれは確実に進行するだろう。
上野宏史氏は東大を出てハーバード大学にも留学している。官僚になったこともありかなり頭が良い人なのだということがわかる。ただ、有権者は政策ではなく「上野さんの家の娘婿だ」という理由で票を入れている。あのお家のことはよく知っているから何かあれば面倒を見てくれるのではと思っている人が多いのかもしれないし、そこまで深く考えずに票を入れている人も多いのだろう。そして上野さんが政策で重用される可能性はない。武闘派の保守傍流は政策など気にしない。だから上野さんの才能が活きることはない。極めて残酷な話である。
そして、有権者は「なんとなく安心だから」という理由で票は入れてくれるが「保守の敵陣営に勝たなければならない」という動機はないし、政策も気にしない。つまり、上野さんは地元からも経済的支援も政策への理解も得られない。勝ちすぎた自民党にはそういう人がたくさんいるはずだ。ある意味才能の墓場と言える。トップである安倍首相の考える「ボクの政策」を支持するためのコマに過ぎないのだ。こんななか倫理観が働くはずはない。個人の論理では動けないから、良し悪しの判断を個人でしなくなってしまうからである。そ
経済的な困窮とブレーキのなさが合わさると内側から崩れるのが早まるのかなと思う。その時に野党の受け皿はできていないわけだからかなり大変なことになるだろう。小選挙区制度を導入し党の権限も強化したはずなのに昭和末期から平成にかけての政界再編騒ぎみたいなことがまた起こるだろうということになる。
日本の政党政治にはなんらかの欠陥がありそれが修正されていないのだろう。多分欠陥とは個人の考えを擦り合わせた上で社会化するというプロセスそのものだ。そう考えると自民党が破壊される前に議会制民主主義そのものが野党も巻き込んで壊れてしまうのかもしれない。