米大統領訪日中に通商問題の合意ない見通し=茂木再生相という変な記事を見た。普通なら「合意があり日米が仲良くしている」ことをアピールしたいはずなのに、なぜ合意がないことを盛んに宣伝したがるのだろうかと不思議に思った。
多分、大方の人は日本がアメリカに押し切られるだろうことを見越しているのだろう。軍事的にアメリカに守ってもらっている以上、最初からまともに交渉できるとは思っていないのである。だから「トランプ大統領を接待して機嫌をとり嫌なことを先延ばしにしよう」と考えていて「それができるのは名接待部長の安倍さんしかいない」ということになっている。日本が弱体化していると感じれば感じるほど、自民党にとっては有利に働くのだ。
ところがこれをわかりやすくトランプ大統領がぶち壊しにしてしまった。あまりにもわかりやすいので笑ってしまったくらいだ。
Great progress being made in our Trade Negotiations with Japan. Agriculture and beef heavily in play. Much will wait until after their July elections where I anticipate big numbers!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) May 26, 2019
対日貿易交渉で偉大な進展が作られつつある。農業と牛肉は重点項目だ。大きな数字になるだろう7月の総選挙まで待たなければならないが……
このbig numberが何なのかわからないがおそらく自民党が大勝するだろうということを指しているのではないだろうか。
ワシントンポストの記事を読むと、日本側は交渉に慎重でありそれをアメリカ側が押し切ろうとしていることがわかる。トランプ大統領が主に農業牧畜のことを書いているのをみると、日本は自動車や機械部品を取って農業をアメリカに差し出したのかもしれない。
ただ「日本がアメリカに負けたさあ大変だ」と騒ぐのもまたどうかと思う。ワシントンポストの記事の中に貿易収支の図表が出てくるのだが、中国があまりにも目立っていて日本の黒字は小さく見える。やはりアメリカのメインターゲットは中国なのだ。
さらに、前回見た「実は日本は儲けている」という話を加味すると話がちょっと変わってくる。前回見た「日本は儲かっている」は貿易黒字の話ではなく経常黒字の話だった。つまり、日本はアメリカに直接・間接的に投資して儲けているのであって、貿易では負けても構わないのだ。特に農業分野で負けたとしても「国としてはそれほど重要な問題」にはならない。
問題は、安倍首相がそれを隠して国民に言わなかったことだけなのだが、結局おしゃべりなアメリカの友達にSNSを通じて全部バラされてしまった。当然、野党はこれを攻撃材料に使ってくるだろう。
農産物とりわけ牛肉について大幅に譲歩することになっているなら国民に説明すべきだ。7月の選挙の後(after their July elections)に明らかになるなんて国民に対する騙しだ。牛肉の関税についてはアメリカの国内事情もありTPPの水準(9%)を超えて0%になる可能性もある。まさに選挙の争点にすべき案件。 https://t.co/v7xcRVDRpH
— 玉木雄一郎 (@tamakiyuichiro) May 26, 2019
こうした騒ぎは裏腹に、アメリカが日本との間で貿易赤字を解消しても根本的な問題解決はできない。資本という面ではアメリカは利子を払い続ける側の国である。依然としてアメリカは経常収支では大赤字であり、それは隠されたままである。
もちろん、日本も国として「企業が儲けている」ことは隠しておきたい。企業が本業以外で儲かっていることが周知されてしまえば「企業が法人税で応分の負担をすべき」という共産党の声が支持を集めかねない。99%運動は社会主義が挫折した後にできた新しい大衆運動だが、日本では火がついていない。共産党はこれに乗って勝ちかねないのである。
日本が儲けているということを隠し貿易問題に必死になっている姿を見せることで自民党は国民の期待を集め続けることができる。
トランプ大統領も本来は「貿易赤字を多少改善したところで全体的な状況が変わるわけではない」ということはわかっているのだろう。が、資本分野の収支は隠して、製造業と農業の味方であるとアピールし続けたいに違いない。結局重要なのは製造業や農業の人たちの先頭に立って「庶民の味方である」という絵を見せ続けることなのである。共和党は実際には1%のお友達でしかないのだが、大衆に「自分たちの味方だ」と信じ込ませるだけで大衆はやすやすとトランプ大統領を応援してしまう。しかし、こうした演劇に手を染めていない民主党は99%の支持が得られない。
改めて引きの絵で見てみると、資本主義が終局に入った国の民主主義ではこのようにおかしなことが横行するのがわかる。問題が複雑なので権力者たちがいいように切り取ってしまい、マスコミもそれに追随してしまうのだ。
それでも、トップリーダーたちがゴルフをしたり相撲レスラーにトロフィーを渡したりするだけで大衆は安心してしまう。その意味で我々は資本主義が崩れゆく最後の瞬間を目撃しつつあるのかもしれない。我々の社会は複雑になりすぎてしまったのである。