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民主主義は改革と現状維持の間で揺れ動き、やがて人々を失望させる

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最近、Quoraで中国や韓国について非難したい人たちの質問をよく見るようになった。

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もともと批判封じのために回答を書いていたのだが、いったん回答を書くと中国や韓国に興味がある人ということになってしまう。すると「中国は人権抑圧国なのでくだらないですよね」とか「韓国はけしからんから断交すべきではないですか」と同じような質問がうじゃうじゃと湧いてくる。ついには中国人の留学生がきれいな日本語で民主主義にはいろいろな形態があると淡々と訴えるという展開になってきた。日本語能力も論理構成もあきらかに質問者たちより上で「ついに民主主義についても中国人に教えてもらわなければならない国になったのか」とさえ思った。

これは日本の議会政治や経済が行き詰っていて国民の間に肯定感が持てなくなってきていることと関係していると思う。そうなるとうまくいっていない国を探して自己肯定感を得たいのだろう。

それにしても、韓国が日本を攻撃するニュースを見る機会が増えた。背景にあるのは韓国の経済の行き詰まりである。韓国の失業率は上がっており、これが文在寅政権への不満につながっていることがうかがえる。そうなると反日カードが出てくるのはしかがたないことだ。李明博政権の末期もそうだったが、文在寅政権は早くも反日カードが必要な状態になっており、手軽なネタが必要な日本のテレビの格好の情報ソースになっている。日本のテレビ局も取材費用が限られており、お手軽で取材が必要のない反日ネタは、緻密な分析が必要な政府批判よりも「コスパが良い」のではないか。

しかし、アルゼンチン・ベネズエラ・1970年代のアメリカの状況を少し観察したあとだと、改革の失敗も取り立て珍しいこととは思えない。つまり、韓国だけがダメな民主主義国というわけではないのだろう。

長期政権は必ず時代について行けなくなるので、どこの国も揺り戻しとしての改革願望が起こる。日本が2009年にオバマ熱に浮かされて民主党政権を誕生させた時にも似たような気分はあった。しかしながら、こうした改革政党が政権に長く居続けることはできない。彼らは経済運営と政権運営に不慣れだからだ。このため高い確率で不完全燃焼感が生まれ、やがて有権者は失望する。

日本の民主党政権は社会主義者が官僚に騙されたような政権だった。経済について無知で不慣れな人たちは「予算なんか適当に書いておけばあとで官僚がなんとかしてくれるし、それでもダメだったらごめんと言えばいいんだよ」という官僚経験者の言葉を鵜呑みにした。そして野田政権が官僚と勝手に話し合って「ごめんなさい」とも言わずに消費税をあげたことで国民の信任を完全に失ってしまったのである。だが、安倍政権が悪夢と言っている時代を民主党が作ったわけではない。彼らには自民党の失敗を押し付けられたという側面もある。

例えば、前回見たカーター政権のスタグフレーションの原因は必ずしもカーター大統領が作り出したものではなかったようだ。長年のベトナム戦争の経済的負担があり、またアメリカの製造業も競争力を失いつつあった。多分、戦争需要がなくなったこともあり経済が不調に陥ったのだろう。しかし有権者にはそんな難しいことはわからない。だから、カーター大統領は国民から信任されなくなり、政権を失った。

韓国の中央日報は野党議員の痛烈な批判を取り上げている。韓国の場合、Jノミクスを掲げて「社会主義的な」賃金の引き上げを行ったのだが雇用は減り続けている。韓国人が仕事を取り戻すためには最低賃金の引き上げと同時に競争力の改善を行わなければならないのだが、長年「弱者の側」にいた文在寅とその側近たちにはどうすることもできないのかもしれない。

改革疲れのあとにくる政権はかつて人々が失望した政権の劣化版である。トランプ政権はオバマ政権の揺り戻しの結果できた政権だが、次々と敵を名指ししては「あいつらが悪いからあなたたちが得られるはずの利益が得られなかった」と言っている。これはブッシュ政権が中東を指差し「我々の敵はあそこにいる」と言ったのに似ているが、やり方は格段に稚拙である。

安倍政権の場合にはもっと悲惨だ。とにかく株価を上げ円の価値を下げ、あとは統計をごまかして悪い数字さえ出さなければ国民は納得してくれると思っている。だが、実際にそれを支えているのは有権者である。中でもこれまで政治がわからなかったという感覚を持つ人たちが「やっと政治が我々に近づいてきてくれた」として感激するのだ。

自分たちが生きている間だけ制度が維持できればよいと考えてしまう人たちにとってこの政権はとても都合が良い。だが、請求書はかなり大きなものになるだろう。予算委員会では万博招致にウキウキした自民党の議員さんが「いつ頃までに何の金を出すのかのリストを出せ」と言っている。兆円という単位の予算を扱う彼らには財政が厳しいという実感はないのだろう。

このことから俯瞰的に政治を眺めると、民主主義を運営するには、保守・リベラルをバランスよく成長させることが重要だということがわかる。ダイエットと同じで運動だけしていればいいわけでもないし、絶食すれば痩せるというものではないというのと同じである。だが、それは一度体を壊してみないとわからないことなのかもしれない。

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