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アメリカはもう助けてくれない – 憲法第9条議論の新しい展開

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参議院議員選挙期間なのだが重要なニュースが流れてきた。だが多分選挙期間中は話題にならないだろうし、そのあとも冷静には評価されないだろう。

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産経新聞は「米軍トップのダンフォード氏、ホルムズ海峡などでの有志連合結成を表明」とヘッドラインをつけている。これだけ読むとアメリカがホルムズ海峡を守ってくれるような気がする。だが、最近では一つの新聞を読んだだけでは何が正しいかがわからない。毎日新聞は全部が記事が全文公開されているわけではないが「米国 タンカー護衛せず ホルムズ海峡など、有志連合の結成を検討」と書いている。

産経新聞のタイトルはアメリカが主導して有志連合をつくると読めるのだが、毎日新聞は「アメリカはホルムズ海峡から手を引いた」と読める。そこで産経新聞を読んでゆく。

有志連合の結成は、日本のタンカー2隻がイラン沖で攻撃された事態などを受けた措置。米海軍が指揮統制のための艦船を派遣し、ISR(情報・監視・偵察)活動を主導する。参加国は米艦船の周辺海域を警備する一方、自国の船舶を護衛する。

米軍トップのダンフォード氏、ホルムズ海峡などでの有志連合結成を表明

アメリカは、イランでの偵察活動に各国を協力させるが各国のタンカーは知らないといっている。勝手に状況をエスカレートさせておいて手に余るようになったら各国に協力しろといっているのである。その裏にあるのはあまり冷静とは言えないイラン敵視論のようである。

アメリカの「関心」とは何なのだろうか、これについて英語版Quoraで回答がついた。書きぶりはあまり冷静とは言えないが一応歴史的経緯は踏まえている。

BP(ブリティッシュペトロリアム)はイランに権益を持っていたが1950年代に一度奪われそうになる。石油メジャーがイランの石油を売れないようにしてこれを阻止した。次にイラン皇帝がアメリカと組んで近代化を図る。つまり、米英はイランに権益を持っていた。米英はそれが「イスラム勢力に奪われた」ことに怒っているということらしい。もちろんこれだけが正しいのかはわからないのだが、イギリスがいち早くイラン封じ込めに協力した理由はわかる。ジブラルタルでシリアに向かうイランのタンカーを拿捕したりしている。現在、BPのタンカーはイランの報復を恐れて避難しているそうだ。つまり、もともとこれは米英とイランの「戦い」なのだ。

例えて言えば恨みを持っている二つの家がご近所争いをしているところに「お前はどちらの見方をするんだ?」と凄まれているというような状態である。これは局所対立が世界大戦化してゆく典型的なシナリオだ。

日本は状況をエスカレートさせるなと抗議しても良いはずなのだが、米軍に国土の一部を実質的に占領されている状態では頭が上がらない。そればかりか、今回の件は日本のライバルである中国にとって良いチャンスになっている。国際政治学者の鈴木一人さんがこう書いている。

こうしたかなりカオスな状態で国内の改憲世論は二つに割れるだろう。改憲派は自主独立を望みながらアメリカの威光にすがっているということは認めたがらない。そこに中国の脅威が出てくるので「依存を強めながらも強がりを言う」ことになるだろう。逆に護憲派の人たちは「アメリカが守ってくれるわけでもないのだから従米で戦争に巻き込まれるのは嫌だ」と騒ぎだすに違いない。こちらはこちらで、外交が全てを解決してくれるはずという考えに固執するに違いない。

日本人はかつてない世界に住んでいる。アメリカも国際的な協力もあてにできないという極めて無秩序な世界である。だが、日本人はそのことを認めようとはしないだろう。こんな中、選挙期間中の日本は実は極めて深刻な事態に陥っている。

この報道について野上官房副長官は10日午前の会見で、「ホルムズ海峡における航行の安全を確保することはわが国のエネルギー安全保障上死活的に重要」とした上で、「コメントを差し控えたい」と述べた。さらに打診があれば参加するかとの質問には、「イラン情勢を巡り日米間で緊密にやりとりをしているが、詳細は控えたい」と答えた。

米、イラン沖などの民間船舶護衛で「有志連合」結成目指す-AP

急激に変化する状況について行けず、自民党政権はついにフリーズしてしまったようだ。与党が選挙活動をやめてしまえば「野党に取って代わられる」という日本人独特の危機意識があり国防や石油の安定確保のことなど考えられないのではないだろうか。実は日本に必要なのは国民の自由を奪う緊急事態条項ではなく、緊急時に与野党が話し合える環境なのである。

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