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追い詰められた厚生労働省官僚が韓国の空港ででピンポンダッシュしてしまった件

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質問サイトというのは面白い。先日書いていて図らずも安倍首相の功績について書いてしまった。が、論理的に導き出したものなので感覚とずれていてもこれは「正解」なんだろうと思う。ただ、この<正解>は政治を救う代わりに官僚機構を破壊したと思う。

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質問は、嫌韓・嫌中の人はなぜ日本の家電で韓国製品に遅れをとっていることが気にならないのかというものだったが、「家電と韓国は関係ない」と言っている回答者が多いことに気がついた。日本の家電が優れていたことを知らない人が出てきているのである。

そこで嫌韓には二つのフェイズがあるのだろうと書いた。ゴーマニズム宣言の初期には実は韓国は日本のライバルではなかった。1988年にオリンピックが開かれ民主化が始まる。このあと1991年から1992年にバブルが弾ける。ゴーマニズム宣言が最初に書かれたのは1992年頃だそうである。そして多くの人はバブル不況はいつか終わると思っていた。

この後、徐々に韓国の家電が市場に出回るようになり、日本はアジア唯一の優等生ではなくなってしまう。それどころか証券会社が潰れたりすることになった。日本がまとまれないのにどんどん韓国や中国が伸びてくるのを目の当たりにした時、日本人の中に焦りが生じた。これが嫌韓発言につながってゆくのである。

ところが、今の嫌韓はそれとは違っている。もう若い人たちは日本が家電大国だったという時代は知らないので韓国をライバル国だとは思っていない。だから回答として「なぜ家電を持ち出すのか」などと言ってしまうのだ。すると、韓国がライバルではないのになぜ嫌韓発言が出てくるのかという謎が生まれる。

これについて考えていて、一通り回答を書いてから「2009年頃が断層だったのだな」と思った。2009年の政権交代から東日本大震災のあった2011年をはさんで民主党政権が終わる2012年頃までに状況が変わってしまったのだ。

自民党が下野してから二つのことが起こった。天賦人権がいけないから自民党が下野したという憲法改正論と、保守系の「安倍晋三を慰める会」である。もともと、北朝鮮からの拉致被害者奪還でその界隈のヒーローになっていた安倍晋三が保守系雑誌と接近したのである。

このころの日本人が気にしていたのはこれまで循環的に起きていた好景気が消えてしまったということだった。つまり高度経済成長期が終わり低成長の時代に入ったことを気にしていたわけである。そしてこれを「デフレ」という本来の経済用語ととは違う言葉で説明しようとした。そして民主党はそれに乗って「デフレを起こしているのは自民党政治だ」と単純に説明した。多くの人たちはこの話に乗ったが、一部の人たちは自分たちの日本が攻撃されていると感じたのだろう。「日本を取り戻す戦い」を始めてしまう。

民主党政権が国民に失望されて終わると、安倍首相は円を下げて株をあげてみせる。これがリーマンショックの回復期に重なった。すると投資が割安になった日本に集まるので株価が上がる。安倍首相は「これで経済は回復しましたよ」と宣言した。これが「もはやデフレではないという状態を作り出す」という意味である。

もともとデフレでないものをデフレといっていただけなので、もはやデフレではないというとあたかも安倍晋三が何かをしたように見えてしまうわけだ。経済がわかっている人にはこんな無茶苦茶なことは言えない。だが、引き続き経済がよくなったわけではなかったからなんらかの敵の設定が必要である。

ちなみに本当の敵は明確である。大企業が生き残りを図るために労働者と零細企業を犠牲にしているのだ。ダイヤモンドオンラインに「大企業の著しい利益増加は零細企業の惨状と人件費抑制が原因だ」という野口悠紀雄の分析があるが、経済がわからない人が見たら「野口さんは共産党員なのか」と思うだろう。安倍首相跛行したまともな分析を「日本を奪いたい人たちが難しいことを言って人々をたぶらかしているのだ」と思わせることに成功したのだ。

安倍首相は嫌韓・嫌中思想を自民党の中央理論として組み込んだ。もともと産経新聞と組んで北朝鮮拉致問題解決のスーパースターだったという成功体験があり、下野している時にこの時に知り合ったお友達の人たちと「本当は自分たちは悪くない」というような繰り返していた。つまり下野のルサンチマンの攻撃先を「中国と韓国」に切り替えるのに成功した。つまり、安倍首相は「自民党が下野する理由」をなくしただけでなく「新しい浮動票」を捕まえてきたのである。この時点で嫌韓思想の持ち主は単なるルサンチマンに囚われた惨めな人たちではなく「日本を取り戻す崇高な闘い」の闘士となり聖なる闘いに組み込まれた。

安倍首相は自民党の中で唯一浮動票を惹きつけることに成功した稀有な政治家なのだが国会運営は必ずしも上手ではない。このため党内には首相・総裁分離論があるそうである。日経新聞が伝えている。

とはいえ現状では総裁4選の現実味は乏しい。自民党は連続2期までと定めていた総裁任期に関する党則を連続3期までに変えたばかりだ。いま60歳代の「ポスト安倍」の有力者らはあと5年たてば70歳をうかがう年齢になる。

そこで安倍氏が首相は続投し、総裁は別の誰かが務めればよいというのが、外交面からの総総分離論だ。

外交からの「総総分離」論 

これを唱える人たちは安倍首相の強さがある層の人たちを「宗教的に」引きつけているということを本能的に知っている。宗教的な勢力を祭り上げて分離することにより自分たちは利権の確保に邁進し、外交的勝利に邁進する安倍晋三という男がスターでいつづける宗教的伝説を作ろうとしているということになる。

もともとバブル崩壊のショックから立ち直れずに犯人探しをしていた「正解のない状態」から、アジアにおける法秩序と自由を「取り戻す」闘いというありもしないプロジェクトを作り出したのが安倍晋三という人の成果だということになる。つまりある種の「アウフヘーベン」が図られたということだ。

こうした中で面白いニュースが入ってきた。厚生労働省の武田康祐賃金課長が韓国に行って暴言を吐いたというニュースである。意味のわからないニュースだが、多分官邸がニュースをもみけすだろうから、こちら側で勝手に分析するしかない。調べてみるとこんな記事が見つかった。

武田氏は今月7日、最低賃金の全国一律化を目指す自民党議連の会合で、外国人労働者受け入れ拡大の対象となる14業種に関し、一律化を目指す意向を表明。直後に菅義偉官房長官が全面否定し、発言が問題視された。武田氏は19日、フェイスブックに「変な国です」などと投稿。20日には最低賃金に関する自身の発言を念頭に「また新聞沙汰(笑)」とも記載していた。

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これだけを読むと外国人人材と日本人の最低賃金の話に見える。だが、実際は違っている。これは14種について日本国内の最低賃金を統一しようという動きなのである。黙っていると最低賃金の高い東京に人が集まってしまうので地方に人がいつかない。だから東京の最低賃金を地方並みに抑制することで人口流出を抑えようとしているのである。

政府は、地域間で異なる最低賃金について、全国一律化を業種別に導入する方向で検討に入った。四月に始まる外国人労働者の受け入れ拡大の後、労働者を地方へ定着させる効果を狙う。厚生労働省が七日の自民党議員連盟会合で明らかにした。厚労省は、建設や介護など受け入れを拡大する十四業種を対象にすることを想定。外国人だけでなく、日本人も対象となる。

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自民党は地方で支持されている政党なので地方の人たちは大喜びだろう。だが、東京や大阪では支持を失っている。もし自民党が「東京・大阪の最低賃金を抑えようとしている」というニュースが出回れば自民党は都議会選挙、大阪府知事選挙、大阪市長選挙などで不利になるだろう。

つまり「武田さんに動かれたら選挙に不利なので」党側が武田さんを黙らせようとしていたかもしれないという推論が成り立つ。だから金浦空港での大暴れは武田課長にとってみれば「体当たりの聖戦」なのかもしれない。韓国に言って「韓国が嫌いだ」と叫べばその界隈のスターになり安倍首相に可愛がってもらえるかもしれないではないか。

このくらいの説明をしないとこの理不尽な動きは説明ができないのだが、もしそれが当たっているとすると、官僚のモラルは完全に破壊されているということになる。嘘と隠蔽が飛び交う中で、何が正しくて何が間違っているのか誰もわからなくなってしまっているということである。

安倍政権は選挙に勝つことだけを優先し大企業を温存し零細企業と労働者を潰す道を選んだのだが、NHKしか見ない有権者はこれに気が付かなかった。今度は自民党が疲弊させた地方がもっと安い人材をと要求してきたので、大都市の最低賃金を抑制しようとしている。これは確実に都市に貧困をもたらすだろう。だが、日本の高齢者はNHKしかみないし、若い人たちは日本を取り戻す戦いに夢中である。この安倍政権の戦略は成功することになるのかもしれない。

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